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黄砂・PM2.5と人間の体

第2回  PM2.5や黄砂が健康に及ぼす影響

執筆者

岸川 禮子
国立病院機構福岡病院アレルギー科 医長
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大規模黄砂によって増える小児ぜんそくの入院

わが国の黄砂の影響は、マウスをモデルにした調査によると、花粉症や気管支ぜんそくが起こり始め症状が悪くなるようになり、同時に黄砂を吸入した鼻の粘膜、気管・気管支粘膜も変化を起こしていることが報告されています。それらは黄砂の成分そのものでも起こりますが、黄砂の粒子にくっついてくる細菌(ばい菌)や真菌(かび)など、有機物の破片がその反応をさらに強くしていることも解明されています。加えて日本にやってくる途中で、排気ガスなどからPM2.5がくっついて飛来してくる可能性もあり、黄砂は砂の成分と一緒にいろいろな物質が混じっていることが容易に想定されます。

ではヒトの場合はどうでしょうか。富山県では、小児ぜんそく児は強い黄砂が飛来したとき、ぜんそく発作が起こり始め入院しているかどうかの調査結果が報告されています。2005年から2009年の5年間にわたって、620件のぜんそく発作入院と1立方メートル当たり100マイクログラム以上の強い黄砂飛来日6回とを比較検討した結果、黄砂が強い日は発作入院の危険因子となることが統計学的に証明されています。具体的には、強い黄砂が来た後4~6日して、ぜんそく発作が治らずに入院する割合が増加することが確かめられました。中でも6~12歳の男児が黄砂飛来直後から影響を受けやすいと報告されており、元気に屋外で運動して遊ぶ可能性が高いためや、その年代の男児に特徴的な反応ではないかと考察されています。

成人の場合は、鳥取市で2007年4~5月に98名の成人ぜんそくの人を対象に、電話調査が行われました。4月に98名中22名、5月に11名が、黄砂飛来時に呼吸器の症状が悪化したと回答しています。せきとたんが主な症状でした。アレルギー性鼻炎やその他のアレルギー疾患が合併している人が、ない人より有意に影響を受けていると報告されていますが、症状はいずれも軽度で、小児のように入院に至る人はいませんでした。

福岡市の私どもの病院でも、2010年秋に強い黄砂が飛来後、定期的に通院している気管支ぜんそくを主とする慢性呼吸器疾患の190名の方にインタビュー調査を実施しました。その結果、全体では25%(190名中47名)が影響を受けると回答しました。気管支ぜんそく単独の人が20%(91名中19名)、アレルギー性鼻炎や花粉症合併の気管支ぜんそくの人が50%(40名中20名)、黄砂の影響があると答えています。人数は少ないですが、ぜんそくと鼻炎を持っている人のほうが影響を受けやすい、あるいは感じやすいことが分かりました。しかし、一方で慢性呼吸器疾患を持っている半数以上の人が、「何ともない」と答えています。これは、マスクをする、黄砂日は外出を控えるなどの対策をとっていること、また定期的に治療をすることで影響を感じていないことも分かりました。

黄砂が飛来すると悪化するアレルギー性鼻炎や花粉症

島根県では、アレルギー性鼻炎で耳鼻咽喉科を受診した県在住者を対象に調査が行われました。この調査は2007年4~5月の2か月間に、強い黄砂が飛来したときと弱いときの状況を、アンケート調査で比較したものです。強くても弱くても、黄砂が飛来すると何らかの影響があると70%の人が回答しています。調査対象の人はほぼ100%治療を受けていても、何らかの症状を感じていることが分かりました。症状は鼻のみでなく、のどの違和感やせき症状、眼症状など、鼻以外の症状の頻度が半数近くあることが分かっています。また、耳鼻科で治療中の人ですから重症の人が受診しているわけですが、強い黄砂時は、くしゃみや鼻水に加えて、鼻づまりの症状が多いことが分かりました。

わが国ではアレルギー性鼻炎といえばスギ花粉症が最も多いですが、黄砂飛来時期と花粉が飛散する時期が、ちょうど重なることがあります。今度は同じ研究者がアレルギー性鼻炎のある288名と、鼻炎のない89名のボランティアに、同じような調査を行いました。その結果、全体の約70%の276名が、何らかの影響があると答えています。そのうち150名が、鼻炎の有る無しにかかわらず、鼻症状のほか、声がれ、のどの違和感、せき、そして眼症状が悪化していると回答しました。

私どもの病院でも、初めて受診する人を対象に、黄砂の影響を簡単に尋ねています。呼吸器・アレルギー科が主要な病院ですが、2008~2009年にかけて、約3,000名の回答を見ると、黄砂に関して「影響がある」と回答している人が約20%で、その中で「花粉症・鼻炎が悪化する」との回答が70%、「ぜんそく発作が起こる」が30%くらいでした。しかし、受診時の理由は「せきが出る」が最も多く、その後の診断も気管支ぜんそくが最も多いことが分かっています。このようにさまざまな調査から、PM2.5を含む黄砂によって、ヒトは首から上の上気道や、眼などに影響を受け、症状を強く感じていることが分かります。

PM2.5と黄砂が若い健康なヒトに及ぼす影響

福岡県宗像市で通常の学生生活を過ごしている看護大学生を対象とした調査を、多施設共同で行いました。調査期間は2011年の2~5月です。黄砂は、気象情報と長崎のライダー(黄砂の観測装置)、および北九州市測定の10マイクロメートル以下の空中浮遊粒子(SPM)から特定しています。花粉のほか、光化学オキシダント(OX)についても検討しています。黄砂だけでなく、PM2.5など大気汚染物質も念頭において調査したものです。学生には、鼻、眼、咽頭、下気道症状を、それぞれスコア化して日記をつけてもらいました。一つの症状について0~4点の程度で表し、かなり詳しい調査になりました。

2011年5月1~5日、12日に大規模黄砂があり、黄砂飛来日の前後に、光化学オキシダント上昇が観測されています。全部で学生102名の日記を検討しました。平均年齢は19.3歳。アレルギーのあるA群49名(全体の48%)と、アレルギーのないB群48名(全体の47%)の2つのグループに分けています。AかBか分からない日記は除きました。(表1)に、ライダーの黄砂飛来日と空中浮遊粒子(SPM)濃度との関係およびA群、B群の症状の経過を示しています。

鼻症状は、A・B群ともに高い影響が見られます。またアレルギーのあるA群は、B群に比べ高いスコアで経過しています。黄砂日は空中浮遊粒子濃度の上昇とともに、咽喉頭(=のど)・下気道症状が眼症状より上昇し、空中浮遊粒子濃度の低下によりスコアも低下していることが分かりました。A群、B群ともに、黄砂飛来前から鼻症状、咽喉頭・下気道スコアは空中浮遊粒子濃度がだんだん増えるのとともに上昇し始めて、黄砂濃度がピーク時には、むしろ症状が治まってきています。A群は鼻症状スコアが最も高く推移し、B群では鼻症状は黄砂飛来前からスコアが上昇していますが、咽喉頭・下気道症状スコアが鼻症状を超えて上昇し、黄砂後まで続いているのが認められました。

B群の各症状スコアはA群より有意に低く、鼻、咽喉頭・下気道症状、眼症状の順に推移し、黄砂飛来前から徐々に各症状スコアが上昇していました。12日も黄砂が飛来したのですが、A・B群ともに影響を受けていないことが分かりました。複数回黄砂が来ると、1回目に比較して反応が鈍るのかもしれません。また、5月15~16日にかけては、黄砂飛来日ではないのに、咽喉頭・下気道症状が眼症状とともに急に上昇したときがあります。光化学オキシダント濃度上昇と一致していることから、種類の異なった刺激に反応したようです。今回の調査で濃度の高い大規模黄砂では、鼻より下気道が影響を受けていた可能性があったので、今後も同じ結果が出るか、また黄砂の質やPM2.5との関係も加味しての違いに着目して大規模な調査が続けられることになっています。

PM2.5と黄砂が40歳以上の中高年に及ぼす影響

看護大学生の家族で40歳以上の89名を対象に、同じ調査を行いました。家族の平均年齢は54.7歳で、89名中アレルギーのあるA群は29名(全体の33%)、アレルギーのないB群は56名(全体の63%)でした。黄砂飛来後は、A・B群ともに鼻症状の出現頻度が最も高く、A群では眼症状、B群では咽喉頭・下気道症状の順に頻度が高く見られています。黄砂飛来は5月1日から、空中浮遊粒子(SPM)濃度上昇は4月28日ごろからですが、A群はもっと前の4月24日から、咽喉頭・下気道スコアが鼻症状より高く推移して、スコアも黄砂飛来前から3点以上に上昇しています。中高年では、空中浮遊粒子濃度と症状スコアの変化が学生のように変動せず経過しており、薬剤点数が1点以上と最も高く、黄砂前から何らかの治療をしながら経過していた可能性があり、光化学オキシダントの濃度上昇による影響が強く疑われました。大人の一部は、治療しているためにスコアの変動が少ないことも考えられます。

さらに、両グループとも5月15~16日にかけて、咽喉頭・下気道症状が、眼症状とともに急上昇し、光化学オキシダント濃度上昇の影響が考えられました。学生・中高年ともにA群のスコアは常にB群より高く、薬剤スコアも高いことから、「アレルギーあり」のA群は何らかの治療を行っても、「アレルギーなし」の群に比べて症状スコアが高く経過していることが分かりました。中高年は黄砂前のオキシダントに反応して治療を開始したせいか、黄砂飛来に反応が見られず、果たして治療を続けているからか、今後明らかになっていくと思います。

以上PM2.5と黄砂についてヒトへの影響を紹介しました。飛来時には軽い呼吸器症状が出現するものの、過ぎ去ったら改善しているのが分かります。しかし、反応には個人差があり、影響を強く感じて困っている人がいるのも事実です。症状を軽くするためのマスク装着、外出を控える、外出後は顔などを洗う、慢性の病気がある人や乳幼児は母親の管理のもと戸外で長時間過ごすことを避けることなどが予防になります。自ら対策を立て、健康な毎日を送っていただきたいと思います。

参考文献
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(2013年10月1日 更新)