トップページ > コラム > 地震・津波台風・大雨落雷・突風大雪猛暑火山・降灰火災PM2.5・黄砂防災の知恵地震と土砂災害

土砂災害

第6回  地震と土砂災害

執筆者

池谷 浩
政策研究大学院大学 特任教授
プロフィール・記事一覧

大規模な現象と広い範囲での土砂災害

地震に伴う土砂災害の特徴として、発生する現象の規模が大きいことが挙げられます。例えば、1984年9月の長野県西部地震の際、御獄山(おんたけさん)の山腹で発生した崩壊は、崩壊土砂量約3,600万立方メートルという大規模なものでした。崩壊した土砂は濁川(にごりかわ)温泉旅館を飲み込みながら流れ下り、約10km下流で王滝川を閉塞して天然ダムを形成しました。また、崩壊土砂の一部は尾根を乗り越えて鈴ヶ沢の流域に入り、土石流となって王滝川本川へと流れ下ったのです。

2008年6月の岩手・宮城内陸地震災害では、荒砥沢(あらとざわ)で地滑りが発生しました。長さ約1,300m、幅約900m、移動土塊量約6,700万立方メートル(林野庁東北森林管理局の検討会報告書)という大規模なもので、地震による地滑りとしては国内最大級といわれています。

巨大地震のように地震の影響範囲が広い場合、土砂災害も広域で発生します。(図1)は、1923年9月の関東大震災の時、内務省社会局(1926)が作成した「関東地震による林野被害区域山崩れ地帯概況図」に、井上公夫氏らが土砂災害地点を追記したものです。図から、神奈川県全域や房総半島など広い範囲で山崩れが多発している状況が分かります。そしてこれらの地区内では131か所で土砂災害が発生し、家屋被害戸数556戸、死者は1,077人以上という悲惨な被害が生じたのです(中央防災会議、1923関東大震災報告書、第1編)。

雨が降っていなくても土石流が発生

2008年に発生した岩手・宮城内陸地震により、東栗駒山の山腹斜面で最大幅約250m、最大長約150m、崩壊土砂量約55万立方メートルという大規模な崩壊が発生しました。崩壊土砂は雪解け水を含み、残雪も巻き込んで流動化し、雨は降っていませんでしたが土石流となって流れ下り、駒の湯温泉を被災させ7人の死者が出ました。数値シミュレーションや現地での生存者からの聞き取り調査から、土石流は地震発生から約10分で駒の湯温泉まで流れてきたことが分かりました(図2)。

このように地震の際には雨が降っていなくても、土石流は起こりうることを知っておくことが大事です。また、地震による土砂災害では、安全なところへ避難するために十分な時間がないことも知っておきましょう。

1923年9月1日の関東大震災では、地震の後の大雨にも注意が必要ということが顕在化しました。それは地震後の9月12~15日に豪雨が降り、神奈川県伊勢原市大山町や厚木市、山北町、小田原市などで土石流が発生したことによります。特に大山町での土石流は、大山阿夫利神社の門前町の大部分である140戸を押し流す災害となりましたが、地元の警察官の適切な指示により、地元住民が安全なところに避難していたため、死者は1人にとどまりました。これは地震により不安定となった山腹が200mmを超す大雨で崩れ、土石流になったものと考えられています(前出、1923関東大震災報告書)。

地震により長期化する土砂災害と人工盛土での災害

1858年、富山県を流れる常願寺川の水源部で、飛越(ひえつ)地震により数多くの崩壊が発生しました。特に鳶山(とんびやま)崩れと名付けられている崩壊は、崩壊土砂量約1億3000万立方メートルと大規模なものでした。崩壊した土砂は支川の真川や湯川をせき止めて天然ダムを形成しましたが、地震から14日後と59日後に天然ダムが決壊して土石流が発生し、下流の富山平野では死者約140人、流失・壊滅家屋約1,600戸という被害を受けたのです(中央防災会議、1858飛越地震報告書)。

地震の前は清流が流れ、河口から18kmの上滝まで船が上がったといわれている常願寺川ですが、上流域に多量の土砂が残っていたため、地震後は豪雨のたびに多量の土砂が流れ出て、毎年のように下流域で災害が発生する荒れ川に変わってしまいました。そこで長年にわたる災害から、県都・富山市をはじめ富山平野の約40万人の生命と財産を守るため、今も常願寺川上流域で砂防事業が実施されています。

地震に伴って発生する土砂災害として知っておくべきものに、最近話題になっている都市部などの宅地造成地でみられる人工盛土部の災害があります。盛土造成地では、地震により盛土内で地下水位が上昇して滑りが発生したり、地震動で擁壁が倒壊して背面の盛土部が崩れたりすることがあります。

2011年3月の東日本大震災では、仙台市内の盛土造成地で地滑りや地盤変形が発生しました。(図3)は、仙台市が公表した宅地造成地の履歴情報を記述したマップの一例です。主に宅地造成地で行われた切土(山や丘を切って平地を造る)と盛土(低いところに土砂を盛って平地を造る)の区域とその量を高さとして表示したものです。図の左下に注目してください。赤と黄色のいわゆる盛土造成地が、くさび形に入っていることが分かります。これは以前、谷であったところを盛土したもので、下端ほど盛土高さが高く濃い赤色で表示されています。

このようなところでは、元の谷底に軟弱な堆積土砂が存在する場合があることや、谷地形には水が集まりやすく、盛土部内の地下水位が高くなる可能性が考えられます。そこで、宅地造成時には地下水を排除したり、地盤を補強したりする工事を行い、宅地の安全対策をとることが大切です。

地震時の土砂災害対策

地震による土砂災害は、過去の事例でみると震度5強以上のところで多発しています。しかし、地震の震源や地震の震度を事前に予測することは極めて難しいと言わざるを得ません。そこで、地震に伴って発生する土砂災害への対策は、平時からの対応が大変重要となります。

具体的には、自分の住んでいる場所が土砂災害の危険なところかどうかを知ることが重要です。豪雨に伴う土砂災害の危険区域は、都道府県の砂防関係部局によって「土砂災害警戒区域」などとして指定され、公表されています。これらの区域内やその周辺に住んでいることが分かったら、地震時には土砂災害に対する注意が必要です。なぜならば、地震によって発生する土砂も、豪雨によって発生する土砂と同じような範囲に流下することがあるからです。

もし緊急地震速報の発表や大きな揺れがあった場合には、家の中の安全と思われる場所(例えば2階とか山側と反対の部屋など)に移動することが大切です。地震の場合、安全な場所に避難するための十分な時間がないことが多いので、日頃からどこに逃げれば良いかを考えておきましょう。そして、できれば布団をかぶることをお勧めします。土砂災害では土砂に埋まって窒息死するケースが多くあります。万が一、土砂が家の中に入ってきても、布団などを被って口や鼻の周りに空間を確保しておくことは有効な対策と考えられます。

とはいえ、すべての土砂災害が「土砂災害警戒区域」などの中やその周辺で起こるとは限りません。そのためにも土砂災害の前兆現象に気をつけましょう。土石流などが発生する時には、何か異常なこと、例えば異常な音、臭い、振動などが生ずることがあります。地震時に「いつもと違う、何かおかしい」と感じたら、とりあえず安全と思われる場所に移動することが命を守る対策となります。

発生の予知・予測が難しい地震による土砂災害に対しては、過去の災害に学んで行動することにより、少なくとも人の命は守りたいものです。

(2013年8月5日 更新)