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落雷・突風

第6回  竜巻の前兆を知って身を守るためには

執筆者

小林 文明
防衛大学校地球海洋学科教授 理学博士
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竜巻に「絶対安全」はありません!

"昨年1年間、「落雷・突風」のコラムを執筆しましたが、ちょうど1回目の「竜巻」掲載直後の2012年5月6日に、北関東で複数の竜巻が発生し甚大な被害が生じました。また、2013年5月20日には、アメリカのオクラホマ州で最強クラスの竜巻が発生し20人以上の死者が出ました。わが国でも竜巻への意識が高まっており、竜巻に関してよりレベルアップしたコラムを連載していきたいと思います。初回は、“竜巻からどうやって身を守ればよいか”です。

今年の5月20日にオクラホマ州ムーアで発生した竜巻は、アメリカでも最強ランクの竜巻とされ、巨大な渦が長さ27km、最大幅2kmというスケールでムーアの市街地を飲み込んでいきました。直撃を受けた小学校や病院などでは、鉄筋がむき出しになり壊滅的な被害に見舞われました。まさに、空から馬や車が降ってくるなど想像を絶する「ミステリー」が起こったのです(第1回コラムの表1参照)。日本でも昨年5月6日のつくば竜巻では、戸建て住宅や集合住宅で壊滅的な被害が生じました。このように、秒速100mに達するような風速になると、たとえ頑丈な建物でもなすすべがありません。すなわち、最強クラスの竜巻には、「絶対安全」な場所などないのです。

ただし、日本で発生する竜巻のほとんどは、F1~F2クラス、風速で秒速50 m前後の竜巻ですから、適切な行動により身を守ることが可能です。では、竜巻にどのように備えたらよいのでしょうか。親雲である積乱雲の出来る前に備えること、親雲の発生時に準備すべきこと、そして竜巻が目の前に迫ったらどうするかについて、順を追って考えましょう。

第1のポイントは“天気情報”です。まず、1日前から数時間前にできることは、天気情報の収集です。“大気が不安定”とか“前線が接近”などの情報は、前日の天気予報で把握できます。すなわち、積乱雲が発生しやすいかどうかのポテンシャルの確認です。また、1時間以内であれば、「雷注意報」や「竜巻注意情報」が重要です。これらの注意報は、近傍に活発な積乱雲、あるいは竜巻を生む積乱雲が存在することを意味しており、竜巻に直結するものです。さらに、現在の天気は雨雲レーダーなどの気象レーダー画像をチェックすれば、発達した積乱雲がどこに存在しているかを把握することができます。これらの情報は、パソコンや携帯電話で見ることができます。さまざまな天気情報を参考にして、状況によっては行動予定や行動を見直すことが必要です。

竜巻の前兆現象とは?

第2のポイントは、“空模様”です。昔から、「空模様が怪しい」といったように、竜巻のような局所的な現象は、空を観察して天気の変化を予測する、「観天望気(かんてんぼうき)」が重要です。強い竜巻はスーパーセルと呼ばれる特殊な積乱雲によってもたらされます。第3回で述べたように、スーパーセルはメソサイクロン(竜巻低気圧)という回転を伴う積乱雲です。スーパーセルは、大気の環境が整うと積乱雲自体がねじれることで、上昇流と下降流が住み分け、その結果、長時間持続する巨大積乱雲です。そのため、スーパーセルは竜巻以外にも、雹(ひょう)、落雷、ダウンバーストなどの特徴的な現象を伴います。地上に居る私たちは、水平スケールが100kmに達する巨大積乱雲のさまざまな断片を見て、竜巻を察知することが可能です。以下のようなサインを五感で感じたら、普通でない積乱雲と考えて行動を起こしましょう(図1)。

竜巻の前兆現象の多くは積乱雲に伴う現象です。遠くから見て分かるもの、すなわち時間的に先行する現象から、竜巻が目の前に迫るまで、次のような順番があるともいえます。

1.比較的遠く(水平距離で数10km)で分かる前兆
「雷鳴が聞こえる」、「かなとこ雲が広がってくる」、「乳房雲が雲底に見えた」。
2.竜巻が近い前兆
「降雹」、「落雷」、「真っ暗になる」、「冷たい風を感じる」、「においを感じる」、「アーククラウドが見える」、「壁雲が見える」。
3.竜巻が目の前に迫ったサイン
「地上の渦が見える」、「耳鳴りがする」、「ゴーという音がする」。

もちろん、自分の立ち位置によって異なりますが、遠方の現象から近くの現象になるに従い、竜巻の可能性が高くなると考えてください。

どこに逃げればいいの?

最後に、目の前に竜巻が迫ったらどうするかです。時間的な猶予は数分から数秒と思ってください。まず屋外に居た場合の対処方法です。巨大積乱雲は、屋外に居れば前述のようなさまざまなサインがあるため、案外気づくものです。実際には、異様な空模様や冷気、降雹などをきっかけに行動を起こしましょう。とにかく竜巻から逃げることが必須です。日本でも、海岸線に居て竜巻に巻き上げられて海に投げ出されて死亡した事例があるように、竜巻の吸い上げ渦で人は簡単に飛ばされます。竜巻の進行方向を冷静に見極めて、進行方向以外の方向に逃げましょう。

竜巻の被害域は全体としては直線状ですが、地上付近の渦は蛇行したり、突然消えたり(竜巻のジャンプ)、複数の渦が形成されたりと大変複雑な挙動を示します。また、竜巻の進行速度は毎時数10kmと車並みのことが多いですから、走っても勝てません。橋の下や側溝などくぼみに身を隠すよりは、早めに逃げた方がリスクははるかに小さくなります。竜巻は周囲の一般風に流されますから、風下を避けて逃げましょう。また、竜巻渦の回転は低気圧性(反時計回り)のことが多く、進行方向右側の風速が強まるため(台風と同様です)、もし竜巻の渦内にいるという最悪の場合、進行方向と逆向の回転方向に逃げましょう。

一方、屋内に居た場合、どこに逃げればよいのでしょうか。竜巻による住宅の被害2大ポイントは、“窓”と“屋根”です。竜巻の場合、小石やガラス、木片などの飛散物が舞うため、マンションのガラス等も割れてしまいます。いったん窓が破壊されると、吹き込む風により室内の風圧が上昇し、一番弱い所(例えば反対側の窓や屋根)が次に破壊されるのです。日本の住宅は、いかに風通しを良くするかを考慮して作られることが多いですから、竜巻の避難場所としては、逆に、わが家で風通しの悪い場所、すなわち空気のよどむ場所を探しておきましょう。一般的に、トイレやバスタブなどは最も安全な場所といえます。実際アメリカでは、家自体が竜巻で飛ばされても、残った土台のバスタブに身を隠して助かったケースがしばしば報告されています。(図2)に、竜巻から身を守る避難場所をまとめました。

あなたの学校、職場は大丈夫?

では、自分の学校や職場はどうでしょうか。授業中や仕事中では、自由な行動を取ることは許されません。もし教室や職場が安全でないとしたら大変です。学生であれば1年のうち日中の大半を校舎で暮らすことになりますし、社会人の場合、職種によっては大半を仮設構造物や車中で仕事をする人も少なくありません。人は屋根があると心理的に安心するものですが、仮設構造物や開口部の多い校舎などは、竜巻が発生するとリスクの高い場所になります。他の災害にも共通することですが、自分の立ち位置を知ることが重要です。

2012年5月に竜巻が通過した被災地では、その後さまざまな対策が考えられています。小学校では「防災頭巾(ずきん)」を義務付けたところもあります。とっさの時には“防災頭巾”で頭部を守り、机の下に身を隠す訓練をしているそうです。授業中に数10人、数100人を避難させる余裕がない時は、とにかくその場で身を守るわけです。防災頭巾は、竜巻だけでなく、地震やその他の災害時でも役立ちますし、教室や体育館で避難する時には、座布団や枕にもなります。学校だけでなく、大人の職場でも十分に役立つのではないでしょうか。子どもの頃からの訓練と“日本でも竜巻が起こりうる”という事実をインプットしておくことが肝要です。

(2013年8月5日 更新)