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地震による建物被害

第2回  東日本大震災による、近代的ビルの津波被害を検証!

執筆者

福山 洋
独立行政法人建築研究所 構造研究グループ長 工学博士
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近代的ビルの初めての津波被害

2011年の東日本大震災では、陸前高田市・南三陸町・女川町などで、4階建てや5階建ての建物が完全に水没するほどの高さの津波に襲われ、周辺にあった木造の建物は全て流されました。(写真1)のように、津波の跡には鉄筋コンクリート造や鉄骨造のビルだけがぽつんと残されて建っている様子が見られました。

しかし、よく調査をしてみると、そのようなビルの中にも、倒壊などの大きな被害を生じたものがありました。近代的なビルが今回のような大規模な津波を受けたのは初めての経験でしたから、その被害状況を調べることは、将来の津波対策のために大切なことです。ここでは、津波によるビルの特徴的な被害のパターンを見ていきましょう。

津波によるビルの被害パターン

戸建て住宅を除く鉄筋コンクリート造や鉄骨造建物の特徴的な被害のパターンは、(写真2)に示すように、a倒壊、b転倒、c移動・流失、d柱や壁の破壊、e内外装材の破壊・流失、f洗屈、g漂流物の衝突でした。それぞれについて以下に説明します。

a 倒壊:(写真2-a)は、完全に“倒壊”した鉄筋コンクリート造2階建ての建物です。港の目の前に建っていたところを津波が直撃しました。倒壊した様子から、津波による横からの力が建物の耐力を上回ったと考えられます。

b 転倒:建物が完全に横倒しとなる被害が、4階建てまでの建物に見られました。女川町では少なくとも6棟の建物に転倒の被害が見られました(写真2-b)が、このような例はこれまでに報告がなく、初めての経験でした。

c 移動・流失:津波の強い流勢によって移動した建物(写真2-c)や、どこに流されたか分からなくなった建物がありました。これも、いままで経験したことのない被害です。

d 柱や壁の破壊:建物の外部に面した柱や壁が、津波による外部からの大きな力で(写真2-d)のように曲げられ、破壊された建物がありました。柱や壁は、津波の第2波や余震に対して抵抗し、建物の倒壊を防ぐために必要な部材ですから、このような破壊は避ける必要があります。

e 内外装材の破壊・流失:内装材や外装材が津波の力で破壊され、流失した被害が見られました(写真2-e)。特に、鉄骨造では外装材がほとんど流され、鉄骨の骨組みだけが残された建物が多く見られました。外装材が流された後は、津波が建物の中を通過し、建物に掛かる津波の力が小さくなります。これが骨組みだけが残った理由と考えられます。

f 洗屈:津波の強い水流によって建物の隅角部に強い渦が発生し、それにより大きな穴が開けられた跡が多く見られました(写真2-f)。この現象を洗屈と呼びます。洗屈による穴に建物が倒れ込み、傾斜した被害も見られました。

g 漂流物の衝突:津波の際には、流木、自動車、コンテナ、船舶、倒壊した建築物の一部など、さまざまな漂流物が建築物に衝突します。これらにより、窓ガラスやベランダが破壊されたり、鉄筋コンクリートの壁に穴が開けられた建物(写真2-g)が見られました。

転倒のメカニズム

(写真3)は、女川町で転倒した建物の一つで、鉄筋コンクリート造の2階建て冷凍倉庫です。倉庫ですから、窓が少ないのが特徴です。この建物は、(写真3)の白いコンクリートブロック塀の手前に建っていましたが、津波の後は塀の向こう側に転倒していました。しかも、塀の半分ほどは壊されずに残存しています。これは、この建物が水没した後に浮き上がり、津波の水流で塀の向こうへ流されて、転倒したことを物語っています。

でも、みなさんは建物が浮くなど信じられますか。ここでは、その可能性について考えてみましょう。一般に、鉄筋コンクリート造建物の各階の平均的な重量は、1平方メートルあたり12~13kN(キロニュートン)程度です。今、この建物が完全に水没した状態を考え、各階の高さは3mで全て空気で満たされていると仮定すると、浮力はアルキメデスの原理から、空気の体積を水に置き換えたときの重量で表すことがきます。

これを計算すると、1平方メートルあたりの空気の体積(3立方メートル)×水の比重(1,000 kg/立方メートル)×重力加速度(9.8 m/秒)= 29,400 N = 29.4 kNとなります。つまり、下向きに働く建物の重力(12~13kN)よりも、上向きに働く浮力(29.4kN)の方が大きくなり、建物は浮き上がることになります。実際には、津波によって窓ガラスが簡単に割れ、窓から大量の水が建物内に流入しますから、空気の層の高さはもっと低くなり、浮力も減ります。しかし、それでも空気の層の厚さが1.2~1.3m以上あれば、建物の自重はキャンセルされ、浮き上がることになります。特に倉庫の場合は窓が少ないため、建物内への水の流入量が少なく、それだけ浮力が大きくなって浮き上がりやすかったといえます。

この浮力は建物の転倒にも大きな影響を及ぼします。(図1)は、津波の際に建物に掛かる力と転倒のメカニズムの関係を表しています。まず、(図1)の赤の矢印のように、津波による力が横から作用すると、黒丸の点を中心に建物を反時計回りに回転させようとします。つまり、その方向に建物を転倒させる力として働きます。建物に働く力がこれだけだと、建物は簡単に転倒してしまいますが、実際にはどのような建物も、それ自体の重量(これを自重といいます)が建物の中心に下向きの力として働いています。(図1)では青色で表される力です。

この自重による力は、黒丸の点を中心に建物を時計回りに回転させようとします。つまり、津波の力によって建物を転倒させようとする力に抵抗する力として働きます。津波で転倒させる力よりも、自重で抵抗する力の方が大きければ建物は転倒しません。一般に建物はとても重いので、そう簡単には転倒しないものなのです。しかし、津波によって建物の周囲の水かさが高くなると、建物には大きな浮力が働くようになります。浮力を(図1)では緑色で表しています。この浮力は建物の自重と逆方向に作用しますから、ちょうど建物が軽くなって自重が減った形になります。そうすると、自重による転倒に抵抗する力が小さくなり、転倒しやすくなるというわけです。

津波に対する構造設計

津波の際には、高台へ避難することが原則です。しかし、海岸付近で近くに高台が無い地域では、避難のためのビル(これを「津波避難ビル」と呼びます)をあらかじめ用意しておく必要があり、これによって、その地域の方々の命が守られます。つまり、「津波避難ビル」には、高台に匹敵する十分な高さと強さが必要なのです。東日本大震災後、被災地の復興のため、また、他の地域で将来発生が予想される津波への対策のために、「津波避難ビル」の構造設計法が法律に基づく技術基準としてまとめられました。そこでは、東日本大震災で見られたビルの被害パターンに基づき、安全を確保するための技術や考え方が盛り込まれました。では、その内容を見てみましょう。

津波の際には、強い水の流れが建物にぶつかり、横からの力が建物に掛かります。これは、地震で建物が揺れる際に、横からの慣性力が建物に働くのと似ています。耐震設計では、建物を柱、はり、壁、床などからなる計算用のモデルに置き換え、それに横からの地震の力を作用させ、建物の各部分に生じる力を求めます。そして、その力が建物の各部分が耐えられる力を超えず、どこにも破壊が生じないことを確認します。津波に対する設計も、これと同様な方法で行うことができます。ただ、建物には横からの力と下向きの重量に加えて、浮力による上向きの力も作用する点が、耐震設計と異なる点です。

津波に対する構造設計の目的は、建物が津波によって「倒壊しないこと」「転倒しないこと」「移動・流失しないこと」の3点を確認することです。耐震設計では、倒壊しないことが一般的な設計の目的で、転倒や移動の検討が求められることは多くはありませんが、浮力が働く津波の場合には、転倒や移動の検証も行う必要があります。「倒壊しないこと」は、建物のどの部分にもそれが破壊するような大きな力が生じないことの確認、「転倒しないこと」は、津波により転倒させる力が、建物の自重に浮力を考慮した抵抗する力と、くいにより抵抗する力の和を超えないことの確認、「移動・流失しないこと」は、津波により建物に働く横方向の力が、建物下面の摩擦力を上回らないこと、もしくは、くいに働く横方向の力がくいの耐力を超えず破壊しないことの確認、この3点によってそれぞれ検証されます。

津波の際には、大木・コンテナ・自動車・大型船など、さまざまなものが漂流し、その一部は建物に衝突します。そのため、津波に対する設計では、漂流物の衝突を想定した検討も必要です。これについて、大木やコンテナなどが鉄筋コンクリート造建物の柱にある速さで衝突した場合、どのくらいの衝撃力が柱に働くかの検討が行われましたが、その結果、衝撃力は極めて大きく柱の破壊を確実に防ぐことは難しいことが分かりました。対策としては、建物の周囲に衝突防止の柵などを設ける方法や衝突して壊れてもよいダミーの柱を外周部に設けておく方法、さらには、柱が壊されても上の階を支える能力は失われず、建物としては崩壊しないことを確認する方法などが考えられます。

津波に対する設計で用いられる、建物に横から掛かる力は、津波の高さが10mを超えると、耐震設計で建物に横から掛かる力よりも大きくなることが多くなります。そのため、津波の高さが高くなることが予想される地域では、従来の耐震設計で設計されるより、さらに強い建物が必要となります。

(2013年12月27日 更新)