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日本の火山活動

第7回  富士山宝永噴火のような爆発的噴火が現代に起こったら?

執筆者

藤井 敏嗣
東大名誉教授 火山噴火予知連絡会会長
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宝永噴火の推移

今から300年以上前の1707年12月16日午前10時ごろに富士山宝永噴火が発生し、翌年1月1日未明までの16日間噴火は続きました。

歴史時代の噴火としては規模も大きく、最も爆発的なものでした。今でも山頂の南南東斜面に山頂から順に第1、第2、第3と名付けられた火口が確認できますが、最初の噴火は最も高度の低い第3火口から始まりました。大音響とともに噴煙が20km以上の高さにまで立ちのぼったあと上空で西風に流され、途中で軽石を降らせながら江戸の方向に向かいました。火口からあまり遠くない須走村では上空から落下してくる大きな軽石から着火して炎上する家屋が数10軒に上りましたが、幸い死者は出ませんでした。軽石が数10cmほど積もった後、翌日には黒い軽石(スコリア)に変わりました。降ってくるものはスコリアに変わったものの、噴煙は噴火の続いた2週間を通して15kmの高さにまで達しました(図1)。

江戸に降ってくる火山灰については、現在の両国付近で伊藤祐賢という旗本がじっくりと観察していて、「伊藤志摩守日記」にその様子を書き残しました。この日記によれば、16日の昼ごろ、灰色の灰が降ってきて、その後川砂のような黒いものに変わったとあります。灰が降り始めたのは噴火発生からほぼ2時間後の事でした。この日だけで降り積もった火山灰は2~3寸(6~9mm)程度に達し、その後も江戸市中の降灰は12月27日まで断続的に続きました。

現在の東京大学内で加賀藩の藩邸跡の発掘調査が2003年に行われ、宝永噴火の火山灰の堆積が確認されています。元禄年間、1703年末の「水戸様火事」と呼ばれる水戸藩邸から出火した火災によって加賀藩の建物のいくつかが類焼(よそから燃え移って焼けること)し、しばらく放置されているところに宝永噴火が発生して、火山灰が焼け跡に降り積もったままになっていました。1708年に徳川幕府から嫁入りの打診があったため、急いで新たな建物を作る必要に迫られた加賀藩は火山灰が降り積もったままの焼け跡に土を盛り、突き固めて普請(ふしん)を行いました。このため、当時の火山灰がほぼ堆積時の状態を保ったまま、突き固められて保存されることになったのです(写真1a)。この突き固められた火山灰の厚さは約1cmでしたから、降り積もった際には2cm程度はあったものと思われます。最近、富山藩の古記録が発見され、現在の東京大学付属病院のあたりにあった富山藩邸では、火山灰が2寸(6cm)ほど積もったと書かれています。加賀藩邸の隣ですから、やや厚すぎる感じがしますが、富山藩の記述はもしかすると吹きだまりの厚さだったかもしれません。

最終的な軽石、スコリア、火山灰の厚さは、須走で4m(写真1b)、御殿場から山北付近で約1m、横浜で8~10cm、江戸市中で2~4cmに達しています。

火山灰や火山れきが数10cm以上降り積もった地域では、田畑が全滅して作物を作ることができませんでした。かといって重機もない時代ですから、多量の火山灰を取り除いて畑地を復元することなど不可能でした。このため、火山灰を溝状に掘り抜き、元の地面にまで達したところで、さらに溝を深く掘り込み、その底に火山灰と火山れきを埋めて、その上に掘り起こした元の地面の土を盛り上げ、田畑を復元したのです。この方法は「天地返し」と呼ばれていますが、当時の土木技術としては精一杯の復興作業だったのでしょう。しかし、大変な作業ですから、このような天地返しが行われた田畑は限られ、農民の多くは田畑を捨て、流民化していったようです。

山地の火山灰は放置されたままでしたから、雨が降るたびに土石流が発生し、河床を埋め、さらに洪水が発生しやすくなるということが繰り返されました。当時の土木事業の技術では、度重なる洪水を防ぐことができず、酒匂川流域は噴火後も数10年にわたって、洪水や土石流の被害に悩まされ、農業の復活は非常に遅れることになりました。このように農地は大変な被害を受けたのですが、道路などは山間地の厚く火山れきや火山灰が堆積した場所以外では、それほど問題にならなかったようです。当時の道路は舗装されているわけではなく、交通も徒歩や牛馬によるものが主体でしたから、火山灰や火山れきは踏み固めれば済んだのでしょう。

次に起こる噴火はどのようなものだろうか

富士山が次に噴火するとして、どのような噴火になるかをあらかじめ予測することは不可能です。地下にどのくらいのマグマが蓄えられているか分かればある程度の予測は可能ですが、蓄えられたマグマ量を推定することは容易ではありません。伊豆大島や桜島のように10km程度の深さにマグマだまりがある火山の場合にはマグマがどの程度たまっているかを地盤変動観測などで測定することができます。しかし、富士山のマグマだまりの深さは25kmよりも深いところにあることがさまざまな方法で推定されており、これほどの深さになると地盤変動のシグナル/ノイズ比が小さすぎて、測定できないのです。

ここで、第6回コラムの(図2)(第6回 富士山の誕生と噴火の歴史をひもとく(図2)
を見ていただきましょう。過去3200年間の噴火の規模と回数が示されています。この図から、約100回の噴火のうち、マグマ換算で2億立方メートルよりも多くの噴出物を出すような大規模噴火は非常にまれで、8割以上は2,000万立方メートル以下の小規模噴火であることが分かります。2,000万立方メートルといってもピンとこないかもしれませんが、現在噴火を続けている桜島の10年分、2011年の宮崎県・霧島新燃岳の噴火程度だと言ったらお分かりでしょうか。あるいは、1986年の伊豆大島噴火程度です。宝永噴火の40分の1程度以下です。

このような統計に基づくと、次の噴火は2,000万立方メートル以下の小規模噴火となる可能性が高いことになります。しかし、世界の爆発的な大噴火の例を調べると、別の予想が成り立ちます。

米国のスミソニアン博物館が、世界の爆発的な大噴火の事例を調べていますが、富士山の宝永噴火よりも規模が大きい大噴火は最近200年間で15噴火でした。この15噴火のうち11噴火はそれぞれの火山で史上初の噴火だったことも分かりました。いわゆる大航海時代以降は世界のほとんどの国は当時の列強国、スペイン、ポルトガル、オランダなどによって植民地化され、主に宣教師によって地震や火山噴火などが記録されるようになりました。したがって史上初の噴火ということは、その前の噴火は少なくとも大航海時代以前だったことになるので、数100年以上静穏で噴火がなかったことを意味します。

爆発的大噴火をした15噴火のうち11火山が数100年ぶりの噴火だったことからすると、長い静穏期の後で噴火する場合は爆発的大噴火になりやすいと言えるかもしれません。このことからすると、300年以上休んでいる富士山が次に噴火する時には、大規模で爆発的な噴火をすることも想定すべきだということでしょう。統計的に小規模噴火の確率が高いからといって、安心はできないのです。

現代に宝永噴火が起こったらどうなるか

宝永噴火では、火砕流も溶岩流も出ず、ひたすら火山灰、火山れきを噴き上げる爆発的な噴火が約2週間続きました。このような噴火が現代に再現されたらどういうことになるでしょうか。このことを調べるために、現代の地図上に宝永噴火の火山灰、火山れきが堆積した厚さ分布を重ねました(図2)。

東京都内でも数cm、横浜あたりでは10数cmの厚さに火山灰が降り積もることが分かります。新幹線も、熱海~東京間は数cmから20cmの厚さの火山灰堆積のために運行停止となるでしょう。また、自動車による交通も深刻です。東名高速の御殿場付近は1m以上の厚さまで火山れきで塞がれてしまうし、厚木付近でも数10cmですから、東名高速は不通になります。

では首都高速はどうかというと、やはり数cmの火山灰で覆われて使えなくなることでしょう。桜島の経験では、火山灰が数mmでも積もると、坂道では車がスリップして動けなくなることが分かっています。数mmの火山灰が積もった時点で、首都高速へ上るためのランプでスリップのため大渋滞が起こって、都内の交通が大混乱状態になることでしょう。

交通の停滞が起こるのは陸上だけではありません。噴火によって火山灰が大気中を舞っている限り、飛行機は運航できません。ジェットエンジンが大気中の火山灰を吸い込んでエンジンが停止する恐れがあるからです。さらに、空港に火山灰がわずかでも溜まっていると飛行機の離発着ができません。このため、噴火が終了した後も、火山灰を完全に除去するまで全ての航空機は運航できないことになります。宝永噴火と同様の事が起こると、羽田空港、成田空港の民間空港のほか厚木基地も使用不可能となりかねません。火山灰の除去が必要なのは、道路だけではないのです。

また、送電線に湿った火山灰が降り積もって、その重みで送電線が断線したり、送電塔の絶縁が悪くなってショートが起こり、広域に停電が起こることも考えられます。さらに、問題なのは発電所かもしれません。飛行機のジェットエンジンとほとんど同じ構造のガスタービンを備えた火力発電所が京浜・京葉の沿岸部に集中しており、この地域は火山灰が最も多く降る中軸部にあたります。宝永噴火の時には厚さ8~16cmの火山灰が降り積もった地域に相当します。飛行機と違って建物の中にあり、フィルターも備えていますから直ちにガスタービンが停止することはないでしょうが、細かい火山灰がフィルターに詰まって発電効率を低下させる可能性があります。予備フィルターの用意がないと、交通がマヒしているために取り換え用のフィルターの配送もできず、最終的には発電が停止するという最悪の事態が起こるかもしれません。また、静岡県から神奈川県にかけての山地に降り積もった火山灰は除去できずに、噴火終了後も雨が降るたびに土石流が各地で同時多発し、対策に苦慮することも生じるでしょう。

自然災害に弱い現代都市

さまざまなインフラが発達した現代都市が、宝永噴火と同じような火山灰被害に遭遇した時、その対応は大変なのです。文明が発達すればするほど、自然災害に対して社会はぜい弱になるのです。弱点を知り、あらかじめその対策を考えておかないと被害は甚大なものになる可能性があります。しかし、大噴火が近代都市のそばで起こった例は世界でもこれまでありません。実際にどのようなことが起こるかは未知の世界なのです。想像力をたくましくして、あらゆる可能性に備えて対策を考えておくことが重要です。

引用文献
Miyaji et al.(2011), High-resolution reconstruction of the Hoei eruption (AD1707) of Fuji volcano, Japan. Jour. Volcanology & Geothermal Research, Vol.207, 113-129.

(2013年10月31日 更新)