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異常気象

第2回  猛暑の後は厳冬か? 猛暑と寒波の関係とは

執筆者

中村 尚
東京大学先端科学技術研究センター気候変動科学分野 教授
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今年(2013年)の猛暑をもたらした要因

気象庁が発表したように、2013年の夏は気温が平年よりもかなり高く、特に西日本では観測史上最も暑い夏になりました。8月12日に高知県四万十市で41.0℃を記録し、2007年に観測されたわが国の最高気温の記録を更新。その前日には東京での最低気温は30.4℃でした。この「スーパー熱帯夜」とも呼ぶべき気温は、国内で過去2番目に高い記録です。

第1位は1990年に日本海側の新潟県糸魚川市で記録した30.8℃ですが、これは乾いた熱風が中部山岳を吹き降りる「フェーン現象」に伴うものでした。ですが、今年の東京の記録は「フェーン現象」という特殊な気象条件の下でもたらされたものではありません。大都市域ではクーラーからの排熱の影響などが広域の温暖化に重なるため、何らかの原因で夏の高気圧(小笠原高気圧)が異常に強まると、特に夜間・明け方の気温が下がらず、熱帯夜が連日続くようになります。

では、今年、小笠原高気圧が異常に強かった要因は何だったのでしょうか? 前回 (第1回 世界的な異常気象と地球温暖化/中村 尚)で、フィリピン周辺など日本の南方海上で台風が活発に発生すると、その影響で上空の「亜熱帯ジェット気流」が北へ蛇行して、地表の小笠原高気圧が強まる傾向(1)にあることを述べました。実際、全国的に異常高温に見舞われた8月中旬や、日本南部で異常に早い梅雨明けとなった7月上旬には、南方海上で台風の発達が見られました。

その他の時期には、さらに南方のインドネシア、ニューギニア近海の「海洋大陸」と呼ばれる海域で積乱雲がよく発達していました。台風においても発達した積乱雲の集団が組織化されています。積乱雲は多量の雨をもたらしますが、その際に莫大な凝結熱を出して大気を暖め、上昇気流をもたらします。これに対応してその北方に下降気流が引き起こされ、その影響で小笠原高気圧が強まるのです。「海洋大陸」で積乱雲の活動が特に活発だった時期には、小笠原高気圧が日本のすぐ南で強化され、西日本を中心に高温をもたらしたのです。

さて、どうしてこれらの海域で積乱雲がよく発達できたのでしょうか? それは、この夏を通じて海水温が平年より高い状態が続いたからです(図1)。元々水温の高い熱帯・亜熱帯の海上では気温も高く、その分だけ多くの水蒸気が海上大気に含まれています。また、同じ1℃だけ気温が上がっても、含まれる水蒸気量の増加は元々気温が高い空気の方が低い空気に比べて大きくなります。よって、熱帯・亜熱帯の大気に含まれる水蒸気量は海面水温の変動とともに敏感に変化し、それに伴い積乱雲の活動も水温変動に敏感に変化するのです。

熱帯のエルニーニョ現象とラニーニャ現象

(図1)を見ると、2013年夏には西太平洋の熱帯・亜熱帯域で水温が平年より高く、逆に熱帯太平洋東部では平年より冷たかったことが分かります。実は、赤道太平洋では平年状態でも東部より西部で暖かくなっています。このため、積乱雲の活動は平年でも西部でより活発で、そこに吹き込む東風(貿易風)が表面付近の暖水を西方に吹き寄せ、東部では深いところから冷水が湧いてくるのです。

この東西水温差が平年以上に強まった状態が「ラニーニャ現象」で、貿易風も強化されます。2013年はこれに近い状態でした(2)。対照的に、貿易風が弱まって東西の水温差がほとんど無くなる状態が「エルニーニョ現象」で、積乱雲の活動域は太平洋中部へ移ります(図2)。

ここまでの説明を読んで「あれ?」と思われた人がいるかも知れません。「エルニーニョ」や「ラニーニャ」の特徴を説明するのに、東西水温差の強弱から説明を始めても、貿易風の強弱から説明を始めても、結局は同じことになるのです。それは、これらが赤道太平洋で海洋と大気が結合して一緒に変動する現象だからです。ここで鍵となるのは、水温の高い熱帯海洋域で、水温変化に敏感に積乱雲の降水活動が変動することです。

降水域では気圧が低下して海上風が吹き込み、上昇流も強まります。こうして、海洋の変動として現れる「エルニーニョ」や「ラニーニャ」に伴い、熱帯太平洋の東西気圧差も変動します。これを「南方振動」と呼び、これら赤道太平洋での海洋と大気の結合変動をひとくくりにして「エルニーニョ・南方振動(ENSO)」と呼んでいます。

熱帯の持続的な水温異常がもたらす異常気象

前回(第1回 世界的な異常気象と地球温暖化/中村 尚)でも述べたように、「エルニーニョ・南方振動(ENSO)」に伴う熱帯降水域の変動は大気の加熱分布を大きく変化させるため、その影響は熱帯だけでなく中緯度の大気循環にも及びます。例えば、日本付近では「エルニーニョ」の冬には「ジェット気流」が北偏して、暖冬になりやすい傾向があります。これは「エルニーニョ」に伴って、海洋大陸からフィリピン近海にかけての水温が平年より低く、積乱雲による降水が少ないことが原因です。夏でしたらジェット気流が南へ蛇行して冷夏になる状況なのですが、冬では正反対の影響が現れるのです。反対に、もし夏から冬にかけて「ラニーニャ」状態が持続すれば、海洋大陸からフィリピン近海にかけて降水活動が活発な状態も続き、「暑夏→寒冬」という連鎖が現れる可能性があります。

なお、(図1)によれば、2013年の夏はスマトラ沖の赤道インド洋の水温も平年より高かったことが分かります。この海域の水温異常は北半球の夏季から晩冬にかけて強まる場合が多く、海洋大陸付近の積乱雲の活動に影響を与えます。もし水温の高い状態がこのまま持続すれば、「暑夏→寒冬」の傾向を後押しする可能性があります。

では、冬から夏にかけて熱帯の水温異常が持続したらどうでしょうか? 実は、「エルニーニョ」や「ラニーニャ」に伴う赤道太平洋域の水温異常は、北半球の冬季にかけてピークを迎えることが多く、春季は水温異常の動向が最も予測しづらくなる季節なのです。例えば、冬季の「ラニーニャ」状態が夏季までに解消してしまえば、「寒冬→暑夏」の連鎖は起きないように思えます。

しかし、前年の秋季から続き冬季にピークを迎える「エルニーニョ・南方振動(ENSO)」は、太平洋上だけでなくインド洋上の風系にも異常をもたらし、熱帯インド洋上層の熱分布を変化させます。この熱分布の異常は夏季にかけて持続し、たとえ「エルニーニョ・南方振動(ENSO)」に伴う赤道太平洋の水温異常が衰えても、熱帯太平洋西部の風系や積乱雲の活動に変化を与え続けるのです。こうしたインド洋の貯熱効果が働けば、冬季に「ラニーニャ」状態だった場合、引き続く夏季には日本は暑夏になりやすく、逆に冬季が「エルニーニョ」状態であったら冷夏となる可能性が生じるのです。

日本の天候を決めるさまざまな要因

このように説明してくると、熱帯太平洋やインド洋の持続的な水温異常に基づいて、日本の夏・冬の天候がきちんと予測できるように思えてきます。実際、現在気象庁から出される季節予報の重要な根拠の一つは熱帯海水温の動向ですが、それだけでは季節予報の精度が十分高まらないのも事実です。典型的な例は2010年の猛暑です。この年は冬季に東部赤道太平洋が平年より暖かく、「エルニーニョ」的な状況だったため、気象庁の予報官やわれわれ気候研究者は冷夏気味になるのではないかと懸念していました。事実、6月までは梅雨前線が北上せず、その影響により中国南部が大雨に見舞われ、かつ台風の発生が記録的に少ないなど、「エルニーニョ」に引き続く夏の典型的な状況が観測されていました。

ところが、7月中旬に、チベット高原北縁の上空を吹く「亜熱帯ジェット気流」に沿って、南欧・中東方面から「ロスビー波」 (参照:第1回 世界的な異常気象と地球温暖化・わが国に異常気象をもたらす要因/中村 尚)が伝わってきて、ジェット気流が日本上空で北偏しました(3)。地表では小笠原高気圧が北に張り出し、本州で梅雨が明け、猛暑がやってきました。その後、8月後半からは徐々に「ラニーニャ」的な状況となって、南方海上で台風が頻繁に発達するようになり、その影響で小笠原高気圧の勢力は強いまま維持され、日本列島は過去最も顕著な残暑に見舞われたのです(図3)。これは、亜熱帯・中緯度の影響が、「エルニーニョ・南方振動(ENSO)」に伴う熱帯からの影響よりも大きかった典型な例です。

このほか、前回(第1回 世界的な異常気象と地球温暖化/中村 尚)で触れた北極の海氷減少の遠隔影響は、夏から冬にかけての「エルニーニョ・南方振動(ENSO)」からの遠隔影響を現れにくくする要因となりえます。近年、北極海の海氷面積が以前より大きく減少し、その影響で寒冷なシベリア高気圧が強い傾向がもたらされるという仮説です。この仮説が正しければ、日本列島は「エルニーニョ」時でも暖冬にならないかも知れませんし、暖冬となっても時折強い寒気が南下して気温変動の激しい冬となる可能性があります。

実際、2009年、2010年の冬季は「エルニーニョ」の影響で平均してみれば暖冬でしたが、気温変動の非常に大きな冬となりました。それは、シベリアに蓄積した異常に強い寒気が時折日本列島に南下し、その度に著しい低温になったからです。この寒気の蓄積をもたらした要因が、2009年夏から秋にかけて起きた北極の海氷の大幅な減少だった可能性があるのです。

これまでお話ししてきたように、海洋大陸からフィリピン近海にかけて水温が高く、降水活動が活発な状態が夏から冬にかけて続けば、日本列島に「暑夏→寒冬」の連鎖がもたらされる可能性が出てきます。こうした状況は「ラニーニャ」状態が続けば、実現しやすくなります。さらに、もし最近顕著な北極の海氷の減少がシベリア大陸上の寒気の蓄積を促すならば、「暑夏→寒冬」の連鎖をさらに後押しするでしょう。こうした状況が整ったのが、過去最も暑い夏だった2010年で、晩夏から冬にかけて「ラニーニャ」となりましたし、北極の海氷も大きく減少していました。

ところが、翌1月には確かに強い寒波が襲来しましたが、12月や2月はむしろ平年より気温も高い状態でした。これだけ条件は整っても「暑夏→寒冬」という連鎖は顕著ではなかったのです。季節予報の難しさを物語る事例です。果たして、過去4番目に暑かった2013年の翌冬はどうなるでしょうか? この夏は北極の海氷はあまり減少しませんでしたし、「ラニーニャ」的な状態は徐々に解消しつつあるようです。

(1)この関係を「太平洋-日本・パターン」(Pacific-Japan: PJパターン)と呼びます。

(2)2013年夏の水温異常分布は「ラニーニャ」現象時のものに似ていますが、赤道太平洋東部の水温異常は特に強いものではなく、「ラニーニャ」現象発生とは認定されませんでした。

(3)この遠隔影響を「シルクロードパターン」と呼びます。

(2013年12月3日 更新)