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地震全般・各地の地震活動

第7回  いつ来る? 南海トラフ巨大地震 ~後編~

執筆者

平田 直
東京大学地震研究所教授、地震研究所地震予知研究センター長
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南海トラフの地震活動の特徴

歴史記録、津波堆積物や海岸と海底の変動地形の調査によれば、南海トラフ沿いでは過去に大地震が繰り返し発生していることは前編(第7回 いつ来る? 南海トラフ巨大地震 ~前編~/平田 直)で述べました。先史時代の大地震の発生間隔は「歴史地震」の研究から分かっている発生間隔より長い傾向がありますが、古い時代の研究では、大地震が漏れなく調べられていない可能性があり、注意が必要です。

計器で観測できるようになった近年の地震活動はどうなっているのでしょうか。気象庁が観測を始めて以来、南海トラフ沿いの地震活動は九州沖の日向灘での地震活動と、2004年紀伊半島南東沖の地震活動だけです(図1)。無感地震を含めても、紀伊半島沖や四国沖の南海トラフ沿いの地震は、大変少ないといえます。これは、東北地方の太平洋沖では地震が多いことと比較して不思議なことです(図2)。

一方、西南日本の内陸部に目をやると、M7程度の地震が平成7年兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)など、明治以降でも8回発生しています(参照:第5回 内陸の地震 図1/平田直)。これらの西南日本の内陸の大地震や被害地震は、大地震の前後数十年間では多いという研究もあります。

活発に動くプレート境界

南海トラフ付近では地震が少ないのですが、現在のフィリピン海プレートの境界付近は決して「静か」なわけではありません。非火山性低周波微動(低周波地震)、「ゆっくり滑り」が、プレート境界の深部で頻繁に発生して、プレート境界は活発に動いています(参照:第4回 プレート境界の巨大地震/平田直)

南海トラフでは、プレート境界の浅部で地震が発生することはなく、深部(深さ約30km)で「ゆっくり滑り」と低周波微動が繰り返しています。東北地方の太平洋沖では、地震が発生しても、「ゆっくり滑り」や低周波微動は発生していません。この原因も今のところよく分かっていません。しかし、次の南海トラフの巨大地震の前に、低周波微動や「ゆっくり滑り」の発生間隔などに変化が表れる可能性があるので、しっかりとした観測を続ける必要があります。

見直された国の地震災害評価

国の機関である地震調査研究推進本部は、平成25年5月に南海トラフの地震活動の長期評価を見直しました(1)。従来の評価(平成13年)では南海トラフを、「東海地震」「東南海地震」「南海地震」の3つの震源域に分けて、それぞれの領域で発生する地震の規模と発生確率を評価していました。これに対して、新しい評価では、「南海トラフ全域で地震規模と発生確率を評価し、個別の領域については評価しない」ことにしました(図3)。

近年の研究で、過去の大地震の姿が明らかになるにつれ、毎回地震の発生様式(大きなずれを起こした領域、地震規模)が異なることが分かってきたからです。つまり、東海地域の地震と南海地域の地震が同時に起きる場合(明応地震、宝永地震など)と、時間差があって発生する場合(安政地震、昭和地震など)があり、さらに東海地域の地震でも、御前崎より西側で断層のずれが止まる場合(1944年)、駿河湾奥までずれが広がる場合(1854年)がありました。

つまり、歴史記録や津波堆積物の調査などから、南海トラフで発生する地震は多様性に富んでいて、日向灘から土佐沖、室戸沖、熊野灘、遠州灘、駿河湾までの南海トラフ全体が破壊される場合(最大クラスの地震)から、それらの一部だけが破壊される場合まで、さまざまな可能性があるということです。

その結果、南海トラフのどこかで発生する巨大地震の長期評価は、地震規模がM8~9、30年以内に発生する確率は60~70%となりました。この確率は大変高いものです。しかし、次に南海トラフで起きる地震の規模は、M8からM9の間で、発生場所も南海トラフの全域か、ある一部なのか、現時点では評価できないことになったのです。

内閣府は、「南海トラフの巨大地震モデル検討会」を設置し、想定地震を設定するための検討を始め、平成24年8月末に「第二次報告」を発表しました(2)。この報告では、できるだけ過去にさかのぼって調査し、あらゆる可能性を考慮した最大クラスの巨大な地震・津波を検討しました。従来は、確実な記録のある過去数百年間に発生した地震だけに基づいて検討していたのです。

(1)地震調査研究推進本部・地震調査委員会(2013)、南海トラフの地震活動
の長期評価(第二版)について
http://www.jishin.go.jp/main/chousa/13may_nankai/index.htm
※NHKサイトを離れます

(2)南海トラフ巨大地震の被害想定(第二次報告)について(平成25年3月18日発表)
http://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/nankaitrough_info.html
※NHKサイトを離れます

新たな被害想定と減災対策の必要性

「南海トラフの巨大地震モデル検討会」の「第二次報告」では、地震調査研究推進本部の検討した最大クラスの地震(M9.0~9.1)と同様の巨大な地震を想定した地震動と津波高が推定されました。破壊される場所を変えて、地震動の計算には5通り、津波高の計算には11通りの場合について調べられました。この結果、神奈川県西部から鹿児島県にかけての広い範囲(約7.1万平方キロメートル)で震度6弱以上の揺れが想定され、震度7が想定される地域が、静岡県・愛知県・徳島県・高知県の中に、計0.4万平方キロメートル現れました。これは、前回の中央防災会議(平成15年)の想定の震度6弱以上で3倍、震度7で10倍の広さになっています。さらに、津波の予測では20mを超える高い津波の来る地域が広がり、最大の津波高が高知県で34mの場所が出るなど、大変大きな想定となりました。

これを受け「南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ」が平成24年8月に被害想定の「第一次報告」を行い、平成25年3月に「第二次報告」を発表しました(3)。その結果、死者の想定は20~30万人、資産等への経済損失も170兆円という膨大なものになりました。この報告では、これらの災害に対して、防災・減災対策を行った場合の効果も試算されています。

建物の現状の耐震化率(約79%)を100%まで向上させ、出火防止対策等を講じれば、建物倒壊による死者数を3万8,000人から5,800人へと15%に減らし、資産等の被害額は約80兆円へとほぼ半減させることができます。津波による犠牲者は、20mを超える津波に対しては早期に避難することが最も効果的であることが示されています。早期避難率が高い場合を低い場合と比較すると、死者数は2分の1~9分の1になります。全員が発災後すぐに避難を開始した場合には、10分の1以下にできる可能性があります。

災害を軽減するためには、将来起きる災害の姿を「予(あらかじ)め知る(予知)力」「それに備える(予防)力」「発災後に災害から復旧する(回復)力」の三つの力が社会に備わっていなければなりません。南海トラフで大きな地震が発生して、強い揺れと高い津波が来るという想定が出れば、賢い設計をして建物の耐震強度を高め、高い堤防や津波タワーを作ることができます。同時に、津波が堤防を越えて押し寄せて来る可能性も明らかになり、どのように避難するかをあらかじめ話し合って、災害からの回復力を高めるためにも活用できます。

前編を読む「NHKそなえる防災」第7回 いつ来る? 南海トラフ巨大地震 ~前編~(平田 直)

(3)南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ
http://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/taisaku_wg/index.html
※NHKサイトを離れます

(2013年12月3日 更新)