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熱中症対策

第2回  今夏の熱中症の現状と、知っておきたい3段階の症状例

執筆者

三宅 康史
昭和大学医学部救急医学教授 昭和大学病院救命救急センター長
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熱中症の発生状況

第1回目は「熱中症とは何なのか!」その本質に迫りました。今回は、日本での熱中症の現状、診断基準、実際の症状と重症度などについて分かりやすく解説します。

現在のところ、熱中症患者の発生状況や重症度、死亡者数を正確に素早く公表できるシステムはありません。現状で発生数や重症度、年齢や発生地域の情報に関して、マスコミを含め最も多く利用されているのが、総務省消防庁が毎週火曜日にホームページ上で発表している「前週の熱中症患者の救急車搬送数」(http://www.fdma.go.jp/neuter/topics/fieldList9_2.html※NHKサイトを離れます)です(6月~)。このほかNHKなどが地方の放送局を通じて医療機関や消防署から個々に収集しニュースで独自に流す熱中症患者発生数や死亡者数があります。また、昨年夏の1か月の試行期間を経て今夏から本格的に集計が始まったのが、厚生労働省がホームページ上で公開している「熱中症入院患者等即時発生状況」(http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/nettyuu/index.html※NHKサイトを離れます)です(7~9月)。

総務省消防庁、厚生労働省、どちらも参考になりますが、それぞれ利点と欠点があります。消防庁の救急車搬送数は全国を網羅している利点がありますが、軽症が多いのが実情です。また、診察前に診断名と重症度を医療スタッフに記載してもらった搬送表を基にしているため、その後の診察で別の病気や重症度であった場合、変更ができません。一方、厚生労働省の熱中症入院患者等即時発生状況は、救急医療機関で医師の診察後に熱中症と診断され、入院または死亡となった重症患者の情報を、前もって定められたA4 1枚の用紙に記入し、医療機関がFAXで登録すれば、翌日午後には前日の熱中症症例数が地域別、年齢別、重症度別で公表されるというシステムです。診断は正確ですが、医療機関は自由参加のため、全国すべての救急医療機関の情報ではありません。更に、軽症例(外来診療のみ)については、受診した医療機関で作られるレセプトデータ(診療記録)を基に、熱中症患者の発生数、年齢構成、地域別発生数などを収集するシステムを準備中です。

平成25年7月以降の厚生労働省の熱中症入院患者等即時発生状況データを、消防庁の救急車搬送数データと比較して示します(図1左・右)。消防庁は軽症者が大多数、厚生労働省は入院例(一定以上の重症度)ですが、発生パターンなどの流れは大体同じです。前回のコラムで示した2010年と同様、梅雨明け最初の熱波の時に患者が大量発生したこと、8月に入ってからの第2波で発生数がそれほど増えていないのは、暑熱順化(暑さ慣れ)の影響です。

熱中症死亡例の真実

死亡例については、厚生労働省の死亡小票から収集されています。年次別にそれを示します(図2)。2007年、2010年など平均気温の高い年は、大幅に死亡者数が増えています。死亡者数は、2010年には過去最多の1,745人を記録し、女性の平均寿命を0.05歳下げ、救急車搬送件数を過去最高の546万3,201件に押し上げたといわれています(総務省消防庁2011年2月18日発表)。厚生労働省がホームページ上で発表している状況別の死亡者数としては、労働災害での熱中症死亡例は年間20人程度の報告があり、学校管理下の熱中症死亡は、1975~2009年の35年間で156例でした(日本スポーツ振興センター調べ)。これは年平均5人程度です。最近ではさらに少なくなってきています(年2人程度)。2012年に日本救急医学会「熱中症に関する委員会」が行った救命救急センターを中心とした103施設の重症熱中症患者2,000例以上の検討でも、夏季3か月での死亡者数は40人ほどでした。これ以外に農業・林業・水産業での熱中症死亡者がありますが、これらを含めたとしても、毎年1,000人近くの熱中症死亡者が報告されるのはなぜでしょうか。

一つの答えとして、夏場に異状死体として発見された症例が、検視(検死)の結果、熱中症を直接死因として登録(カウント)されている可能性が非常に高いことが挙げられます。基本的に寒い冬には死亡者数が増えることは一般にも知られています。しかし、東京監察医務院の統計で、これまでは夏季には減るはずの異状死者数が、猛暑となった2007年と2009年は従来の夏よりも急増していたのです。そして、異状死体の剖検例から熱中症を原因とするものは、例年7~84例(6~9月の4か月間)であったものが、2010年には200例を超えました。これらから、暑い夏には暑熱障害(heat illness)、あるいは暑熱関連障害(heat related illness)によって、熱中症を直接死因としなくても、持病の悪化、体力や食欲低下から体調を崩し、場合によっては感染症を併発して死亡にいたる例が増えると考えられます。また、脳卒中や致死的な心疾患で倒れて動けなくなり、結果として熱中症(体温上昇)に陥った症例も相当数含まれている可能性が高いと考えられます。解剖をしても、熱中症が先なのか、病気が先なのか分からないのです。そのため夏の異状死体は、死後の体温が高いという状況から判断して、熱中症が死因となってしまうのです。

“熱中症”という呼び名と、従来の“熱射病・日射病”

それでは、熱中症の診断はどのようになされるのでしょうか。以前は“熱射病”や“日射病”という言葉をよく耳にしていましたが、最近は行政やマスコミを含め、“熱中症”という診断名が一般的になりつつあります。それは2000年以降、日本神経救急学会と日本救急医学会が、暑い、蒸し暑い、日差しがキツイなどの環境の影響により、場合によっては筋肉運動や持病の影響によって体調を崩した暑熱障害まで、すべてを熱中症に統一しましょう、ということにしたからです。

従来から使用される熱けいれん、熱失神、熱疲労、熱射病(欧米で使用される診断名の日本語訳)という分類は、主な症状から命名されたもので、重症度や治療法と結びつきにくい欠点がありました。これに対し熱中症という診断名は、その重症度をI~III度で示し、症状とそれに応じた対処法、医療機関への搬送の必要性を3段階に分類し、一般の人にも理解しやすくしたものです。熱中症の重症度別の症状と対処法を(図3)に示します(右端列に、従来の診断名を参考までに記しています)。特に(付記)が重要で、症状は刻々と変化するのでそれを重症度の判断材料にせず、症状の悪化具合、回復具合から重症度を認識する必要があります。

熱中症の症状と対処法

筋肉のひきつりや痛み、一瞬の意識消失、手足のしびれなどの症状があり、現場の応急処置で回復するものをI度とします。これらは筋肉に限局した症状と、初期の軽い脱水による所見といえます。そのため意識はしっかりしています。頭痛や吐き気・おう吐、下痢・腹痛、けん怠感のほか、いま一つ意識がはっきりしない、ボーっとしている、体がふらつくなどの症状がある場合は、現場で応急処置をしつつ医療機関への搬送を必要とするII度以上と判断します。これらは脱水と高体温により、中枢神経、消化器などに障害が及んだ所見といえます。III度は、医療機関での採血検査などによって、1)中枢神経症状、2)肝・腎機能障害、3)DIC(血液凝固異常)が存在する場合に診断され、入院治療を要する病態で、場合によっては集中治療が必要となります。

I度、II度の症状はともに非特異的であるため、症状にとらわれず暑熱環境に居る、あるいは居たという現病歴から熱中症を疑う必要があります。すぐに、1)冷所での安静、2)体の冷却、3)水分摂取などの応急処置を行い、症状の回復がなければ救急車で医療機関へ搬送します。誰も付き添わずに一人にしてしまい、病態の悪化に気付かず見落とすと、死を招く危険性があります。I~III度の重症度については、環境省が発行している『熱中症環境保健マニュアル』で分かりやすいイラストとともに解説されているので、そちらもチェックしてみてください。

(2013年8月30日 更新)