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水災害から身を守る

第1回  何が起きるかを知って身を守る -水災害の危険性-

執筆者

石垣 泰輔
関西大学環境都市工学部 教授
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水に関わる災害 -水災害(みずさいがい)-

1560年6月、桶狭間(おけはざま)の戦いで、織田信長が今川義元を討ち取ったのは、豪雨を利用したといわれているのですが、これをTV番組で検証した実験に立ち会ったことがあります。その実験は、「時間何mmの雨であれば、織田軍が気付かれずに今川義元に近づけたか」というものでした。結果は、時間30mm以上になると30から40m程度離れると兵士が見えなくなり、雨音で他の音は聞こえなくなるというものでした。

時間30mmもの雨は「バケツをひっくり返したような」と例えられますが、実感するのが難しいものです。近年、これを上回る時間50mm以上の雨の発生回数が増えていて、桶狭間の近くでも、2000年9月の東海豪雨災害、2008年8月の岡崎豪雨など、短時間に集中して降った雨による被害が発生しています。このような被害は、日本各地で発生し、今年も7月、8月に山口県と島根県、8月に秋田県で被害が発生しています。

気象庁から「記録的短時間大雨情報」が発表されます。このような雨が降ると、浸水被害や、崖崩れ、土石流、地滑りなどの土砂災害が発生します。その被害は、直接の原因である大量の雨と地形・地質などの要因に関係しています。山地部に降った雨は、初めは地面にしみ込みますが、やがて地面上を流れて川に集まり下流へと流れていきます。斜面にしみ込んだ水が原因で、崖崩れや地滑りが発生し、その土砂が川をせき止めるようにたまり、一気に押し流されると土石流となって、高速で沢を流れ下ります。日本の川は、短くて勾配が大きいため、降った雨は、短時間に川へ流れ込むので、川の水位が急上昇するとともに、大量の土砂を運びます。運ばれた土砂が、長い年月をかけて平野を形成し、そこに東京・名古屋・大阪のような都市が発達してきました。

このように、日本の多くの大都市は、川が形成した沖積平野(ちゅうせきへいや)にあります。しかも、国土の10%の沖積平野に、約50%の人口と約75%の資産が集中していて、もともと洪水にはぜい弱な土地です。さらに、産業の発展に伴い、過剰な地下水のくみ上げによって地盤沈下が発生し、ゼロメートル地帯と呼ばれる地域が出来ました。この地域に降った雨は、自然に川には流れ込まず、地面を流れて道路側溝から下水管を通ってポンプ場に集められ、ポンプを使って川に排出(すぐ後に「排水」という用語があるため)しています。これを雨水排水設備といいますが、時間50mmから60mmの雨に対応できるように設計されていますので、それを超える雨が降れば、道路や低い土地が浸水します。

また、中小規模の川も、同程度の雨に対応するように整備されていますので、氾濫して浸水被害を起こします。短時間に集中する雨による被害は、「フラッシュ・フラッド(Flash Flood)」と呼ばれ、同様の被害は海外でも発生しています。

ここまで、雨による被害の説明をしてきましたが、東京・名古屋・大阪のように海に面した低平地では、海水による浸水被害に対してもぜい弱です。海水による浸水は、台風に伴う高潮や地震に伴う津波によるものです。このように水に関わる災害を、「水災害」と呼び、その危険性を知って身を守ることが大切ですので、それぞれの災害について次に説明します。

外水氾濫(がいすいはんらん)と内水氾濫(ないすいはんらん)

車や電車で、川の中流や上流の平野を走っていると橋を渡る前後に上り下りすることに気付きます。道路橋や鉄道橋は、周辺より高い堤防を越えて行かなければならいからです。平野部を流れる川は、高い堤防の間を流れています。左右岸の間を堤外地(ていがいち)と呼び、私たちが住んでいる場所を堤内地(ていないち)といいます。「堤外地」にある水を「外水」と呼び、堤防が崩れるなどしてあふれ出して起こるのが「外水氾濫」です。氾濫した水は大量の土砂を含んでいますので、水が引いたあとの道路や床下には泥がたまり、後片づけが大変です。一方、堤内地に降った雨水を「内水」と呼び、マンホールなどからあふれ出して起こるのを「内水氾濫」といいます。「内水」は、下水道を通じて排出されるため、そこにたまった泥などがあふれ出します。

(写真1)は2000年9月に名古屋市を中心に発生した、東海水害の被害の様子です。発生翌日に、橋の上から撮影したものですが、堤防より低い土地では浸水状態が続いています。この水害では、「外水氾濫」と「内水氾濫」が同時に発生しています。写真のように川の堤防は周辺より高いため、この地域に降った雨は、下水道を通してポンプ場に集められ、ポンプで川に排出されます。

しかし、川の水位が高くなると、排水ポンプを止めざるをえない状況になります。そうすると、地域の排水ができなくなって、「内水氾濫」が発生します。写真の地区では、新川という川の堤防が決壊し、「内水氾濫」が発生している上に「外水氾濫」が発生しました。そのため、浸水深が大きくなり、排水ポンプ場の非常電源が浸水のために使用できなくなり、雨が降り止んでも排水できない状態が続きました。このように、都市域では「内水氾濫と外水氾濫」が同時に発生することがあります。

水は低きに流れるので、地下室や地下鉄、地下街といった地下空間への浸水が発生します。上記の東海豪雨でも地下鉄の駅が浸水しました。ほかにも1982年7月の長崎水害、1983年8月の東京・赤坂見附駅の浸水、1999年6月と2003年7月には福岡でも地下空間浸水が発生し、1999年6月の福岡、2003年7月の東京・新宿では、地下室への浸水による犠牲者が出ました。これをきっかけに、地下空間浸水の対策や研究がなされてきています。この問題は日本のみでなく、2000年8月のヨーロッパでの洪水の際や、2001年7月には韓国・ソウルでも発生しており、海外でも対策と研究がなされています。特に、2003年9月に韓国南部の釜山周辺を襲った台風に伴う高潮により、西隣の馬山市では海岸から800m以上離れた雑居ビル地下のカラオケ店が浸水し、8人の犠牲者が出ました。次に、高潮による氾濫の危険性について説明します。

高潮による氾濫

高潮は、台風に伴って発生する海水面が上昇する現象です。気圧低下による吸い上げと風による吹き寄せにより海面が上昇します。台風は熱帯低気圧ですので、中心気圧が低くなります。1気圧(1013hPa)との差によって起こるのが吸い上げで、1 hPa低くなると1cm上昇します。一方、吹き寄せによる海面上昇は、風速と地形によって異なります。奥が細くなっているような湾では高くなる傾向があります。台風時には、高波も伴いますので、高潮による海面上昇に波の高さが加わり、海岸堤防を越えて被害が発生します。沿岸域の大都市である東京・名古屋・大阪でも、それぞれ、1917年10月の台風、1959年9月の伊勢湾台風、1934年9月の室戸台風で1,000人を超える犠牲者を出しています。特に、伊勢湾台風では5,000人以上の犠牲者を出したことから、各地で高潮対策が進み、防潮堤や防潮水門が整備されて現在に至っています。

いずれの災害も50年以上も前に起きたもので、現在の複雑で高度化された都市が大規模な高潮に見舞われると、その被害は甚大なものになります。わが国の三大都市と同じ大都会であるニューヨークで、2012年10月末にハリケーン・サンディによる高潮被害が発生しました。現在、この被害を教訓にして、わが国での対策が見直されようとしています。

ハリケーン・サンディは、カリブ海で発生し、アメリカ東海岸沿いに北上しました。このルートをたどるハリケーンは、通常、沿岸を北上して北東に抜けていきますが、サンディは、10月29日に進路を北西方向に変えて、ニューヨーク州の南隣のニュージャージー州に上陸しました。ハリケーンは、風速により強さが分けられ、サンディは、カテゴリー1から2の勢力を保ち、上陸前に温帯低気圧となりましたが、上陸時にはカテゴリー1に相当する風速36mになっていて、沿岸域を中心に多くの被害をもたらしました。日本のように、海岸沿いに防波堤はなく、デューンと呼ばれる砂のマウンドがあり、その背後に住宅があります。今回の高潮では、これを超えて住宅地に流れ込み被害が発生しました。また、ニューヨークの中心地であるマンハッタン地区では、ローワーマンハッタンと呼ばれる南端付近を中心に被害が発生しました。マンハッタンの大部分は高台になっていますが、周辺の埋め立て地の低い地区が浸水被害を受けています。この地区も防波堤はなく、多くの船着き場が並んでいますので、海面からは2mから3m程度高くなっています。

今回の高潮では、岸壁より海面が高くなり、浸水した深さが1.3mに達した場所もあります。この地区には、地下鉄・地下トンネル・地下駐車場・地下室などの地下空間があり、浸水被害を受けました。マンハッタンは、西側のハドソン川、東側のイーストリバーに囲まれていて、対岸へ続く21の鉄道、地下鉄や道路トンネルがあります。そのうち、四つの鉄道トンネル、八つの地下鉄トンネル、四つの道路トンネルが浸水被害を受けました。

ハリケーンの来襲時は、連邦政府、州政府、地方自治体、住民組織などが連携して対応し、上陸前日に地下鉄や道路の使用をストップしたので、地下鉄やトンネルでの人的被害はありませんでしたが、地下駐車場などの小規模な地下空間では、人的被害が発生してしまいました。地下駐車場では、案内員が逃げ遅れて亡くなったり、道路を歩いていて氾濫水でビルの地下に押し流されて亡くなったりしています。一般の家庭では、ハリケーンの風雨を避けるために地下室に避難していた人が、浸水により亡くなっています。

津波による氾濫

津波は、地震に伴う海底の隆起、陥没や大規模な地滑りに伴って、海面が上昇あるいは下降して出来た海面変動が伝わる現象です。どのような被害が起きるかは、2011年3月11日の東日本大震災に伴う津波映像が物語っています。昨年より、内閣府の中央防災会議が、東海・東南海・南海トラフで発生する巨大地震に伴って発生する津波の被害予測を公表していますので、東京・名古屋・大阪の三大都市をはじめ、海岸沿いの低平地にある市町村では、これまで説明した水災害に加え、津波についても考えておく必要があります。

わが国の沿岸地域は、これまで高潮や津波の被害を受けてきたので、防波堤や防潮堤などの防御施設が整備されていますが、その高さは、建設する際に設定された規模の高潮や津波被害を防ぐものです。東日本大震災に伴う津波で多くの人が知ったように、その高さを上回る高潮や津波が発生すると、非常に大きな被害が発生します。防御施設は、地殻変動による地盤沈下や地震による強い揺れによる地盤の液状化で、その高さが低くなることがありますので、津波が乗り越える危険性が増します。

1995年1月の阪神・淡路大震災では、淀川下流部の堤防が、地盤の液状化のために3m以上も沈下しました。防波堤や防潮堤を乗り越えた津波は、急流となり建物などに衝突して破壊して流し去ります。都市域では、ビルなどが立ち並んでいるために、氾濫水は道路上を川のように流れ、車や歩道にあるものが流されます。

NHKの『ためしてガッテン』の実験では、水深が60cm、流速が毎秒1mで車が流れ出すという結果でした。一方、私たちの研究グループの実験では、氾濫水の先端付近の浅くて速い流れの条件では、水深が40cm、流速が毎秒1.5m以上になると車は流れ出すことが分かっています。市街地に津波が流れ込んだ場合の水深や流速は、コンピューターによって計算が可能ですので、どこで、いつ、何が起きるかを事前に予測することが可能になってきています。東日本大震災で起こったことですが、流された車が燃え出し、周辺の建物が焼失することがあります。

以上は、地上で起こったことですが、地下空間では何が起こるのでしょうか? 東日本大震災では、仙台空港の地下駅が水没しましたが、利用者は空港ビルに避難して被害を免れています。わが国の都市には、地下鉄・地下街・地下駐車場・地下室など多くの地下空間が、ゼロメートル地帯にも存在しています。これらの地下空間に浸水すると、ニューヨークの「高潮被害」の何倍もの被害が発生することは明らかです。ニューヨークのように、管理者が前日に地下鉄や地下トンネルの使用を停止することが、わが国でも可能かどうか、また、ゲリラ豪雨のような短時間に浸水するような場合に対応できるのかという問題が残されていますが、現在、検討段階にあるというのが現状です。

これまで説明してきた被害は、「外水氾濫」「内水氾濫」「高潮氾濫」「津波氾濫」などの水災害時に発生していますので、行政機関はもちろんですが、個々人が何が起きるかを知って身を守ることが重要です。

(2013年8月30日 更新)