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熱中症対策

第1回  ヒトの体を内から危険にさらす熱中症

執筆者

三宅 康史
昭和大学医学部救急医学教授 昭和大学病院救命救急センター長
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熱中症患者の急増

2013年も梅雨明け前から、日本全国で熱中症患者の発生を伝えるニュースが後を絶ちません。今の日本は、熱波による熱中症の死亡者が万単位になる危険性をはらんでいて、それは地震、津波、豪雨などとともに災害と呼べるレベルになっています。そして、個人、会社、学校だけにとどまらず、行政や国レベルでの包括的な対策が必要になっています。

熱中症の発生数は、確実に増加傾向にあります。それには以下の理由が考えられます。
1.真夏日、猛暑日、熱帯夜の増加や都会のヒートアイランド現象など、日本の夏が以前に比べて確実に暑くなってきたこと。
2.高齢者、独り暮らし、経済的困窮者など、熱中症弱者といわれる人々の増加。
3.“熱中症”という言葉の認知度が上がったことで、熱中症と診断される患者数が増加したこと。

2010年の夏は記録的な猛暑でした。7~8月の熱中症搬送数と死亡者数(総務省消防庁速報)、当日の全国6か所の最高 *WBGT(暑さ指数)平均(国立環境研究所発表)を(図1)に示します。2010年は7月中旬に梅雨が明け、その直後から第1波の熱波が襲来しました。10日以上続く真夏日と熱帯夜の連続により、数日後から熱中症患者が急増し、死亡者もそのころから激増しました。その後、第2(8月上旬)、第3(8月中旬~下旬)の熱波が押し寄せましたが、実は患者数、死亡者数ともに、第1波に比べ少なかったのです。

この結果から分かることは、まだ暑熱順化(暑さ慣れ)のできていない梅雨の中休みに急激に気温が上昇すると、熱中症患者(軽症の労作性熱中症)を急増させるということです。また、熱波の場合、最高気温が高いだけでなく、夜間になっても気温があまり下がりません。熱波襲来の数日後から死亡が急増するのは、屋内にいて体調を崩した高齢者(非労作性熱中症)が中心と考えられます。それまでの日本救急医学会による調査(Heatstroke STUDY)では、熱中症は梅雨明けからお盆(8月中旬)までの発症が主流でしたが、2010年は8月末まで熱波が居座ったため、患者発生も9月になるまで減少することなく持続しました。

*WBGT(暑さ指数)とは
熱中症発症のリスクを推測するためにわが国で採用されている、気温、湿度、輻射熱、気流の4要素を取り入れて計算される総合的な指標。単位は℃。気象庁発表(観測地点でのデータ)のものと違い、今居る場所の値を計測できる測定装置もあり、労働現場などで利用されています。

ヒトの体温調節の仕組み

体内では、生命維持のためにあらゆる代謝活動が行われています。その際に常に作り出される熱に加え、肉体運動によっても筋肉から多くの熱が発生します。恒温動物であるヒトの中心温(深部体温、芯温ともいいます)が、37.5℃近辺に常に維持されているのは、その温度が体内の酵素が効率よく働くためにいちばん最適な環境だからです。

体内で産生された熱は血流に乗り(血液に熱を移して)、全身の皮膚の直下で網目のように広がっている毛細血管を流れる間に外気温によって冷却されます。その後、冷えた血液が再び体深部に還流する(戻る)ことで、体温が上昇するのを防いでいます(ラジエターで水を冷やし、その水でエンジンを冷やす車の原理と同じです)。体が熱くなると体表が赤くなるのは、皮膚の下の毛細血管が拡張し、大量の赤い血液がそこで冷やされるために存在しているからです。その血液からは汗腺を通じて汗を大量に作り出し、それが表皮から蒸発することで気化熱を奪います。このほかに、体表では放熱(体表から直接熱を逃がすこと)、対流(体の周囲に出来た空気の断熱帯を風が吹いて取り去り、常に新しい冷たい空気が体表に接するようにして放熱効果を高めること)、伝導(体と接している冷たい水などの液体、氷枕や保冷剤などの固体に熱を移すこと。冷えた水を飲み、それが体内で37℃に温められて尿や汗になって体外へ排出されるのも、同じ効果を生みます)により血液を冷やし、体温の上昇を防いでいます。

体温の上昇を抑える効果に大きく影響するのは、気温、湿度、輻射熱、風の強さ、日射、衣服など、体から熱を効率よく捨て去ることができる外的環境かどうかです(図2)。これは、屋内ならエアコン、扇風機などで調節可能です。屋外でも、日陰への退避、帽子や風通しのよい速乾性衣服の利用などでも一定の効果があります。そういった環境を不快に思いにくい(高齢者の場合)、逃げ出せない(寝たきりや仕事やスポーツの試合の最中など)と、熱中症の危険が高まります。

熱中症の危険を高める疾病

熱交換の効率に影響を与える2つ目の因子は、心機能です。心臓は、体内にためた熱を血液に乗せて還流させ続けています。熱い血液を体表に送り出し、冷えた血液をまた心臓へ迎え入れる血流を生み出すのは、心臓の収縮力、すなわちポンプとしての作用です。持病に心不全や狭心症があると、暑熱環境下に長期におかれた場合、心臓の働きが熱のくみ出しに十分対応できず、結果として、体内に熱がうっ滞(血液が正常に流れず、静脈内などに停滞すること)してしまいます。心疾患が熱中症の危険因子である理由は、ここにあります。同じことは、心機能を抑える働きのある薬を内服している高血圧の患者にもいえます。高血圧患者の場合、心臓のポンプとしての働きを抑えることで血圧を下げますが、これは熱交換の効率を下げ、熱中症の危険性を高めることにもなるからです。

さらにもう一つ重要な要素として、熱を運ぶ運搬役となる血液そのものの量(トラックの数)、すなわち血管内容量があります。体内の水分不足(脱水)が進行すると、運搬役の血液そのものが減少することになります。それによって熱運搬の効率が下がり、うつ熱(熱が体内に籠もってしまうこと)の危険性が高まります。また、脱水が進行すると血液の粘稠度(ねんちょうど)が増します。そうなると、サラサラの血液を運ぶよりも抵抗が増すので、心臓の負担を増やすことになります。高血圧や心不全の患者が、心臓負担を減らし血圧を下げるために利尿薬を処方されている場合があります。

利尿薬は腎臓から強制的に水と塩分を排せつさせ、血管内容量を減らして血圧を下げたり心臓の働きを減らす作用があるので、逆にいえば、熱の運搬役が減ることで熱中症の危険性が増すことになります。同様に、塩分制限や飲水制限を受けている患者も同じ危険性を持っています。深夜にトイレに行くのが嫌で、夜間の水分摂取を控えるのも脱水傾向になるため熱中症予防には向きません。ただ、水分摂取や塩分摂取は、もともとある疾患との兼ね合いで調節する必要があるので、自己判断せず、主治医と相談のうえ、夏場の間は微調整が必要になります。連続する猛暑日と熱帯夜は、特に高齢者の体力を奪い、食欲を落とし、徐々に脱水を進行させます。その結果、数日後に体調を崩して熱中症の診断を受ける高齢者が増えているのです。

熱中症がもたらす臓器障害

気温が高くなると放熱の効果が上がらず、多湿環境では汗が乾かず気化熱が奪えなくなります。風がなければ対流の効果もなく、体表温の上昇が始まります。これが長時間に及ぶと、発汗に伴う脱水症状が進行するとともに、拡張した末梢血管に血流が滞留することも加わり、熱を運ぶ役割をする血液の量が低下(粘稠度も上がって心臓の負担はさらに増加)します。それを補うために、心臓が頑張って心拍数を上げて収縮力を高めようとしても、心臓自体も高温にさらされ、心筋へ供給される血流も減ってくるので、心臓への負担はより一層増すことになります。体の内部からの熱のくみ出しが滞ると、体温を維持する機能が破綻して体温が上昇し始め、熱中症に陥ることになるのです。

ヒトの体を細胞レベルで見てみると、体温が40℃になると酵素の変性が起こり始め、41℃でミトコンドリア機能が低下します。それによって酸化的リン酸化(各細胞内のエネルギー産生)が停止し、各臓器の障害へとつながっていきます。各臓器の変化、障害は次のようなものが見られます。

高熱による臓器障害は、軽症では筋肉や消化管が、重症化するに従って中枢神経や循環器、肝、腎、そして出血を止める作用をする凝固系が障害をこうむるターゲットになります。熱による臓器障害は、心臓にもダメージを与えます。心臓のポンプ機能が低下すれば、脱水による血流量の低下も加わって、重要臓器への酸素とエネルギーの供給が滞り、それによる臓器障害に拍車がかかります。腸管の粘膜のバリア機能が、熱と血流低下によって妨げられると、腸内細菌やそれの出す毒素が腸管壁というバリアを通過して、門脈血流に入り肝臓を経て全身へ回ってしまいます。そうなると、発熱、ショック、臓器不全を主症状とする敗血症と同様の症状が加わることになります。

(2013年8月9日 更新)