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地震による建物被害

第1回  建物の揺れによる被害

執筆者

福山 洋
独立行政法人建築研究所 構造研究グループ長 工学博士
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東日本大震災の振動被害

2011年の東日本大震災は津波による災害が顕著でした。では、この東日本大震災の「揺れによる建物の被害」はどうだったのでしょうか。揺れによる建物の倒壊が多く見られた1995年の阪神・淡路大震災と比較してみましょう。

東日本大震災で全壊した建物の数は、約12万9,000棟で、阪神・淡路大震災の約10万5,000棟を上回りました。しかし、その大部分は津波による被害でしたので、揺れにより全壊した建物は、阪神・淡路大震災よりもずっと少なかったようです。さらに、東日本大震災では、強い揺れを経験したエリアが広く建物の総数も多かったので、全壊した建物の「割合」は、阪神・淡路大震災の場合を大きく下回っていたと考えられます。

地震被害の調査でも、阪神・淡路大震災の震度7の地域では、あちこちに倒壊もしくは大破した建物が目に入るほど、被害建物の「割合」は大きかったのですが、東日本大震災では、震度6強や震度7の地域でも、倒壊や大破した建物はすぐには見つからないような状況でした。このように、東日本大震災のほうが揺れによる全壊建物の「割合」が小さかったのは、周期1~2秒での地震動のパワーがあまり大きくなかったからだといわれています。周期とは、建物が左右に1回揺れるのに要する時間のことで、1~2秒というのは、おおむね一般的な建物が倒壊する時の周期に相当します。

(図1)は、阪神・淡路大震災時のJR鷹取(兵庫県神戸市須磨区)と東日本大震災時の築館(つきだて:宮城県栗原市)の地震動(いずれも震度7)に対して、いろいろな周期の建物にどのような大きさの加速度が生じるかを示しています。この図の周期が1~2秒の範囲を見ると、JR鷹取(青の破線)の方が、築館(赤線)よりも3倍以上大きな加速度となっています。築館では、短い周期の加速度はとても大きいのですが、周期が長くなると加速度は急激に小さくなっています。同じような特徴は、他の観測地点でも見られました。これが東日本大震災で、震度が大きい割に大きな被害を受けた建物の「割合」が、阪神・淡路大震災ほど大きくならなかった原因と考えられています。このように、同じ震度でも、建物の被害の程度は大きく異なることがあります。

地震の時に建物に働く力は「質量×加速度」で表すことができます。それぞれの建物の質量は地震によらず一定ですので、加速度が大きい方が建物に横から作用する地震力が大きくなります。つまり、阪神・淡路大震災の方が損傷した建物に作用した力が大きく、より厳しい揺れであったことが分かります。

古い建物と新しい建物の耐震性

1968年の十勝沖地震では、当時の耐震基準を満たしていた鉄筋コンクリート造の学校建物が倒壊しました。この被害などが発端となり、大地震に対する新しい耐震設計法の開発プロジェクトが立ち上げられ、その成果を元に1981年に建築基準法の耐震規定が改正されました。この規定は、当時「新耐震基準」と呼ばれましたが、改正後30年以上が経過した今でも若干の内容の改正はありましたが、その本質的な部分は変わっておらず、今でも変わらずに「新耐震基準」と呼ばれています。

新耐震基準の効果は、1981年以降に発生した地震の被害により確認することができます。最も顕著なものが上述した1995年の阪神・淡路大震災です。この震災では「新耐震基準」に基づいて設計された建物(以降「新耐震建物」)の被害はどうだったのでしょうか。実は、大破や倒壊した建物は、そのほとんどが「新耐震基準」よりも前の基準で設計された建物(以降「旧耐震建物」)で、「新耐震建物」では、鉄筋コンクリート造の共同住宅で、1階が駐車場であるピロティ形式の建物を除いて倒壊したものはありませんでした。倒壊が見られたピロティ形式の建物については、この被害の経験により関連する規定が改正され、詳細な設計の考え方も基準解説書に示されました。それ以降は、東日本大震災も含めて「新耐震建物」の倒壊の報告はありません。

鉄筋コンクリート造建物の場合、「旧耐震建物」によく見られる破壊パターンは、柱のせん断破壊です。(写真1)のように、柱に斜めの大きなひび割れが一気に生じ、それとともに上階の重量を支えられなくなり、建物として倒壊に至るというものです。このような破壊は、「新耐震建物」ではせん断補強筋(柱を囲むように横方向に配される鉄筋)の量を増やすことで適切に防止されており、これが1981年より前と後の建物で、被害の程度が大きく異なる理由の一つです。このことは、1981年以前に設計された「旧耐震建物」では、まず耐震診断を行ってその耐震性能を調べ、それが不足する場合には耐震改修により「新耐震建物」と同等の耐震性能まで向上させる必要があることを示しています。

なお、東日本大震災で大きな被害を受けなかった建物でも、今後より大きな地震動を受ける可能性は否定できません。そのような「旧耐震建物」では、やはり耐震診断を実施し、必要な耐震性を満たさない場合には耐震改修を行うことが肝要です。

建物の耐震設計の考え方

「旧耐震建物」では、(写真1)のせん断破壊のように、地震の時に急激に壊れる危険な破壊がよく見られます。このような破壊形式を「脆性破壊(ぜいせいはかい)」といいます。一方、新耐震基準は、脆性破壊を防止し、建物が粘り強く変形できる設計方法を取り入れました。このような粘り強く変形できる特性を、「靱性(じんせい)」といいます。では、このような壊れ方の違いが、建物の耐震性能にどのような影響を及ぼすかを見てみましょう。

(図2)は、地震の際に建物に横から力が掛かったときの、力の大きさと建物の横方向への変形の関係を模式的に表したものです。この中の1)は建物が「脆性破壊」をする場合で、最初は力と共に変形が大きくなりますが、A点で破壊が生じ壊れるパターンです。これ以降は地震には抵抗できません。一方、2)は「靱性」のある建物の場合で、最初は1)と同様に力と共に変形が大きくなりますが、C点から力は増えずに変形だけが大きくなり、最終的にはD点で破壊し抵抗力が低下するようなパターンです。

地震による建物の揺れは、地震のエネルギーが建物にもたらされることによって生じると考えられます。この場合、建物はもたらされた分だけエネルギーを消費しますが、その大部分は建物が変形することによって消費されます。(図2)は、力と変形の関係ですが、1)のパターンでは直線よりも下の部分の面積、つまり三角形OABの面積が変形によって消費されるエネルギーを表します。2)のパターンでは、四角形OCDEの面積が、変形によって消費されるエネルギーを表します。耐震設計では、これらの面積が等しい場合は消費できるエネルギーが同じですので、耐えられる地震のエネルギーも同じであり、耐震安全性は同じだと考えます。そして、大きな地震エネルギーに耐えられるように、1)のパターンで大きな耐力を持たせる(=強くする)か、もしくは、2)のパターンで大きく変形できるようにする(=粘り強くする)という、2通りの考え方が用いられます。

「旧耐震建物」では、1)のパターンのように「脆性破壊」するものが多いのですが、一般にその耐力は小さいため地震エネルギー消費能力も小さく、そのため大地震ではすぐにA点に到達し破壊してしまうわけです。これを防ぐには、壁や鉄骨ブレースなどを増設して「強くする」(A点の耐力を大きくする)か、柱の周りを鋼板や炭素繊維などで囲み、せん断破壊を防止して「粘り強くする」( 2)のパターンにする)方法が考えられます。これが、耐震改修の主な考え方です。

東日本大震災による教訓とこれからの課題

東日本大震災では、以前の地震では見られなかった、もしくはそれほど大規模なものではなかった以下に示すような被害が見られ、新しい課題として取り上げられました。

1)津波:津波による鉄筋コンクリート造建物や鉄骨造建物の転倒や倒壊の被害が見られました。津波の際には高台避難が原則ですが、近くに高台が無い海岸地域などでは、「津波避難ビル」を設けて人命を守る必要があります。将来の大規模な津波に備えて、安全な「津波避難ビル」を構築するための設計法や構造技術が必要です。

2)地盤の液状化:大規模な地盤の液状化による戸建て住宅の傾斜などが見られました。このような被害を防ぐためには、各敷地での液状化の可能性を調べる必要があります。しかし、これまでは地盤に穴を掘るなどの大規模な地盤調査が必要で、その費用が高額なため戸建て住宅にはなかなか適用されませんでした。そのため、できるだけ簡易で安価な地盤調査で、液状化の可能性を正しく判定できる手法の開発が求められています。

3)天井やエスカレーターの落下被害:東日本大震災では、体育館(写真2)や音楽ホールなどで天井の大規模な落下が、また、ショッピングセンターでエスカレーターの脱落が発生しました。このような被害を未然に防ぐための設計法および、施工技術の構築が求められています。

4)長周期地震動:震源から700km以上離れた大阪の超高層ビルが長周期地震動に共振して大きく揺れ、内装材等に損傷が発生しました。また、近い将来に発生するといわれる南海トラフの巨大地震などでは、東京・名古屋・大阪の大都市圏で長周期地震動が卓越し、それに超高層建物や免震建物が共振して大きな損傷が発生する可能性が指摘されています。このような被害を防ぐために、長周期地震動を考慮した超高層ビルや免震建物の設計法を構築する必要があります。

以上については、現在、被害発生のメカニズムや対処方法についての技術的な検討が行われています。津波被害と天井やエスカレーターの落下被害については、既に技術基準が示されましたが、さらなる基準の合理化に向けた検討なども行われています。液状化については簡易判定手法について、長周期地震動については共振を考えた設計法についての検討が行われています。

(2013年8月30日 更新)