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熱中症対策

第3回  熱中症から命を守る、予防と応急処置

執筆者

三宅 康史
昭和大学医学部救急医学教授 昭和大学病院救命救急センター長
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労作性熱中症と、非労作性(古典的)熱中症の違い

熱中症で重症化する条件や、熱中症にかかりやすい危険因子はさまざまです。熱中症を理解するには、その成り立ちが異なる労作性熱中症(exertional heatstroke:暑熱環境+スポーツや肉体労働などの筋肉運動が合わさって熱中症にかかる)と、非労作性(non-exertional)あるいは古典的熱中症(classical heatstroke:暑熱環境の中で長時間過ごして熱中症にかかる)に分けて考えると、理解しやすくなります。熱中症になる過程の違い、なりやすい年齢、治りやすさの違いなど、それぞれの特徴を比較すると、(表1)のようになります。

労作性熱中症の中で、肉体労働では仕事初日の死亡事故が最も多いことが分かっています(図1)。慣れない作業を開始する場合には、暑熱順化の問題だけでなく、初仕事への精神的緊張や急な筋肉運動の開始などが余分な負担となりえます。経験年数などが大きく影響するのも、同様の理由と考えられます。そのため、“新入り”の場合には1~2週間程度のならし期間を設けることで、熱中症の発生を予防します。また、高齢者に比べ若年者は暑さに対する感受性が高いため、早めに“根を上げる”ことで、発症数は多くても軽症で済む場合が多くなります。問題は、仕事(労働)の場合には、納期の遅れ、下請けの弱い立場、クビになる心配などから、体調不良にもかかわらず欠勤や休憩ができず、熱中症の発生につながる危険性がある点です。

スポーツの場合には、レギュラーや代表の枠に入るため、また記録や勝負にこだわるあまり、途中でやめることができないこともあります。この場合も本人からの申告は期待できず、重症化し倒れて初めて周囲が気付くことになり、発見および対処の遅れが、熱中症を重症化させる危険性があります。健康な人に重大な死亡事故が起こる危険性が、ここに潜んでいるのです。学校行事やクラブ活動などのスポーツでは、強制的な集団練習、勝負のかかった重要な試合など、自分の体調不良を言い出せない環境に置かれます。そのためコーチ、監督、担任など指導者は全体に目を配り、熱中症注意報が出ている場合には、練習時間を早朝や夜間に切り替えたり、練習量を軽くする、水分休憩を意識的に多くとる(自由に飲水させる)、場合によっては中止するなどの配慮・判断が必要です。体調不良を申告しやすい関係にしておくことも重要です。事故が起こってからでは遅いのです。

ただ、スポーツでは1980年代前半をピークに、熱中症による死亡者数は減少傾向にあります。暑さが増しているのにもかかわらず死亡事故が減少しているのは、現場での対策が進んでいるためと考えられます。学校での死亡事故は、7月下旬から8月上旬、高校低学年の男子、ダッシュの繰り返しやランニングの最中に多いことが分かっています。ここ35年間の死亡事故例中、133例が部活動、23例が学校行事で発生しています(日本スポーツ振興センター調べ)。気温が高い場合だけでなく、23~26℃でも、湿度が70%を超えてくると熱中症事故が起こりえます(図2)。梅雨の合間の晴れた蒸し暑い日に、夏の大会に向けての練習中に前日と同じ練習量をこなすような場面や、秋風の吹き始めた9月にたまたま急激に暑くなった日中の場面で、イベント会場や運動会の練習中などに、軽症ではあっても大量に熱中症の生徒が発生するのはこのパターンです。

これに対して、古典的熱中症である日常生活中の死亡事故は、病態が全く異なります。実際に熱中症の死亡例は、高齢者の日常生活中の症例が多くを占めています。典型例として、連続する猛暑日と熱帯夜により、屋内に居る高齢者が徐々に体力と食欲が奪われ、脱水が進行し、持病の悪化や感染症の併発も手伝って、複合的な熱中症を発症します。近所との付き合いがない、老老介護の世帯、昼間は独りで過ごしている高齢者などでは、徐々に進行する体調不良が見過ごされてしまい、最終的に「返事しない」「動かなくなった」などで救急車が呼ばれるケースが起こっています。元気がない、食欲が落ちた、横になっていることが多いなど、非特異的な症状のため、周囲も熱中症と気が付きにくいのです。熱中症関連死の独立した予測因子として、70歳以上、来院時の高体温(>39℃)、老人施設入所、ホームレス、社会的に孤立した人、精神疾患、虚血性心疾患、糖尿病、DIC、認知症などがすでに知られており、これらを有する場合には特に注意が必要です。

熱中症弱者とはどんな人々のこと?

熱中症にかかりやすい人々を、熱中症弱者といいます。具体的には、1)高齢者、2)乳幼児、3)外傷後、脳卒中後、手術後などで身体的ハンディキャップのある人、持病(高血圧を含む心臓疾患、糖尿病、精神疾患、認知症など)のある人、4)独り暮らし、老夫婦のみ、年老いた親とハンディキャップのある中年の息子・娘のペアなど地域社会から隔絶しやすい家族構成の人、5)経済的弱者などです。その中で実際に数が多く、重症例や死亡例、3)~5)にも合致することの多い高齢者について解説します。

1. 高齢者の特性
1)体内水分量の低下:水は比重が大きいため、熱しにくく、冷めにくい。そのため、体内水分量の低下は環境温の影響を相対的に受けやすくなる。
2)体温調節機能の低下:発汗機能(汗の気化によって体表温を下げる)、心機能(体内の熱を血流に載せて体表まで運ぶ)、腎機能(熱い尿を排せつし体内の熱を逃がす、尿中の水分を再吸収し体内水分量を保つ)などの機能が低下しており、熱中症になりやすい。
3)暑さに対する感受性の低下:若年者に比べ暑熱環境を不快と感じなくなり、我慢強い。また、のどの渇きにも鈍感になり、積極的な水分摂取が遅れる。暑くてもエアコン使用などを避ける傾向がある。
以上のような身体特性は、熱中症を発症しやすくする危険因子となります。

2. 高齢者に合併しやすい病気
身体的あるいは精神的ハンディキャップのある人も、熱中症の危険性が増します。具体例を挙げれば、高血圧や心不全では、心機能が低下(または心機能を低下させ血圧を下げる薬剤を服用)しており、利尿薬は体内水分量を減らして脱水を引き起こします。糖尿病では、高血糖による多尿や汗をかく能力の低下(自律神経機能の低下)があり、腰痛や膝痛、脳血管障害の後遺症、精神疾患などの場合、外出が減ることで夏に向けて暑さに慣れる順化(acculimatization)が不十分になります。精神疾患で処方される向精神薬は、発汗を抑制する作用をもつものがあります。

3. 高齢者が重症化しやすい理由
1)日常生活の落とし穴
高齢者では老夫婦、独居が多く、家族と同居であっても、昼間は一人で過ごす場合もあります。暑い夏に居室内に一日中いると、室温は徐々に上昇するため暑さを感じにくいのです。スポーツや労働では、コーチや現場監督、周囲にいる同僚が体調の変化に気付き早めの対処が可能ですが、一人で、それも居室内で熱中症にかかっても、気が付く人がいないのが実情です。
2)認識と対処の遅れ
熱中症そのものの初期症状は非特異的(ボーッとする、だるい、気持ち悪い、頭痛、吐き気、腹痛、下痢、手足のしびれなど)で、熱中症は“屋外で激しい運動をしている人に発症するもの”というイメージもあり、部屋に居ただけで熱中症になるとは思わないイメージが定着しています。発見の遅れ、認識の遅れ、そして応急処置の遅れが重症化につながっているのです。

もちろん高齢者だけでなく、乳幼児も熱中症弱者です。自分で話ができて、走り回れる学童になると、熱中症の危険性は減ります。自分で暑熱環境から逃げ出せる、のどが渇けば水道水など自分で水分をとれる、などが理由です。しかし、乳幼児は違います。典型例が、炎天下にチャイルドシートに縛られたまま車内に取り残されるケースです。自分でその場から逃げられない、大声で人を呼べない、自分でペットボトルを開けて水を飲めないなどの行動制限に加え、体が小さく環境の影響を受けやすい、発汗機能・腎機能ともに未発達、などの弱点もあります。また背が低いので、アスファルトやコンクリートの路面からの照り返し(輻射熱)のため、大人より数℃高い環境に居ることになります。ベビーカーの赤ちゃんも同じです。この場合は、親御さんが常に乳幼児の体調を気遣ってあげる必要があります。体が熱くないか、大量に汗をかいていないか、元気があるかなど、時々声をかけ、体に触れ、表情を確認しましょう。水分補給もまめに行いましょう。

熱中症の応急処置と予後

1. 熱中症の判断
まず暑熱環境下の体調不良を、自分、周りが疑うことが大切です。疑ったら、すぐに応急処置を開始します。必要に応じて救急車で病院へ搬送する必要があります。梅雨が明けてすぐ、そして猛暑日と熱帯夜が連続した時には、特に筋肉運動をしていなくても、熱中症に陥る危険性があることを認識しておきます。暑熱環境下での体調不良は、常に熱中症を疑う必要があります。現場では、意識障害の程度が最も分かりやすい指標といえます。重症度判断のフローチャートを(図3)に示します。

2. 応急処置法
熱中症を疑ったら、屋外では日陰の風通しの良いところや冷房の効いた車内へ移します。屋内なら冷房を利かせ安静にします。そして体を横にして衣服を緩め、風を当てます。意識がしっかりしていれば、冷やした水を与えます。意識がもうろうとしている場合には、誤嚥(ごえん)して肺炎を併発する恐れがあるので、無理に水分をとらせてはいけません。後頭部、両側の前頚部(首元)、両腋、鼠径部(そけいぶ=足の付け根)にも氷枕や保冷剤をタオルで巻いて当て、皮膚の表面近くを流れる太い静脈を冷やします。それで意識が戻り体調が回復すれば、そのまま様子を見ましょう。

3. 救急車を呼ぶ(医療機関へかかる)目安
意識がしっかりしていれば、応急処置を施しながら必ず誰かが付いて10分程度見守り、意識や体調不良が回復しない場合には、体を冷やしつつ医療機関へ搬送した方がよいでしょう。意識障害や水が飲めない場合には、すぐに救急車を呼びましょう。

4. 予後
実は熱中症は、医療機関へ搬送され入院した場合でも、重症度にかかわらず1泊2日で退院できるケースが最も多いのが特徴です(図4)。ということは、熱中症は治療によく反応する病態ともいえるのです。早期発見、早期治療、そして何より予防できる病気であることを肝に銘じて、日頃から本人が気を付け、周りの人が気を配ることが熱中症にかからない、かかっても軽く済むためのポイントといえるのです。

熱中症の予防(対策)

1. 熱中症にかからない体を日頃から作る
暑さへの順化のために、梅雨時から日中の散歩を心がけ、体力をつけるとともに汗をかきやすい体質にしておきましょう。途中でパチンコ屋やコンビニ、図書館などに立ち寄り、熱くなった体を冷やし、水分補給することも大切です。持ち歩く水分は少し凍らせておけば、いつまでも冷たいままで飲むことができます。脱水の補正だけでなく、冷えたものをとることで体を中から冷やせるので効果的です。真夏には日中の散歩は避け、早朝や夜の散歩に切り替えます。猛暑日と熱帯夜が連続するような場合には、散歩自体を中止するほうがよいでしょう。

2. 夏場の体調不良は、熱中症ではないかと疑う
熱中症の初期症状は、熱中症と疑わなければ、疲れ、二日酔い、寝不足、夏風邪などと片付けられてしまいます。暑熱環境での体調不良は、すべて熱中症の疑いがあることを認識しておきましょう。高齢者の場合には、食欲の低下、元気のなさ、横になっていることが多い、などから初期段階の熱中症を見分け、手を打つ必要があります。

3. 暑さを避ける
元々体力に自信のない場合や持病のある人は、無理をせず暑さを避けることで夏を乗り切るほうが安全です。猛暑日や熱帯夜が連続する場合、3~4日目から熱中症の発症が急増します。日常生活の場合、猛暑日1日だけで急に熱中症になるのではなく、数日かかって徐々に脱水と体力の消耗が進み、最後に熱中症に陥ることが多いのです。天気予報を参考に、目立つところに置いた温度計で室温、湿度を管理しましょう。猛暑日には外出を控え、午前中からエアコンを使って室温28℃、湿度70%程度を目安に居室の環境を整えます。

4. 食事と水分摂取
3度の食事をしっかりとります。日本人の食事は塩分が多いので、食事がきっちりとれていれば水分、塩分、栄養は足りています。食事の摂取量が減ってきたら、高齢者の場合は要注意です。早めにかかりつけの医師に熱中症や感染症、脱水のチェックをしてもらいましょう。また、のどが渇かなくてもまめに水分補給をしましょう(1時間あたりコップ半分程度以上)。日常生活の場合には、大量に汗をかくわけではないので水分だけで十分です。夜中にトイレに起きたくないからと、寝る前に飲水を控えるのはやめましょう。むしろトイレに起きた時にコップ1杯、朝起きた時にまた1杯の水分補給を心がけましょう。水分といっても、アルコール(ビール)はいけません。お茶やコーヒーと違って利尿作用が断然強く、むしろ脱水になります。アルコールが燃えて体温上昇も起こります。水分、塩分制限を指導されている場合には掛かりつけの医師に相談してください。

5. エアコンの上手な使い方
エアコンを切ったり入れたりするのは、電力を消費します。風力を自動にして設定温度を高めに設定し、連続運転するほうが節電できます。エアコンの風が直接体に当たらないよう壁に向けたり水平に出し、サーキュレーターとしての機能や体に直接当てる目的のためには扇風機を併用しましょう。熱帯夜が連続する場合には、一晩中弱めにエアコンを入れたままにして、良い環境でぐっすり寝ることが、翌日の熱中症予防になります。ただし、エアコン使用中は乾燥するので、水分補給にも気を配りましょう。

6. 家族、ご近所、行政の見守り
熱中症は早期発見、早期治療が重要です。一緒に住んでいなくても、1日2回は体調確認してください。特に食欲の低下や、元気のなさに注意してください。ちょっとでも体調不良が感じられたら、近所の医師にかかってもらいましょう。早めの対処が重要です。また、独り暮らし、老夫婦、高齢の親とその子供の二人暮らしなどは、ご近所や行政がまめに声をかけ、体調の変化に気を配ってあげてください。

(2013年9月11日 更新)