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液状化・地盤災害・土木被害

第6回  地震時の堤防・護岸の被害と浸水被害

執筆者

安田 進
東京電機大学教授 工学博士
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堤防と護岸の役目と種類

堤防の役目は、川や海の水が陸地内に入らないようにすることです。堤防が壊れたり、川や海の水位が堤防の高さ以上になると、陸地内に水が浸入して洪水を起こします。一方、 護岸の役目は、川や海・湖・池などの岸が崩れないようにすることです。護岸が崩れた場合、(図1-1)のように陸地が水面より高い箇所では、水は侵入しませんが、(図1-2)のように陸地の方が低い箇所では、水が陸地に入ってきます。このように堤防や護岸は、洪水を防ぐという重要な役目を担っています。

堤防のほとんどは土を盛って造られています。ただし、一部にはコンクリートで造られた堤防もあります。また、護岸には石積みのものや矢板(板状の杭)、コンクリート製の護岸などがあります。これらを破壊させる力としては、地震動・津波・降雨時の水の流れ・波浪などがあります。ここでは、地震による堤防、護岸の破壊と対策の現状に関して解説します。

東日本大震災での河川堤防の被災

平野を自然に流れている川の断面を模式的に示すと(図2)のようになります。上流で大雨が降ると川の水位が上がり、両側から氾濫します。その際、水と一緒に流れてきた土砂のうち粒径の大きな砂が川岸に堆積し、こんもりとした堤防が形成されます。これを自然堤防と呼びます。そこで、堤防を建設する場合、
1) 自然堤防の上に高く土を盛って人工の堤防を造る 
2) 川幅を広げるために陸地内に新しい堤防を造る 
3) 蛇行している川の流れを直線的にするために新しい堤防を造るといった方法が用いられます。

堤防の下は締まった砂地盤から軟弱な粘土地盤までさまざまで、被害の受けやすさも地区によって大きく異なります。特に緩い砂地盤上に堤防が造られている場合、地盤が液状化すると、沈下や滑りといった甚大な被害をもたらします。また、堤防が液状化しやすい砂で造られており、地下水位も高いと、堤防の一部だけが液状化しても被害を受けます。

2011年の東日本大震災では、東北地方から関東地方にかけての広い範囲で河川堤防が甚大な被害を受けました。国土交通省管轄のものだけでも、東北1,195箇所、関東939箇所が被害を受けました。河川堤防は過去の大きな地震のたびに被害を受けていますが、東日本大震災は地震の規模が大きかったため、このように広い範囲で多くの堤防が被災しました。(写真1、2)は被災事例です。

被害の程度は、小さなクラック程度の軽微なものから、沈下、滑りといった甚大なものまであり、関東地方の被災箇所のうち、55箇所で大規模被害が発生しました。地震後にその原因を調べてみると、地盤や堤防が液状化して被害を受けたものが51箇所もあり、大規模な被害の主な原因は液状化であることが分かりました。

このように東日本大震災では、大変多くの箇所で河川堤防が被害を受けたにもかかわらず、大雨が降らなかったために広範囲な氾濫は発生しませんでした。ただし、6、7月の梅雨時には川の水位も上がり、氾濫を起こす危険性があったため、堤防に発生したクラックを埋めて、沈下した箇所に土を盛るという緊急対策を施して洪水を免れました。そして、秋になって本格的な復旧対策を行いました。

阪神淡路大震災での護岸の被災

1995年の阪神・淡路大震災の時は、神戸から尼崎にかけての海岸線で、多くの護岸と岸壁が被害を受けました。(写真3)に護岸の被災例を示します。この地域では海岸の埋め立て地や沖合に造られた人工島の土地を守るために、護岸が設けられています。その護岸を支えている地盤や背後(陸側)の地盤が液状化したため、護岸が海に向かって最大4~5mも動き出し、傾きました。さらに液状化した背後の地盤は海に向かって流れ出しました。(写真3)に見られる地割れは、この流動に伴って発生したものです。流動した範囲は護岸から奥へ 100mにも及び、その範囲内の建物や高架橋は地盤の動きに押されて、くい基礎が壊れ、ビルや橋が傾くといった甚大な被害を受けました。ただし、陸地の方が海より高かったため海水が入ってくることはありませんでした。

ゼロメートル地帯の危険性と対策の現状

東日本大震災では、東京湾岸の埋め立て地で広範囲に液状化が発生したものの、阪神・淡路大震災のような護岸の被害はほとんど発生しませんでした。(写真4)に船橋市で発生した事例を示しますが、このように狭い範囲で、しかも護岸が動いた量もあまり大きくはありませんでした。

万一、東京湾岸や東京の下町で護岸に被害を受けると、浸水による被害が発生する危険性があります。これは、東京の下町では明治・大正時代から工業用水のくみ上げによって、最大4.5m程度も地盤が沈下し、(図3)のように広範囲にわたって海面より低い「ゼロメートル地帯」となっているからです(図1-2参照)。もし護岸が壊れて水が入ってくると、この一帯は水浸しになり、地下の構造物にも影響を与えかねません。そこで、東京都では、鋼管矢板を増設する方法などで、護岸を強化してきています。このような「ゼロメートル地帯」は大阪や濃尾平野など、各地にあるため地震対策が必要です。

一方、河川堤防に関しては従来、地震対策が施されてきませんでしたが、最近は対策が講じられるようになっています。ただし、延長距離が非常に長いので、十分な対策を施すまでには大変長い年月が必要とされています。

(2013年8月30日 更新)