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土砂災害

第5回  土砂災害と防災情報

執筆者

池谷 浩
政策研究大学院大学 特任教授
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土砂災害対策としての「防災情報」とは?

毎年のように悲惨な土砂災害による被害が報道されています。昨年も7月の九州北部豪雨により熊本県阿蘇地方で土石流や地すべりが多発し、阿蘇市では22名の尊い人命が失われてしまいました。最近5か年間の全国の土砂災害発生件数を調べてみると、土砂災害の発生件数は毎年約1,000件に上ります(表1)。多発する土砂災害を防止・軽減するためには、ハード対策(砂防えん堤などの構造物による対策)による対応とともに、住民の避難などのソフト対策を併せて実施することが大切です。そしてソフト対策に必要となるのが防災情報です。

土砂災害対策のための防災情報には、平時から土砂災害の危険なところを情報として示す「ハザードマップ(土砂災害危険区域図)」があります。また災害発生が予測される状況で出される防災情報には、大雨時の「土砂災害警戒情報」、天然ダムが形成された時や火山噴火により火山灰が堆積した時の「土砂災害緊急情報」があります。

火山地域の「ハザードマップ」は国や火山防災協議会が作成し、住民に配布しており、土石流や地すべりなどの「土砂災害危険区域図」については都道府県が調査・公表しています。「土砂災害警戒情報」は都道府県と各気象台とが共同で発表し、市町村長が避難勧告を出す際の情報として、また住民の自主避難のための情報として提供されています。「土砂災害緊急情報」は、それぞれの事象が発生すると国による緊急調査が実施され、危険区域や危険雨量の情報が関係都道府県や市町村に伝えられます。

土砂災害に関する防災情報の認知度

防災情報を活用して住民が避難を実行するためには、情報の発信者が持っている危機感、切迫感を、受信者である住民がどう共有できるかが問題です。例えば、「土砂災害警戒情報」により住民は自主避難をするでしょうか。

平成20~22年に避難勧告等が発令された市町村を対象に、住民がどのような情報で自主避難したのかを調べた国土交通省の資料(図1)によると、住民が「土砂災害警戒情報」を自主避難に活用した様子はほとんど見当たりません。 自主避難のほとんどは、土砂の移動現象が発生した時や土砂災害が不安な場合、または被害が予測される場合になされています。すなわち、住民の多くは文字や言葉としての情報ではなく、実際に災害を受けるのではないかという不安が身近に及んだときに初めて自主避難を実行しているといえます。また「土砂災害警戒情報」の活用方法の1つに、市町村長が避難勧告等の発令を決断するきっかけとすることが期待されていますが、その実態は平成20~22年で約40件にとどまっています。この値は、市町村長が「土砂災害が予想されたため」避難勧告等を発令した件数約110件(国土交通省資料)と比べると明らかに少ないのです。

これらの実態から、土砂災害に関する各種の防災情報は、あまり知られていない、または知られていても十分に活用されていないことが分かります。

災害防止に防災情報が不可欠な理由

このように、なかなか活用が進まない防災情報ではありますが、防災情報がどうしても必要な訳は以下のような理由に基づいています。
1. 土砂災害危険箇所が多い
全国の土砂災害危険箇所数は、土石流危険渓流183,863渓流、地すべり危険箇所11,288 箇所、急傾斜地崩壊危険箇所330,156箇所の合計525,307箇所となっています(表2)。この危険箇所は全国の都道府県に存在しており、危険箇所のない都道府県はありません。

2. 土砂災害対策(ハード対策)による対応が十分ではない
安全な国土基盤創出のためには、ハード対策の整備が必要ですが、平成21年度末の整備状況は、土石流危険渓流約22%、地すべり危険箇所約23%、急傾斜地崩壊危険箇所約26%(国土交通省HP)といずれも極めて低くなっています。危険箇所は多く、一方でハード面の対策が十分でないため、避難というソフト面の対策が必要になります。

3. 「想定外」という災害を無くすことが重要
2011年3月11日の東日本大震災からの教訓として、「想定外」という災害は無くそうという考え方が主流となっています。 もちろん自然災害には予想を超えるものも起こりますが、過去に立ち戻って災害実態調査を実施し、「想定外」を無くす努力が求められています。 私たちの生活の中で、頻度高く発生する災害については、災害をもたらす現象の規模(計画規模)を決めて、人命と財産を守るためにハードおよびソフトの対策を併せて実行するという従来の考え方は変わっていません。 一方で計画規模を超す災害に対して安全を確保するには、避難や土地利用などのソフト面の対策が特に重要です。すなわち想定外の災害を軽減するためにも防災情報が必要となるのです。

防災情報をもっと活用するためには

防災情報によって土砂災害から少なくとも人の命を守ることを考えた場合、2つの点が課題として挙げられます。
1. 情報が間違いなく受信者に届いているか
2. 情報発信者の切迫感を受信者が共有出来るか

過去のいくつかの悲惨な人的被害を伴った土砂災害を調べてみると、防災情報が住民に伝わっていないケースがあります。例えば、土石流発生の危険情報をFAXで受信したが、その情報が市町村の行政の場で止まってしまった、住民が落雷を恐れてテレビのコンセントを抜いていたためテレビからの情報を見られなかった、真夜中のため寝ていて発信された情報に気が付かなかったなど、その理由は多様です。

防災情報を活用するためには、まず情報が確実に受信者に伝わることが大前提となります。そこで発信者はフェールセーフの考えのもとに、情報伝達の確実性を確認する必要があります。防災情報が受信者に伝わっても、避難という行動に移らない事例も見られます。危険を知らせる情報は伝わったものの、「過去に災害を受けたことがないから大丈夫」と情報を無視した、情報が来たときに外は真っ暗だし大雨で家の前の道は水たまりがあり避難しようにも出来なかった、災害弱者などが自分一人では避難できなかったなど、多様な状況が生じているのです。

防災情報の活用性を高めるためには、まず個別の多様な課題を1つずつ検証し解決していく努力が必要です。現在、土砂災害警戒情報については国土交通省と気象庁とで土砂災害の危険性をレベル1~5で示す検討が行われており、住民にとって分かりやすい情報提供となることが期待されています。また「自分のところは大丈夫」と思い込んでいる人たちへの対応としては、平時から防災情報の意味を理解してもらう努力や、いざという時に災害弱者の人々を安全な場所に移すシステムの構築も必要でしょう。 まだまだ課題の多い防災情報ですが、平時からその意味をよく理解して、いざという時に活用するようにしていきたいものです。そのためには、誰かがやってくれるのではなく、行政も住民もそして専門家も、皆で防災対策をするという意識を常に持つことが、災害防止にとっては何より大切なことなのです。

(2013年3月29日 更新)