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台風の基礎知識

第3回  地球温暖化が進むと台風災害が増加する?!

執筆者

上野 充
電気通信大学講師、横浜国立大学講師 理学博士
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エルニーニョ現象と台風発生の関係

熱帯東部太平洋の海面水温は、大気と海洋の大規模な相互作用の結果、数年に一度、半年以上にわたって広範囲で上昇(低下)することがあります。これは「エルニーニョ(ラニーニャ)」と呼ばれる現象で、全球的な天候異常との関連が指摘されています。海面水温の分布は気候学的な台風の発生場所を規定する要因の一つですから(第1回コラム「台風が発生するための条件」参照)、エルニーニョ/ラニーニャのように広範囲で海面水温の分布が変われば、台風発生に何らかの影響があってもおかしくありません。

(図1)は、強いエルニーニョが生じた年(1965、1972、1982、1987、1991、1997年)と強いラニーニャが生じた年(1970、1973、1975、1988、1998、1999年)の二つのグループについて、9月から11月の3か月間に発生した台風の発生位置と、その後の移動経路を示したものです。図から二つのグループ間で台風が発生しやすい場所や台風の移動距離に顕著な違いがあることが分かります。図中赤色の破線で囲った四角形の領域(「SE海域」と呼ぶことにします)内での台風の発生状況を比較すれば、その違いは一目瞭然です。

強いエルニーニョ時にはSE海域で数多くの台風が発生していますが、強いラニーニャ時にはSE海域での台風発生は僅かです。日本列島と台風発生地点の位置関係に着目すれば、強いエルニーニョ時には台風が日本列島に接近するまでに長い時間を要する海域での発生割合が増加する、と言い替えることもできます。だからといって強いエルニーニョ時には台風が日本までやって来ないというわけではなく、むしろ強いラニーニャ時を上回るくらいの数の台風が日本に襲来しています。

台風がもたらす風雨災害

本コラムの第2回(第2回コラム「台風の移動の仕組みと風雨構造」参照)で述べた台風に伴う雨や風の分布の特徴は、どちらかといえば、台風がまだ熱帯や亜熱帯の海洋上にある時の典型的な台風についてのものです。台風は平均して年に11個程度が日本のどこかに接近し、そのうち3個ほどが本土に上陸します。台風が北上して日本の位置する中緯度に近づくと、海面水温が低下し、台風は衰弱を始めます。それと同時に、台風周辺の気温の分布が水平方向にほぼ一様であった熱帯の環境から、南北に温度傾度を持つ中緯度の環境に変わるため、台風は熱帯低気圧としての構造を維持できなくなり、次第に温帯低気圧へと変化していきます。また、日本付近の海陸分布や地形の影響も受けるため、台風に伴う風雨の分布は典型的な台風の場合とは異なったものになります。

台風が日本列島に向かって接近している場合、台風周辺部の南東風が吹き付ける山岳の南東斜面を中心に、かなり早い段階から雨が降り続くことがあります。また、台風の東側を吹く南風は、暖気を北に向かって押し上げることで台風の北東側に前線を形成し降雨域を拡大します。台風の進路次第ではそれらの雨に台風本体の雨が加わることで大雨が長時間持続する事態となり、豪雨災害が発生しやすくなります。特に台風のサイズが大きく移動速度が遅い場合は要注意です。風についても台風の中心から離れているからといって油断はできません。日本付近に達し温帯低気圧に変化しつつある台風では、最大風速半径や強風域が拡大する傾向があるからです。また、台風域内でもしばしば竜巻が発生しますが、台風の中心部よりもむしろ中心から離れた降雨域で発生しやすいことが知られています。

最大風速と強風域の大きさが分かれば大まかに台風全体の運動エネルギーを見積もることができます。過去の研究結果によれば、上陸時の運動エネルギーが大きい台風ほど数多くの犠牲者(死者・行方不明者)が出る傾向があります。ここでは最近のデータを用いて得られた類似の結果を紹介します。図2は1978年(気象衛星ひまわりの本格運用開始年)から2013年までの間に日本本土に上陸した台風の生涯最大風速と強風域の最大幅の関係を示したものです。図から以下の三つの傾向が読み取れます。
(1) 最大風速が大きい台風ほど強風域の広がりが大きい。
(2) 甚大な人的被害は最盛時の勢力の強い台風で生じやすい。
(3) SE海域内で発生した台風は最盛時の勢力がより強くなる。

(1)や(2)はある意味当然の結果だともいえます。(3)の理由の一つとして考えられるのが、SE海域で発生した台風は偏西風帯や中緯度の冷たい海水に遭遇するまでに暖かい海洋上を長期間にわたって移動することになり、その分台風が十分に発達するチャンスがあるということです。

発生すると被害が大きい高潮災害

台風によって引き起こされる災害で忘れてはならないのが高潮によるものです。高潮は、台風による気圧の低下や強風によって海面の高さが異常に上昇する現象で、その持続時間は一般的には数十分から数時間程度です。高潮災害は、風雨災害に比べ発生頻度こそ少ないものの、ひとたび発生するとその被害の規模は甚大なものになる傾向があります。

過去100年間でわが国に最大の台風災害をもたらした1959年の伊勢湾台風(死者5,000人超)の場合も、人的被害の大半は高潮によるものでした。世界に目を向けると、2005年のハリケーン・ カトリーナ(米国、死者1,200人超)、2007年のサイクロン・シドル(バングラディシュ、死者4,000人超)、さらには2008年のサイクロン・ナルギス(ミャンマー、死者10万人超)など、最近でも高潮による大規模な災害が各地で発生しています。

高潮は主として海面気圧の低下による海水の吸い上げ効果や、強風による沿岸への海水の吹き寄せ効果によって生じます。したがって強い勢力を維持した台風の中心が海岸域に接近すると高潮災害発生の危険性が一気に高くなります。特に、水深が浅くて奥まった湾は要注意です。伊勢湾台風の場合、発達した台風の中心が伊勢湾のすぐ西側を通過し、湾口から湾奥に向かって北向きの強い風が吹きつけたことで大きな高潮が発生しました。もし台風の中心が湾の東側を通過していたなら状況はだいぶ違っていたはずです。台風の中心が通過するタイミングも重要です。台風通過が満潮時刻と重なれば海面水位はより高くなり、高潮災害が発生する危険性もそれだけ高くなるからです。

地球温暖化と台風

「地球温暖化」は温室効果気体の増加により20世紀後半以降に顕在化してきた地球規模の気温上昇のことです。その影響は地球上のさまざまな事象に及ぼうとしていますが、地球温暖化の進行により台風にも将来何か無視できないほどの変化が生じるのでしょうか。

大気や海洋の将来予測に欠かせないのが数値モデル(大気の運動や状態の変化を物理法則に基づいて記述するコンピュータープログラム)です。これまでのところ、数値モデルは、地球温暖化が進むにつれて地球全体での台風の発生数が減り、強い台風の割合が増えるという結果をはじき出しています。(図3)は数値モデルによる結果の一例で、温暖化が進んだ今世紀末は現在に比べ勢力の強い台風(ハリケーン、サイクロン)の割合が増える可能性があることを示しています。もし日本に勢力の強い台風がやってくる割合が増えればそれだけ台風災害発生のポテンシャルは高くなります(図2参照)。しかし、(図3)の結果だけから将来日本に勢力の強い台風が襲来する割合が増えるという結論を下すのは早計です。

日本に将来どれくらいの頻度で台風が襲来するようになるのか、また、日本にやってくる台風の平均的な強さが増すのかどうか、といったことは、例えば将来の台風の発生海域(したがって海面水温分布)や発生後の進路にも依存します(図1および図2参照)。残念ながら現在の数値モデルには、将来出現しやすい海面水温分布や、国や地域単位で台風(ハリケーン、サイクロン)の影響が将来どう変化するかを、確信を持って予測できるだけの精度はまだありません。それでも、温暖化の進行につれ海水が膨張したり陸氷が融解することで、海面水位が上昇するのは確かです。したがって、高潮災害発生の危険性は地球温暖化によって着実に高まりつつあるということが言えます。もし将来強い勢力の台風が襲来する割合が増えるならば、その危険性は一段と増すことになります。

(2013年10月31日 更新)