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液状化・地盤災害・土木被害

第7回  地震時に山間地を襲う地盤被害の怖さ

執筆者

安田 進
東京電機大学教授 工学博士
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地震による自然斜面の崩壊

わが国は山地が多いため至る所に「自然斜面」があります。また、山を縫うように道路や鉄道が走っており、「切り取り斜面」、「盛り土斜面」(のり面とも呼びます)が多く造られています(図1-1)。山から流れてきた川の水をためた「ため池」も数多くあり、各地に堤の斜面が見られます(図1-2)。

さらに、沢などには鉱山で金や銅を採掘した際に岩石を砕いた砂を埋めた特殊な堆積場もあります(図1-3)。強い地震動がこれらを襲うと、斜面が崩れて家や道路、鉄道などに被害を与えます。内陸で発生する地震では、マグニチュードが大きくなくても、直下で地震が発生して局所的に強い揺れになるので、このような被害が生じやすくなります。

山は大きく分けて2種類の方法で形成されます。一つは火山で、噴火で舞い上がった火山灰や軽石が堆積したり、溶岩が流れ出したりして山が出来ます。富士山に代表される成層火山ではこれらの作用が繰り返され、火山灰や溶岩が斜面と平行に層状に堆積しています。もう一つは隆起や褶曲(しゅうきょく)によって出来た山で、海底などに堆積した砂や粘土が固まった後、プレートの力などによって押し上げられ、さらに曲げられて山になります。この場合は砂が固結した砂岩と粘土が固結した泥岩などが層状に重なった斜面になっています。これらの地層の硬さや斜面の角度によって崩壊しやすいかどうか、また大崩壊が発生するか、表層だけの崩壊にとどまるかが異なってきます。特に層状に重なった境界面が20度や30度の角度で傾いていると層の境で滑りやすく、大規模な崩壊も発生します。

1984年、長野県西部地震の際に、御嶽山(おんたけさん)の斜面で大規模な崩壊がありました(写真1)。ここには数年前の噴火の際に堆積した軽石層の上に溶岩などが堆積していましたが、軽石層が長年の間に風化して軟らかくなっていたところに地震が襲い、その層を滑り面として崩壊が発生しました。

崩れた多量の岩や土砂は、10km余り下流まで時速100km弱の猛スピードで谷を下り、途中にあった温泉にいた人などが犠牲となりました。このような大規模な崩壊は予想が困難で対策も施せません。なお、崩れ落ちた土砂が川をせき止めて「土砂ダム」を形成し、その後、上流側にたまった水が「土砂ダム」を一気に崩して下流側に洪水を起こす危険性がありますので、地震後には「土砂ダム」の撤去も必要です。

水を含むと巨大な土石流(山津波)に

雨が降っていない時には斜面の土はあまり水を含んでいないため、崩れた土砂が流れ出しにくいのですが、御嶽山の大崩壊の場合は大量の土砂が谷に崩れ込み、さらに川の水を巻き込んだため、巨大な土石流(山津波ともいいます)を引き起こしたと考えられています。

2008年に発生した岩手・宮城内陸地震でも、栗駒山の山頂付近から同様に大きな土石流が発生しました。ちょうど雪融けの時期で、土は水を多く含んでおり、覆っていた雪も崩れた土砂に混じり、さらに沢の水を巻き込んだため、土石流となって流れ下ったと考えられています(写真2)。その約5km下流の右岸側に温泉宿がありました。地震で対岸の斜面が崩れて沢を塞いでいたところ、数分後にこの土石流が流れてきて、沢より少し高い所にあった温泉宿まで土石流が襲い犠牲者が出たと考えられています(図2)。

また、2009年に台湾を襲った台風では、3日間に3,005mmという前代未聞の降雨量となったため台湾南部の各地で斜面崩壊と土石流が発生し、約700名に及ぶ人命が失われ、土石流の力で52基の橋が被害を受けました(写真3)。豪雨によって発生した土石流は多量の水を含んでいるため、このように地震で発生した土石流より規模が大きく被害も甚大になります。

一方、地震で発生した浅い滑りの被害例もあります(写真4)。「自然斜面」は豪雨や地震の際に滑った面がそのまま斜面になっていることが多いので、元々滑りやすい不安定な状態にあります。さらに、長年の風化によって表層の数m程度の地層が弱くなっているので、地震が襲うと風化した表層が滑ってしまいます。このように滑る層が薄い場合には、斜面にアンカーを打って止めるなど、地震前の対策は可能です。ただし、滑りを起こしやすい箇所は全国に無数にあり、特に危険で人家に被害を与えかねない重要な箇所にしか対策を施せないのが実情です。

切り取り斜面と盛り土のり面の崩壊

道路や鉄道を建設する場合に生じる斜面は、崩れないような勾配で設計し、必要な場合には表面をコンクリートの格子枠を設けるなど、種々の工夫が行われています。ただし、これらは降雨時に崩れないように対策が施されているのがほとんどで、地震に対しても崩壊しないように設計し始めたのは最近になってからです。

したがって強い地震の度に道路の斜面の崩壊が発生してきました(写真5)。道路を建設する場合、自然斜面の一部を切り取ってその土で盛り土をします(図1-1)。「切り取り斜面」と「盛り土のり面」の2種類の斜面が造られますが、一般に「盛り土のり面」の方が地震で崩れやすい状況にあります。特に締め固めが不足しているとか、地下水位が高いとか、高さが高い盛り土では崩壊が発生しやすい傾向にあります。

最近、重要な道路では耐震補強をすることも行われ始めましたが、延長距離が長いため、なかなか対策を施していくのが困難な状況です。なお、幹線道路では道路下に水道管やガス管、通信ケーブルといったライフラインも埋設されていることがあり、これらも盛り土の崩壊と同時に被害を受けることがあります(写真5)。

ため池と鉱さい集積場の被害

わが国では昔から大変多くのため池が造られてきています。例えば821年に空海が改修したとされている香川県の満濃池もかんがい用のため池です。近年になって造られたダムは耐震設計を行っていますが、昔からの土を盛って造られたため池は地震によって崩れやすく、これまで大地震の度に多くのため池が被災しました。2011年の東日本大震災でも多くのため池が被害を受けました。そのうち、福島県の藤沼ダムは決壊し、貯水していた水が一気に下流に流れて、人家を巻き込み、犠牲者が出てしまいました(写真6)。

かつてわが国の山中には鉱山がたくさんありました。鉱石から金・銅・鉛などを取り出す場合、鉱石を砂粒かそれ以下に砕きます。その中からわずかの鉱物を取り出し、残った大半のもの(これを鉱さいと呼びます)を積み上げていきます(図1-3)。これは一種のダムですが、捨てるために積み上げているだけのため、地震時に崩れやすい状態にあります。しかも、廃坑となって長年たち、草や木も生えてそこが鉱さいを捨てた場所かどうか分からなくなってしまっています。

東日本大震災では3か所の鉱さい集積場が崩壊しました。そのうち1か所の堆積場では、鉱さいが液状化して「かん止堤(かんしてい)※」もろとも崩れ、下流の谷を流れていきました(写真7)。1978年の伊豆大島近海地震で、鉱さい集積場が被害を受けた後、通常の地震動に対する安定性の検討が行われましたが、今回の地震を契機により強い地震動での安定性についての検討が行われ始めています。

※鉱山で選鉱廃さいを処理するために造る脱水用のダム。テーリングダムともいう。

(2013年12月27日 更新)