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落雷・突風

第7回  怖いのは竜巻だけではない! 自然界にまだある危険な「渦」

執筆者

小林 文明
防衛大学校地球海洋学科教授 理学博士
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油断大敵、晴れた日に発生する「つむじ風」

以前(第3回 局地的大雨・雷・竜巻を生む巨大積乱雲/小林文明)に述べたように、竜巻は積乱雲から地上に延びる鉛直渦であり、漏斗雲で可視化されたものです。世の中には、竜巻以外にもさまざまな竜巻に似た渦が存在します。つむじ風、ガストフロント上の2次的竜巻、火山の噴火に伴う竜巻、火災旋風、山竜巻などが知られています。竜巻のような鉛直方向の渦(鉛直渦)は、何らかの外力によって車軸のような水平渦が立ち上がることが必要であるため、珍しい現象として認識されるのです。今回は、巨大積乱雲(スーパーセル)に伴うトルネード以外の鉛直渦現象を取り上げます。

よく、「晴れた日の運動会で竜巻が起こってテントが飛ばされた」というニュースを目にしますが、多くの場合、雲のない状況で発生しています。このように、親雲が存在せず、地上付近で形成された渦は、竜巻と区別して、「塵旋風(じんせんぷう)」、「つむじ風」などと呼ばれます。英語では、ダストデビル(dust devil)といいます。塵旋風の成因は、強い日射で温められた地上付近の気塊が、上昇する際に周囲の風の変化を受け渦が形成されることです。ですから、親雲の中にメソサイクロンが存在する、竜巻(トルネード)とは成因が大きく異なっています。

では、なぜ運動会でつむじ風がよく発生するのでしょうか。
・晴れた日に行うことが多い
・相対的に広い運動場が存在する
・周囲に風に変化を与える校舎が存在する
・被害を受けやすいテントが数多く存在する
・目撃者が多い
などの要因が重なっていると考えられます。

つむじ風の寿命は、数十秒から数分程度と、竜巻に比べて短く、また、風速も秒速20m前後のことが多く、竜巻に比べて風速も弱くなります。ただし、風速が秒速20mといってもフジタスケールでF0に相当し、テントやエア遊具などの仮設構造物は飛ばされてしまいます。また、つむじ風のスケールは、直径が数m~数10m、高度は数10mから発達したもので数100mに達することもあります。ダストデビルは、広大な砂漠で条件が整えば、日中何本あるいは何十本でも観察することができます。木枯らしが吹き、枯葉が渦巻く現象もつむじ風です。ビル風や走行する車の後方にできる渦は、成因が異なりますが、現象としては、広い意義のつむじ風といえるでしょう。台風や巨大積乱雲は、地球の自転の効果を受けるために、北半球では反時計回り(左回り)であり、その結果、トルネードもほとんどが左回りです。それに対して、スケールの小さいつむじ風の回転方向は、右回り、左回りどちらでも起こりえます。

つむじ風は、比較的風が弱く晴れた日中に発生するために、前兆現象や予測は不可能といえます。強いて挙げるなら、日射が強く上昇気流が発生しやすい日、地上付近の空気が乾いている、すなわちカラッとした天気が続いた日に発生しやすいといえます。つむじ風は、校庭などその場で発生し、渦は砂ぼこりで可視化されます。また、寿命が短く、それほど移動しませんが、複雑な動きをしますから、運動会などでは気が付いたら直ちにテントから離れてけがを防ぐことが大事です(図1)。

海上で発生する竜巻「ウォータースパウト」

米国では、中西部で発生するトルネードに対して、弱い竜巻をスパウトと呼ぶことがあります。海上で発生する竜巻は、「ウォータースパウト(waterspout)」と呼ばれ、トルネードとは区別されます。ウォータースパウトは、漏斗雲の直径が海面から雲底までほぼ一定で、1本の細い渦に見えますから、トルネードに比較して明らかに弱い渦であることが分かります(写真1)。どうして一様な海上で竜巻が発生するのでしょうか。海上では多くの積雲、積乱雲が発生します。ある積乱雲からの下降流は海面を広がる際、周囲の風との間にシアーができます。たまたま、そのシアーライン上で発生した積雲の上昇流が、海面付近の渦を引き延ばすことで竜巻が形成されます(図2)。

このシアーラインや海面付近の渦は、上空から観測すると黒っぽく見えるため、それぞれ“ダークシアーゾーン”、“ダークスポット”と呼ばれ、海上での竜巻の目安となります。ウォータースパウトは、条件が整えば同時に複数本の竜巻が発生することも珍しくありません。日本でも、同時に3本とか5本の竜巻が観測された事例が報告されています。海岸線に立って目視で観察できる距離は、だいたい10km程度ですから、太平洋など海洋上でいったいどのくらいの竜巻が発生しているのか、その実態は不明です。沿岸や遠洋を航海する船舶から、竜巻を見たという報告は案外多いものです。もしかすると、海上では私たちの想像以上に竜巻が発生しているかもしれません。

統計的に、日本で観測される竜巻の約6割は海岸線で発生しており、その内の半数は海上で発生しています。ただ、海上で発生する竜巻が、すべてウォータースパウト的な構造を有しているわけではありません。日本の沿岸では、さまざまなタイプの竜巻が年間を通じて発生しています。寒冷前線に伴う竜巻、台風に伴う竜巻、冬の竜巻なども、多くは海上で発生します。これらの竜巻は、とてもウォータースパウトとは思えない形態を有しているものもあります。すなわち、海上で発生する竜巻のメカニズムは、スーパーセル的な構造とウォータースパウト的な構造の、両方存在すると考えられます。そのため、上陸して被害をもたらす竜巻と、比較的穏やかで海上で消滅する竜巻が存在するのです。

同じ海上で発生する竜巻で、ウォータースパウトとトルネード的な危険な竜巻には見た目の違いがあるのでしょうか。ウォータースパウトは、漏斗雲が細く、海面から雲底まで直線的に伸びているのが特徴です。また、比較的安定した日に局所的な積雲・積乱雲に伴い発生するため、移動速度は小さく、親雲のスケールも相対的に小さいといえます。それに対して、トルネード的な竜巻は、発達した低気圧・寒冷前線・台風に伴い発生することが多いので、天気予報でまずは判断が可能です。漏斗雲は太く、特に雲底にかけて直径が大きくなり、海面の水しぶきが顕著になります。積乱雲自体も発達し近辺では強雨も観測され、移動速度が速いため上陸の可能性も高く、避難が必要となります(図3)。

ガストフロントに伴う竜巻「ガストネード」

ガストフロント(参照:第2回 すさまじい下降流、ダウンバースト/小林文明)に伴って、竜巻が形成されることがあります。ガストフロント上の竜巻は、スーパーセルの上昇流で形成されるメインの竜巻に対して、2次的な竜巻といえ、「ガストネード(gustnado)」と呼ばれます。ですから、ガストネードは短寿命でスケールも小さく、明瞭な漏斗雲が確認されないことの方が多く、地上付近のつむじ風のように見えます(写真2)。

ガストフロントは、積乱雲の下降流が地表面を発散する前面であり、ミニチュアの寒冷前線の様相を呈します。すなわち、低温で密度の高い冷気はガストフロントでヘッドと呼ばれる循環を形成します。同時に、相対的に軽い暖湿気がガストフロント上を滑昇します。この循環で形成された水平渦が、上昇流によって立ち上がるのがガストネードのメカニズムです。ガストフロント上には、しばしばアークと呼ばれる積雲・積乱雲が発生するので、いわゆる竜巻と同様の構造を示すこともあります。最近では、スーパーセル内でトルネードが発生するために、地上付近のガストネードが重要な役割を担っていることが分かってきています。スーパーセル型の竜巻で、地上付近の渦が出来たり消えたりを繰り返したり、複数存在したりと複雑な挙動を示すのは、地面付近の複雑な渦分布を反映しているためです(図4)。

(写真3)は、2008年7月27日に、福井県敦賀市でガストフロントの通過時に、飛散したイベント用大型テントです。このテントは、1本の柱を400kgのコンクリートで固定していましたが、飛ばされて死者が出る事故が発生しました。テントは風を受けやすい構造であり、ビニールの風除け等を垂らしていると、さらに風を受けやすくなり、たとえおもりをつけていても、秒速20m弱の風速で簡単に飛ばされてしまいます。また、しばしば突風によりトラックが横転する事故も発生しますが、ガストネードも走行中の小型車やトラックを横転させるだけの風速を有しています。

(図5)は、ガストフロント通過時に、実際に地上で観測された風速記録です。以前(参照:第2回 すさまじい下降流、ダウンバースト 図2/小林文明)示した事例です。秒速4m程度の風が吹く中、突然秒速10mを超える突風が生じたことが分かります。さらに詳しく見ると、2回の突風が観測されています。すなわち、第1波、第2波が存在しています。これは、積乱雲からの下降流が間欠的に生じるために、地上の突風も複数回観測されたことを意味しており、ガストフロントの複雑な構造を示しています。

ガストフロント通過時の事故の多くは、屋外のテント、遊具、足場、高層ビル清掃用ゴンドラなど仮設構造物に関係して発生しています。また、現場に居合わせた人が口をそろえて、「空模様が怪しくなり、黒い雲が近づいたので、片付け始めた矢先に突風で…」というのをよく耳にします。これは、ガストフロントが積乱雲本体の前方に形成されるために、先行する風に間に合わなかったことを意味しています。ガストフロント上には、アーククラウド(参照:第2回 すさまじい下降流、ダウンバースト 写真2、3/小林文明)が形成されることが多く、この特殊なアークがガストフロント接近の目印となります。

火災時に発生する竜巻のような渦「火災旋風」

火災による上昇流によっても渦が形成されることがあり、これを「火災旋風」と呼びます。海上油田施設の火災時に、竜巻のような渦が発生したという報告があります。また、火山の噴火時に形成された竜巻の事例もあります。大規模な火災では、結果として巨大な渦が形成されます。有名なのは、関東大震災時の火災旋風であり、逃げ遅れた多くの人が犠牲になりました。これは、地震直後に同時多発的に発生した火災が巨大な火災旋風となり、さらに何本もの火災旋風が各地で生じたためです。当時の目撃者から、「積乱雲と火災の煙と火災旋風が相まって異様な光景だった」、「地震より火災旋風の方が怖かった」という証言があるほどです。今後発生が予想される関東の直下型地震でも、火災旋風が防災上の課題の一つとしてクローズアップされています。

(2013年12月3日 更新)