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異常気象

第1回  世界的な異常気象と地球温暖化

執筆者

中村 尚
東京大学先端科学技術研究センター気候変動科学分野 教授
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異常気象とジェット気流

「異常気象」は、厳密には「ある地点で30年に1回程度しか起こりえないような極端な天候状態(気温や降水量)」を意味します。しかし、実際には、それほど極端ではなくても社会的に影響の大きな異常な天候状態をも含めているようです。

わが国を含む中高緯度・亜熱帯域の異常気象は、上空を流れる「偏西風ジェット気流」の蛇行に伴って起きることがほとんどです。中高緯度域では緯度とともに気温が低下する傾向にあり、これを反映して上空ほど強い西風(偏西風)が吹いています。地球の自転の効果により、ある地点で上空と地表との風速差は気温の南北差に比例します※1。上空の特に強い流れを「ジェット気流」と呼びますが、偏西風ジェット気流はまさに対流圏の気温の南北差が特に強い緯度帯を吹くことになります。つまり、北半球の偏西風ジェット気流は、その南側の暖気と北側の寒気が接する緯度帯を吹いているのです。よって、寒気の勢力が強まる冬に、「ジェット気流」は南下して強まり、寒気が弱まり暖気が北上する夏には、北上して弱まる傾向にあります。

こうした性質を理解すれば、通常ある緯度帯を西から東に流れている「ジェット気流」の持続的蛇行が、気温分布の異常をもたらすのを想像するのは、さほど難しくはないでしょう(図1)。例えば、北半球で「ジェット気流」が持続的に南下した地域では通常より寒冷な空気に覆われて異常低温となりがちです。逆に「ジェット気流」が北上した地域では温暖な高気圧に覆われて異常高温となりやすく、夏には干ばつが深刻化することもあります。一方、「ジェット気流」が南から流れる所では、下層に暖湿な気流が流れ込んで集中豪雨が起こることもあります。

※1.これを「温度風平衡」といい、大規模な大気・海洋の流れと温度分布を強く結びつける条件です。

ジェット気流の蛇行の性質とその要因

通常の状態でも「ジェット気流」は、ある緯度帯を常にまっすぐに吹いているわけではありません。春や秋に日々の天気変化をもたらす地表の温帯低気圧や移動性高気圧は、「偏西風波動」と呼ばれる上空の渦を伴って偏西風を蛇行させています。時に上空の低気圧性渦が特に強まり、地上の低気圧も急激に発達して広い範囲に暴風雨(雪)をもたらすことも珍しくはありませんが、こうした現象は一過性です。地上の高低気圧とともに、上空の蛇行も東進してゆくからです。

特に北半球では、冬に強まる「ジェット気流」が毎年同じように大規模で緩やかな蛇行を示す傾向があります。これは、ヒマラヤ山脈・チベット高原、ロッキー山脈などの大規模山岳に西風がぶつかったり、強く冷やされる大陸と比較的温暖な海洋との間の熱コントラストによって引き起こされたりする、地球規模の「ジェット気流」の蛇行です。こうした「惑星波」と呼ばれる大規模な波動に伴い、日本の位置するアジア大陸東岸では冬に季節風が強まり、下層寒気が強く南下して気温の南北差が著しくなり、上空の「ジェット気流」も九州の南まで南下し、世界中で最も強く吹きます。これほど顕著ではありませんが、同じ傾向が北米東岸にも見られます(図2)。

対照的に、ヨーロッパや北米西岸では寒気の南下が弱く、上空の「ジェット気流」も弱くて北上しています。「日本列島は南北に長いので南北の気温差が大きい」という説明をよく耳にしますが、冒頭に「アジア大陸の東岸に位置する」とつけなければ、十分な説明にはなりません。こうした「ジェット気流」の季節的な蛇行は、四季の明瞭な東岸気候と一年を通して温和な西岸気候を特徴付けるものです。ところが、時として「ジェット気流」は、こうして毎年現れるものとは異なった蛇行を示し、それが持続すると異常気象が発生しやすくなります。その要因はさまざまですが、最も顕著な要因の一つは、赤道太平洋で海洋と大気が結合して変動する「エルニーニョ現象」です。数年に一度、この海域を吹く貿易風が何らかの原因で弱まって水温が異常に上昇し、積乱雲の発達する海域が平年より東に偏る現象です。この逆が「ラニーニャ現象」で、「エルニーニョ現象」と交替で起こります。貿易風が異常に強まり、赤道太平洋の東側で水温が低く西側で水温が高いという東西差が例年以上に拡大して、熱帯西太平洋で積乱雲が著しく発達します。

こうした熱帯降水域の変動は大気の加熱分布を大きく変化させるため、その影響は熱帯の大気循環だけでなく、中緯度の大気循環にも及びます。例えば、エルニーニョの冬には日本付近で上空の亜熱帯高気圧が強まって「ジェット気流」が北偏するため、南日本では暖冬になりやく、反対にラニーニャの冬には「ジェット気流」が南偏して、寒冬になりやすい傾向があります。こうしてある地域に「ジェット気流」の異常な蛇行が何らかの原因で引き起こされると、その影響が流れに沿ってはるか東方にまで及ぶという性質があります。この「遠隔影響」は、「ジェット気流」の蛇行が大規模な波動の性質を持つからです。この「ロスビー波」と呼ばれる波動が東方へ伝ぱするにつれ、「ジェット気流」の南北蛇行の地域が東へ延びてゆくのです。例えばエルニーニョの冬、日本上空で北偏した「ジェット気流」はその東方の北太平洋上空で南偏し、海上の大規模低気圧(アリューシャン低気圧)を強め、そのさらに東方の北米西部と東部の上空でそれぞれ再び北偏・南偏して、北米中東部に寒波をもたらす傾向があります。

わが国に異常気象をもたらす要因

わが国に異常気象をもたらす「ジェット気流」の蛇行は、「エルニーニョ現象」や「ラニーニャ現象」だけに起因するわけではありません(図3)。熱帯インド洋や日本南方の水温変動の影響も重要です。特に、「ラニーニャ現象」の起きた冬に続く夏には、フィリピン周辺の水温が平年より高くて台風が活発に発生し、その影響で日本上空の「亜熱帯ジェット気流」が北へ蛇行する傾向※2があります。この「ジェット気流」は熱帯と中緯度の空気の境界を吹いており、その北上に伴い地表の夏の高気圧(小笠原高気圧)が強く、日本付近に張り出して猛暑となります。また、この「亜熱帯ジェット気流」に沿って、南欧や中東方面から「ロスビー波」が伝わってきて、日本上空で北偏して、小笠原高気圧が強まることがあります※3。

一方、日本に冷夏をもたらす冷涼なオホーツク海高気圧は、北欧からシベリア北部上空を伝ぱしてくる「ロスビー波」によって、オホーツク海北部の偏西風ジェット気流が北へ蛇行することで形成されます。この「亜寒帯ジェット気流」は中緯度と寒帯の空気の境界を流れるもので、蛇行によって中緯度の涼しい空気が日本付近に流れ込むことになります。なお、オホーツク海高気圧の発達する数日前には北欧でも「ジェット気流」が北へ蛇行して異常高温がもたらされ、北欧から極東へと異常気象が連鎖することになります。冬になると、日本上空の熱帯の偏西風ジェット気流の蛇行は、熱帯の「エルニーニョ・ラニーニャ現象」からの影響だけではなく、「ジェット気流」を伝ぱしてくる「ロスビー波」に伴っても起こります。特に、グリーンランド付近で亜寒帯ジェット気流を北へ持続的に蛇行させる「ブロッキング高気圧」が形成させると、その影響が「ロスビー波」として南東に伝ぱし、シベリア高気圧を強めて日本に寒波をもたらします。

※2.この関係を「太平洋-日本・パターン」(Pacific-Japan:PJパターン)と呼びます。
※3.この遠隔影響を「シルクロードパターン」と呼びます。

温暖化と異常気象

ご存じのように、人間活動により温室効果気体が排出され続け、大気中の二酸化炭素濃度は今年ついに400ppm※4を超えました。それにより温室効果も強まり、地球全体で平均した地表気温も過去30年間顕著な上昇傾向を見せています。スーパーコンピュータによる予測では、このまま温室効果気体の排出が続けば、気温はさらに上昇して地球気候に大きな影響が生じうることが示されています。平成に入って以来、わが国でも顕著な冷夏は2回(1993・2003年)しかありませんが、暑夏はずっと頻繁に起きており、今年も西日本中心に暑夏の傾向にあります。

もし温暖化が主因であれば毎年高温の記録を更新するでしょうが、実際はそうではありません。それでも近年暑い夏が起こりやすいのは、以前と同じように「亜熱帯ジェット気流」が蛇行して同じだけ気温上昇がもたらされても、温暖化が徐々に進行しつつあるため、気温自体は以前の同様なケースに比べてより高くなるというわけです。また、以前にはめったに観測されなかった1時間80mm超の豪雨も今日では珍しくなくなってきており、集中豪雨の被害も深刻化しています。これは温暖化によって大気下層の水蒸気量が増えていることに関連しています。

では、温暖化が進めばどの地域でも以前より高い気温が観測しやすくなるのでしょうか? これに関連して興味深いのは日本の冬季気温の傾向です。数十年という長さで見れば温暖化傾向は明瞭ですが、最近は暖冬が頻発することはなく、かなり寒くて豪雪に見舞われる冬も少なくありません。この要因の一つの可能性として最近注目されているのが、2005年以降に観測されている北極海の海氷面積の急激な減少です(図4)。西シベリアの沖合では、秋になっても以前ほど氷が張らず、大陸よりも暖かい北極海から大気へ熱が供給され続けています。この影響で亜寒帯ジェット気流が蛇行するのに伴い、地表のシベリア高気圧が強化されて日本へ寒波をもたらすという説明です。西シベリア沿岸での大気加熱の影響は秋に最大となるにもかかわらず、なぜその影響が真冬まで続くのかなど、未解明の点はいくつかあります。北極で急激に現れつつある温暖化のシグナルの遠隔影響として、わが国の寒冬がもたらされている可能性として興味深いものです。

※4. ppmは100万分の1、400ppmは0.04%

(2013年8月30日 更新)