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PM2.5、黄砂、酸性雨

第1回  PM(粒子状物質)とつきあう

執筆者

小島 知子
熊本大学自然科学研究科 准教授
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PMはいつでも、どこにでも存在する

今年の1月末から5月半ばにかけて、「PM2.5」がしばしば新聞やテレビで取り上げられました。その際の報道から「PM2.5は中国から飛んでくるもの」「夏になれば気にしなくてよいもの」と思っている人も多いのではないでしょうか。実際には「PM2.5」は、どの季節にも、どこにでも、空気中にあるものなのです。戸外の大気にしろ、今居る部屋の中の空気にしろ、目には見えないほどの小さな粒が無数に漂っています。これが「粒子状物質」、英語で言えば「Particulate matter」であり、英語の頭文字をとって短くPMと呼ばれます。「エアロゾル粒子」と呼ばれる場合もあります。大きなものは重みですぐに落ちてしまいますので、ある程度長い時間空気中に漂っていられるのは、直径が0.1mm(100マイクロメートル)より小さいものです。

このように小さな粒子の一つ一つを肉眼で見分けることはできませんが、特に数多くの粒子が集まっている部分に光が当たると、その部分の輪郭が目に見えるようになります。いわゆる「煙」です。つまり、「煙」の正体は無数に集まった粒子であり、「煙」を発生させる行為はすなわち多数の粒子を放出する行為なのです。「アロマセラピーでお香をたく」「家族や友人とバーベキューを楽しむ」のような、日常何気なくやっていることも、自分を取り巻く空気中にPMを増やしています。

ただし、個人個人の活動で発生するPMの量は限られていますので、すぐにきれいな空気と混ざって薄まり、気にならなくなります。問題になるのは、大勢の人が集まっている都市部や、大量の煙を排出する工場が多数あるような工業地帯です。目に見える煙としてではなく、ガスの形で出された硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)、揮発性有機化合物(VOC)が、空気中の反応で粒子化したものも少なくありません。

人間の活動によるもの以外に、自然界の営みによるPMもあります。強風で巻き上げられた土ぼこり、海水のしぶきが蒸発してできた海塩粒子、火山が出す火山灰や火山ガスからの生成物、植物から出る花粉や胞子などがそうです。それぞれの地域にさまざまな種類のPM発生源があり、その地域での「通常のPM」の量が大体どれくらいなのかが決まります。そこに、突発的な事象(大火事や火山噴火など)によるPMや、よそから運ばれてきたPMが付け加わって、見過ごせないほどの量になってしまうというのもありうることです。

サイズが問題?

ある地点の空気中に漂うPMには、発生源も組成も異なる、さまざまなものが含まれていますが、それらを選り分けるのには時間と手間がかかります。正確に区別するのは不可能といってもいいでしょう。「どこから来たか」「何でできているか」を調べるのは難しくても、大きさの違いでふるい分けるのは割と簡単にできることです。ですから、PMの中で「10マイクロメートルより小さいもの(SPM)」「2.5マイクロメートル以下のもの(PM2.5)」を分けて取り出し、その量を測ることで、大気質のよしあしを示す指標としています。空気1立方メートルあたりに含まれるSPMやPM2.5の重さを、ミリグラム(1000分の1g)またはマイクログラム(100万分の1g)の単位で表します。数値が低いほどPMが少ない、すなわちきれいな空気ということになります。

「大きさで分けるのが簡単だから」と書きましたが、空気中でのPMのふるまいを左右する最も重要な要素は大きさですから、このように分類するのは理にかなってもいます。大気質の観点で問題となるのは、PMが人の呼吸器内でどうふるまうかです。人は主に鼻から空気を取り入れますが、その先には咽頭・喉頭(いわゆる「のど」)、気管が続き、左右二手に分かれた後、さらに細かく枝分かれした気管支があります。無数に分岐した気管支の末端が肺胞(肺のほとんどを占める部分)につながり、ここで酸素と二酸化炭素の交換が行われます。

鼻から吸い込まれた空気に混じっているPMで大きなものは、鼻毛にとらえられたり、のどの粘膜にくっ付いてしまったりして、それより奧に進むことができません。のどより先の気管に進入しうるPMの大きさが、おおむね10マイクロメートル以下とされています。気管や気管支は粘液に覆われて保護されており、気管に入ったPMの一部はこの粘液にからめ捕られたあと上部に送られて、口から排出されることもあります。しかし、気管支や肺の奥深くにまで入り込んでしまった、より小さな「PM2.5」は、この仕組みをもってしても排出が難しく、呼吸器内部に沈着して健康被害をもたらすことが懸念されているのです(図2)。
 
「PM2.5」の中でも、特に小さな粒子やPMから溶け出した物質が血液に取り込まれて運ばれ、呼吸器以外の器官に影響を及ぼすことも考えられます。PMが小さければ小さいほど人体への悪影響が大きくなるという見方もあり、最近の研究論文では、さらに小さい区分であるPM1やPM0.1も取り上げられています。

何が含まれているのか? 健康への影響は?

呼吸器に沈着した「PM2.5」が体内でどのような反応を引き起こすかは、やはり「何でできているか」ということが関係してきます。前述のようにPMの組成は時と場所によって異なりますが、一般的に「PM2.5」に多く含まれるものとして、硫酸塩、硝酸塩、有機化合物、すす(ブラックカーボン)が挙げられます。硫酸塩と硝酸塩は、それぞれガス状のSOxとNOxが空気中で粒子に変化したもので、大部分が粒径1マイクロメートル以下と、「PM2.5」の中でも特に小さい部類に入ります。これらのもととなるガスの多くは、自動車の排気ガスや火力発電所、家庭用の暖房器具など、石炭やガソリンといった化石燃料の燃焼によるものです。

中国国内で発生する「PM2.5」の場合、不純物の多い石炭を使用しているため、硫酸塩に混じってヒ素や鉛など有害な元素が含まれるという問題もあります。有機化合物やススもまた、化石燃料やバイオマスの不完全燃焼によって生じるものが多いようです。日本国内で一時期、ディーゼル車の排気によるPMが環境問題としてクローズアップされましたが、その主要な成分もさまざまな種類の有機化合物とススでした。「PM2.5」に含まれる発ガン性物質として話題になった多環芳香族炭化水素(PAH)も、有機化合物の一種です。自動車の排気ガスやタバコの煙にも含まれる成分で、大陸起源の「PM2.5」に特有なものというわけではありません。
 
ある物質が人体に有害かどうか、どの程度危険なのかを調べるのには、いくつかの方法があります。その一つは、特定地域の環境中の物質の量と、そこで疾病が発生したり死亡したりする頻度との間に相関があるかを統計学的に見るというやり方です。また、ラットなどの実験動物に問題となる物質を投与して異変が生じるかを見る方法、培養した細胞や組織にその物質を加えて起きる反応を調べる方法も用いられます。

「PM2.5」やその抽出物を用いて行った数々の研究から、これらが呼吸器系の炎症をもたらす作用を持つこと、アレルギー性の呼吸器疾患や循環器系の疾患を引き起こしたり悪化させたりする可能性のあることが指摘されています。環境基準や暫定的指針にある数値は、そのような研究に基づいて決められました(岸川禮子先生コラム「PM2.5、黄砂はなぜ体に悪いのか」表1参照)。しかしながら、どういう地域や人々を対象とするか、何を使って実験し、どのように 解析するかによって、研究結果には差があります。「大陸起源のものを含む日本のPM2.5についてはどうなのか」を確認するために、現在国内のさまざまな機関で研究が進められているところです。

PMとどうつきあっていくか

「PM2.5」に限らず、あらゆるPMは身体の中にたくさん入ってしまえば「有害」です。有害なものは避けたいというのが人情ですが、空気中にPMの無いところなどありません。地球上に生きている限り、人はPMとつきあっていかなければならないのです。同じことは、太陽光に含まれる紫外線についてもいえます。紫外線を浴びると皮膚ガンのリスクが高まることはよく知られていますが、だからといって家の中に閉じこもるわけにはいきませんね。日焼け止めや日傘を使い、皮膚に当たる紫外線量をなるべく減らしながら、紫外線とつきあって暮らしています。

PMの場合は、呼吸器に入ってしまう量をなるべく減らせばいいわけです。個人差や運動量にもよりますが、人は毎日、体積にして10~20立方メートルの空気を吸い込みます。空気1立方メートルあたりに含まれるPMの量が10マイクログラム増えれば、一日に吸い込まれるPMの量は100~200マイクログラム増えることになります。これを重大ととらえるかどうかは人それぞれですが、PMがどの程度危険なのかまだ明確になっていない以上、できるだけ身体に入れない工夫をするのが無難といえるでしょう。「外出時にはマスクを着ける」「呼吸数を増やす激しい運動は控える」「窓は閉めて空気清浄機を使う」といった対策が挙げられます。

多くの自治体では、1時間ごとに測定したSPM(浮遊粒子状物質)や「PM2.5」(微小粒子状物質)の濃度をホームページなどで公開しています。環境省のウェブサイト「そらまめ君」(1)では、さまざまな地域のデータをまとめて見ることもできます。景色に霞みがかかって見えるようなときは、たいていPM濃度が上がっています。これらの情報をチェックして、自分の住む地域周辺のPM濃度を確認しましょう。また、「SPRINTARS」(2)や「CFORS」(3)など、シミュレーションモデルによる濃度予測も公開されていますので、事前の準備に役立てることができます。SPRINTARSはNHKのデータ放送でも見られます。

冒頭で述べたように、PMは中国から飛んでくるものだけではありません。上に挙げたウェブサイトなどの情報は、自分の生活圏でのPM濃度がどれほどであるのか、普段から把握しておくのにも役立ちます。「どの濃度になれば対策すればいいのか」というのは難しい問題ですが、環境省の暫定的指針にある数値(日平均値70マイクログラム/立方メートル、1時間値85マイクログラム/立方メートル)は一つの目安となります。

ただし、これはあくまでも目安であって、この数値を超えたから病気になってしまうとか、まだ達していないから大丈夫とかいうことではありません。結局のところ、判断は各個人に委ねられます。特に「PM2.5」に関しては、今後明らかになった知見から暫定的指針が見直される可能性もあります。新しい情報に注意して、安全を心がけながらも神経質になり過ぎず、各自のライフスタイルに合わせて臨機応変に対応するのが、うまくつきあうコツといえるでしょう。

(1) 環境省「そらまめ君」 http://soramame.taiki.go.jp/Index.php
※NHKサイトを離れます

(2) SPRINTARS  http://sprintars.riam.kyushu-u.ac.jp/index.html
※NHKサイトを離れます

(3) CFORS  http://www-cfors.nies.go.jp/~cfors/index-j.html
※NHKサイトを離れます

(2013年9月11日 更新)