トップページ > コラム > 地震・津波台風・大雨落雷・突風大雪猛暑火山・降灰火災PM2.5・黄砂防災の知恵首都圏の地震活動

地震全般・各地の地震活動

第6回  首都圏の地震活動

執筆者

平田 直
東京大学地震研究所教授、地震研究所地震予知研究センター長
プロフィール・記事一覧

首都圏は地震の多い場所

首都圏の位置する南関東は、これまで繰り返し大きな地震が発生し、震災に見舞われてきました。この中で特に重要な地震は関東地震(1923年/M7.9)です。この地震によってもたらされた関東大震災では、約10万5,000人が犠牲になりました。その約9割が火災によります。明治時代以降、現在までの約120年間にはM7程度の地震が南関東で5回発生し、被害が生じています。

江戸時代には、安政江戸地震(1855年/M6.9)で7,000人以上、元禄地震(1703年/M8.1)では約1万人以上が犠牲になりました。江戸や小田原で火災が発生して多くの被害が発生しました(図1)。また、延宝地震(1677年)が房総半島の太平洋沖で発生し、大きな津波が現在の福島県から房総半島・外房沿岸、八丈島など伊豆諸島を襲い、死者500人を超えるなど、各地に被害をもたらしました。この地震は、揺れの強さに比べて高い津波が発生する津波地震といわれ、津波データを基に決められた「マグニチュードMt」は8.0と推定されています。

さらに、鎌倉時代にまでさかのぼると、1293年、1257年、1241年に鎌倉で強い揺れが感じられる地震が発生しました。1293年の地震(M7.5)では死者が数千人にのぼり、津波被害があったと記録されています。平安時代にも818年と878年に関東諸国で多数の死者が出た地震が発生しています。

「首都直下地震」とは何か

首都圏に強い揺れをもたらす大きな地震は、どのような仕組みで発生するのでしょうか。多くの巨大地震はプレート境界で発生します。南関東では、南方からフィリピン海プレートが関東地方の下に年間約5センチメートルの早さで沈み込み、その下には、東方から太平洋プレートが年間約10センチメートルで沈み込んでいます。

これらのプレートの上面で大きなずれが生じると巨大地震が発生し、首都圏では大きな揺れを感じます。関東地震と元禄地震は、フィリピン海プレートと陸側のプレート境界で発生した巨大地震です。さらに、プレートの内部でも、沈み込みに伴って大きな力がかかり、明治東京地震(1894年/M7)などM7クラスの大地震が発生しています。延宝地震は、太平洋プレートの沈み込みに伴って発生した地震です。ただし、プレートの境界で発生したのか、プレートの内部で発生したかは、地震計の記録のない古い時代の歴史資料の解析からだけでは分かっていません。

プレート境界のM8クラスの巨大地震は陸域から遠い海域で発生し、広い領域で強い揺れが感じられます。関東地震では東京の下町で多くの犠牲者が出ましたが、強い揺れの領域は、房総半島から三浦半島、湘南海岸、小田原まで広がっています。M7クラスの地震では、強い揺れが感じられる領域は限られていますが、人口の多い都市部の直下で発生すれば、多くの被害が出ます。阪神・淡路大震災を起こした兵庫県南部地震(1995年)による震度7の領域は、せいぜい長さ20km、幅5km程度の広がりでしたが、約6,500人が犠牲になりました。

これを教訓に、東京23区の真下でM7クラスの地震が発生したことを想定して地震防災対策を講じておくことは大変重要です。「首都直下地震」というのは、必ずしも「地震学的に特定の地震」を指すのではなく、防災的な意味で、首都圏の都市部の下でM7程度の地震の発生を考える時に、忘れてはならない地震なのです。もちろん首都圏のどこかでM7程度の地震が発生する可能性は、とても高いことを忘れてはなりません。

現在の首都圏の地震活動

首都圏の地震活動は、地震国日本の中でも活発であるといえます。地震を発生させる原因となる沈み込むプレートが二つあることが、首都圏で地震がたくさん発生する理由です。1894年明治東京地震以来、南関東(首都圏)ではM7クラスの地震は5回発生しています。これらの地震は必ずしも東京23区の下で発生したわけではなく、南北約150km、東西約150kmの広い範囲で発生した地震の数が5回あったということです(図2)。

このことから、(図2)で示した南関東のどこかで、今後30年以内にM7程度の地震が発生する確率は70%であるといわれています(1)。関東の中小の地震の発生数を調べてみると、M6クラスは平均で10年に1回程度、M5クラスは1年に1回程度、M4クラスは1月に1回程度、M3クラスは数日に1程度は発生しています。M4クラスの地震が発生すると有感になるので、首都圏のどこかで、平均して1月に1回くらい、人々は地震を感じています。

さらに、小さな地震(無感地震)は、毎日たくさん発生しているのです。これらの地震は、フィリピン海プレートと陸側プレート、太平洋プレートとフィリピン海プレートの境界近辺だけなく、プレートの内部や、浅い地殻内部でも発生しています(図3)。実は、2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震の後、南関東の地震活動は活発化しました。地震直後が最も高く、地震前の5から6倍でした。その後、徐々に減少していますが、今でも、以前の発生数の倍程度の数の地震が発生しています。

参考文献
(1)地震調査研究推進本部・地震調査委員会, 2004,相模トラフ沿いの地震活動の長期評価(平成16年8月23日).
http://www.jishin.go.jp/main/chousa/04aug_sagami/index.htm
※NHKサイトを離れます

首都直下で地震が起きたらどうなるのか

地震災害(震災)が発生する二つの要素(災害素因と、災害誘因)については、「第2回 地震と災害~過去の地震災害に学ぼう~」で説明しました。人口が多く、地震活動の活発な首都圏は、そのいずれの要素も震災が発生する可能性を大きくしています。つまり、首都圏は世界的にみても震災の危険性の高い場所です。震災の誘因である地震の発生は止めることはできません。しかし、もし地震が発生した時に何が起きるかをあらかじめ知ることができれば、災害を軽減する備えを進めることができます。社会の震災へのもろさ(災害素因)を少しでも減らすことによって、災害を軽減することができるのです。

国の中央防災会議や自治体は、もし首都の直下で大地震が発生したら、どのような揺れが生じ、その結果、建物被害や人的な被害がどの程度になるかを予想しました。これを「地震被害想定」といいます。被害想定の目的は、被害の具体的で定量的な予測を行うことで、行政的な備えを具体的に行えるようにすることです。つまり、被害想定に基づいて、行政は防災計画を作ることができます。さらに、個人や企業も防災に備えることができます。

中央防災会議は平成17年に「首都直下地震」に関する被害想定を行い、最悪のシナリオで、死者1万1,000人、経済損失112兆円と発表しました(2)。東京都はそれを受けて、平成18年に「首都直下地震」による東京の被害想定を行いました。その特徴は、人口密度が高く、木造住宅が密集している地域での犠牲者の数が多いということです。大正の関東大震災の犠牲者の9割が火災によったことを思い出してください。現在の東京でも、火災による犠牲者が全死者の約半分にのぼることが予想されています。

平成23年の東日本大震災を受けて、国も自治体も被害想定の見直しを行い、東京都は国に先駆けて平成24年4月に新しい被害想定を発表しました(3)。この改定では、地震に関する最新の科学的な知見と、都内の建物や人口の変化とが考慮されました。その結果、東京都での最悪の死者数の想定は、平成18年の想定の約1.5倍になりました(表1)。この主な原因は、地震による強い揺れの範囲が以前の想定より広がったことと被害を受ける家屋に滞留する人口が増えたことです。都内の古い木造家屋は、平成18年から平成24年にかけて、約132万棟から97万棟に減っています。この結果、建物被害数の想定は小さくなりましたが、発災時に建物に滞留する人の数が増えたために、全体としての被害者数は約6,700人から9,700人に増加したのです。中央防災会議では、平成25年度中に新しい「首都直下地震」と、関東地震や元禄地震タイプの巨大地震の被害想定を公表する準備をしています(平成25年8月現在)。

被害想定では、具体的に揺れの強さや、強い揺れの範囲を計算して、地図に示します。首都圏で発生する地震の姿(地震の大きさ、発生場所、地震による揺れ方の種類等)についても、最新の科学的な知見を採用しています。注意すべきことは、こうした被害想定は仮定した地震像によって、揺れの分布(震度分布)が大きく変わることです。この情報に接したとき「自分の住んでいるところが隣に比べて小さいので安心だ」と思うのではなく、「すぐ隣町で強く揺れる可能性があるということは、自分の住んでいるところも大きく揺れる可能性がある」と考えて、揺れへの備えを始める必要があります。

首都圏で地震発生の可能性の高いことは、過去の地震の歴史、地学的な理由から間違いのないことです。そして、人口が多く、経済活動の活発な社会は、何も対策を取らなければ、震災の危険性が高いのです。しかし、適切な対策を行うことで、震災を軽減することは可能です。国や自治体の行政、企業や組織、個人のそれぞれの立場で今から備えを始めてください。

参考文献
(2)中央防災会議・首都直下地震対策専門調査会、2005、首都直下地震対策専門調査会報告(平成17年7月)
http://www.bousai.go.jp/kaigirep/chuobou/senmon/shutochokkajishinsenmon/pdf/houkoku.pdf
※NHKサイトを離れます

(3)東京都防災会議、2012,首都直下地震等による東京の被害想定報告書
(平成24年4月18日公表)
http://www.bousai.metro.tokyo.jp/japanese/tmg/assumption.html
※NHKサイトを離れます

(2013年9月11日 更新)