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液状化・地盤災害・土木被害

第5回  産業施設の地震被害と対策

執筆者

安田 進
東京電機大学教授 工学博士
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産業施設内にはどんな構造物があるのか

産業施設には食品工場から、電気工場、石油タンク基地など、さまざまな施設があります。また、小さな町工場から大規模な発電所まで規模も異なり、立地場所も内陸から海岸まで広く分布しています。したがって、地震にも多種多様な被害が発生しますが、広い地区に大きな被害をもたらすのは、やはり、海岸付近に大規模に建設された施設なので、今回は「海岸付近の大規模施設」に絞って話をしてみたいと思います。

代表的な施設として火力発電所内を取り上げてみます。発電所内には(図1)に示すように種々の構造物が設けられています。ボイラーで発生させた蒸気の圧力でタービンと発電機を回転させて発電しますが、これらのための建物がまずあります。ボイラーで燃やす石油や天然ガスを貯めておくタンクや、それらを運搬してくるために港の施設も設置されています。これらを結ぶ配管(パイプ)や道路も張り巡らされています。蒸気を発生するために水も必要で、それを取水し排水する設備も設けられています。発電した電気を送る鉄塔もあります。このように火力発電所と一口に言っても種々の設備があります。

産業施設が地震で被害を受けますと周囲の住民にも二次被害を与えるため、ほとんどの構造物で地震に耐えるように設計が行われて造られてきています。しかし、残念ながら設計した地震より大きな地震が襲ったり、地盤が液状化して支持力を失ったりして、大きな地震のたびに被害が起きてきています。大規模な産業施設には広い土地や港の施設が必要なため、海岸の埋立地に建設することが多いのですが、その場合、埋め立土が液状化しやすく、また、海底に軟らかい粘土層が堆積していて大きく揺れ、さらに津波が襲うといったことのために被害を生じやすいと言えます。

阪神・淡路大震災による被害

近年の地震で産業施設に甚大な被害を与えたのは1995年に発生した阪神・淡路大震災です。震源域付近の神戸市の海岸には、各地に埋立地が造られ種々の産業施設が建設されていました。この埋立地が液状化したことと揺れが非常に強かったため、多くの産業施設が被害を受けました。

(写真1)は液状化によって沈下・傾斜した小型のタンクです。また、(写真2)は高圧ガス施設での被害を3日後に海から撮影したものです。右の塔から火が出ているのが分かるかと思いますが、左端に見えるLPGタンク内の高圧ガスを緊急に放散しているところです。地盤が液状化したにも関わらずタンク自体は杭で支えていたために無被害だったのですが、タンクから出ているパイプを支えている架台が液状化により沈下し、タンクとの接合部が開いてガスが漏れ始めたため、緊急にタンク内のガスを抜くことが行われました。このため、付近の住民の方々が数日間避難されました。

阪神・淡路大震災では、この場所も含め多くの埋立地で液状化しただけでなく、護岸や岸壁が海に向かって4,5mも動き出したため、(写真3)に示すように背後の液状化した地盤がずるずると海の方に動く「流動」現象も発生しました。このために、護岸や岸壁から100m程度の範囲にあった、タンクの杭基礎が曲がったり、配管が引きずられて被害をさらに甚大にしました。

東日本大震災による被害

一方、東日本大震災では、大きな揺れや液状化が発生した範囲は東北から関東にかけて非常に広く、その中には東京湾岸のコンビナートも含まれており、産業施設は数多くありました。これらの施設は私有地が多く、施設内の詳細な被害は明らかにされていませんが、タンクの被害に関しては消防庁などで調べられています。それによりますと、次のように4つの地区で異なった被害が発生しています。

(1)三陸海岸など津波で被害を受けた地区:津波の圧力で壊れたり、浮き上がって流されて衝突したうえ、油が流出してさらに火災も発生し、甚大な被害を受けました。(写真4)は流されたタンクです。
(2)茨城県の太平洋沿岸:強い地震動による液状化によって、タンクや防油堤が沈下
(3)東京湾岸および新潟県の日本海沿岸:地震動の揺れはさほど大きくなかったのですが、ゆっくりと大きく揺れる長周期の地震動のために、タンク内の油がスロッシングを起こし、タンクの屋根が壊れるといった被害が発生しました。

"将来の地震における被害の可能性"

産業施設内の主要な構造物は耐震設計が行われるようになってきていますので、地震で被害を受けにくくなってきています。ただし、耐震設計において検討する地震動の強さは何回か見直しされ、そのつど大きくなってきていますので、古い構造物では、現在設計で用いている大きさの地震動で設計していないものもあります。また、構造物が老朽化して、被害を受けやすくなっているものもあります。これらに対しては構造物の補強や地盤改良などによって、耐震性を高めていくことが必要です。

また、東京湾岸では東日本大震災の際に、液状化は発生したものの揺れ自体はあまり強くなく、また、護岸も動き出さなかったため背後地盤の流動も生じなかったのですが、将来発生が予想されている東京湾北部地震などでは、地震動の性質が異なり、継続時間は短いものの揺れは強くなったりしますので、このような場合でも被害を受けないように、予め対策を施しておくことが必要と考えられます。

(2013年3月29日 更新)