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震災・災害の減災知識

第4回  地域防災のレベルアップ ~防災マップを通して~

執筆者

渥美 公秀
大阪大学大学院人間科学研究科 教授
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防災マップは作る過程が大切

最近の地域防災活動では、マップの登場が多くなってきたように思います。地域の防災マップ作りに参加したことがあるという人もいるでしょう。また、自治体からは、地域の危険箇所を示したハザードマップが配布されることがあります。近頃では、インターネットの普及に応じて、マップアプリを応用した防災マップが作られたりもしています。今回は、地域の防災マップについての知識を、少し深めてみることにしましょう。そこから、地域防災のレベルアップを図るヒントが得られると思います。

防災マップは、出来上がったマップそのものが重要であることは言うまでもありませんが、マップを作る過程こそが重要だということも忘れないでください。このコラムでも、「わが街再発見ぼうさい探検隊」の活動を紹介しました(第2回)。この活動でもマップが作られます。

マップには、イラストがいっぱい入っていたりして楽しそうですが、縮尺や建物の配置などは必ずしも正確ではありません。実際、正確な地図を描くことは目的でさえありません。むしろ、子どもたちと一緒に街を歩き、「ああでもない」「こうでもない」と話しながら、さまざまな防災施設を実際に見たり、防災に取り組んでいる人々の話を聞くなど、マップを作る過程こそが大切なのです。

大阪府田尻町では、福祉に関するワークショップの1つとして車椅子で街を歩いたことがきっかけになり、住民の手で防犯・防災マップを作ったことがあります。街を歩きながら、防災拠点だけでなく、民生・児童委員や地区福祉委員などを個別訪問して、地域の事情を聞き取ったりしました。その過程から、福祉のワークショップが防災、防犯を含んだ「まちづくりワークショップ」へと発展していきました。

神戸市では、防災・福祉コミュニティー作りというユニークな取り組みを進め、各地でマップの作成を推奨しています。私も参加したことがありますが、防災マップ作りを行政に任せてしまうのではなく、地域の人たちが実際に街を歩きながら、さまざまな地域資源に気付いたり、多様な人々と出会ったりして、マップに反映していく過程が大切だと改めて思いました。今回は、防災マップを作る過程でヒントとなる事柄を紹介していきます。

防災マップ作りのヒント

「誰の視点で防災マップを作るか」と問い直してみることが1つ目のヒントです。子どもたちと街を歩いていると、いつも驚かされます。例えば、防火水槽。まだ漢字を習っていない子どもには、難しくて読めません。備蓄倉庫といった言葉も難しいでしょう。また、目の高さが違いますから、大人には見通せる通りでも、子どもたちには避難経路として見えなかったりします。

子どもは、防災や防犯、環境保全といったカテゴリーに分けて考えませんので、大人の方が子どもから地域を総合的に見ることを学ばされることもあります。マップを作る時には、こうした子どもの視点をうまく取り入れると良いマップが出来ます。さらに、車椅子の人に参加してもらうと、また違ったマップになるでしょうし、目の不自由な人と歩けば、新たに気付くことも多いでしょう。防災マップは、「誰の視点で作るか」ということをいつも念頭に置く必要があります。

ところで、地域は時間によって姿を変えます。「どの時間帯を表現するか」と考えてみることも、防災マップ作りのヒントになります。例えば、住宅街では出勤時、昼下がり、夕方、深夜、それぞれに表情があります。オフィス街も時間によって随分違った風景になっているでしょう。また、平日と休日でも異なるでしょうし、お盆や正月のような帰省シーズンも、違った風景が見られるはずです。季節によっても変わってきます。特に観光地では、季節によって独特の変化が見られることと思います。防災マップは、どの時間、どの季節を示せばよいか、考えておく必要があります。

そもそも、防災マップは誰のためにあるのでしょうか? これまで紹介してきた防災マップは、住民のために作られています。マップを通して「わが街の防災」を知ることが目的です。しかし、もう一つ別の目的で作っておくマップもあります。それは、大災害が発生した時に、「地域外から救援に訪れる人々」のために作っておくマップです。

実際、私自身もボランティアとして被災地に駆けつけますが、その地域がどうなっているのか分からず、市販の地図を見て活動に入ります。しかし、市販の地図には指定避難所という表示がありません。また、足の不自由な人がどこに住んでいるかは描かれていません。目の不自由な人の居場所も分かりません。個人情報は十分に守られる必要がありますが、一方でスムーズな支援が受けられるようにマップを準備するということも、求められると思います。防災は誰にとっても必要なことです。

防災マップは活用してこそ

ここまで、防災マップ作りのヒントを紹介してきましたが、せっかく作ったマップも活用しなければ意味がありません。地域で防災マップを作ったものの「全戸に配布したらそれで終わり」といった話は、あちらこちらで耳にします。

マップには、さまざまな工夫を施すことができます。実際にある自治体であった話ですが、ハザードマップを作成したところ、印刷にミスが発見されました。配布時期は迫っているし、追加で印刷する経費も十分にはない。そこで、どうしたかというと、自治体の職員が地域を回り、「このマップには不正確な部分がありますので、皆さんで修正してください」とお願いしたのです。集まった住民は最初、不正確では困ると思ったようです。その後、どこが間違っているのかの説明を受け、それぞれに修正をしました。修正に時間が掛かりましたが、マップをじっくりと眺め、修正を加えていったことによって、期せずして、マップに描かれていたことを学習したようでした。

実は、このことを最初から狙ったマップも作成されています。マップのところどころが最初から、白紙になっているのです。いわば、「虫食いマップ」です。マップを手にした住民は、白紙になったところを埋めていかねばなりません。街を回り、白紙になった部分を埋めていく過程で、地域の危険箇所や防災施設を自然に学んでいけるようになっています。振り返ってみれば、勉強をするときに、参考書をいくら眺めていてもピンとこなかったことが、問題集にあたり、問題を解いていく過程で、ようやく理解出来ることがあります。虫食いマップは、そのことを応用したものになっています。防災マップに限らず、住民があと一歩深く防災活動に関われるような工夫が求められています。

防災マップを通して考える

防災マップには、その名前の通り、防災に関わるさまざまな情報が描き込まれています。防災に関わる情報だけでも多種多様にあります。例えば、「こんな音がしたら地滑りになる」といった昔からの言い伝えがあれば、それも文字で書き込んでおくべきでしょう。しかし、防災情報だけを取り出して書き込むだけではもったいないように思います。

地域には、さまざまな資源があります。例えば、見通しの悪い交差点は、防災というより安全という意味から描き込んでおけば役に立ちそうです。街灯の少ない通りは、防犯という点で描き込めるでしょう。また、お地蔵さんがあったり、伝説の残る神社があったりすれば、地域の文化や誇りとして記入していくとよいと思います。

さらには、おいしいパン屋さんとか、名物料理を出す店なども描き込むと生活感が出てきます。せっかく街を歩いてマップを作るのであれば、防災だけでなく、地域の多彩な情報を描き(書き)込んでみてはどうでしょうか? 防災は、結局、いかに地域を愛しているかを問われることだと思います。防災といいながらも、防災以外の事柄にも目を向けていくことが、結果的に防災につながると考えてみてください。

一口に防災マップといってもバリエーションがあり、いろいろな工夫を施すことができます。今回は、防災マップに焦点を当てて考えてみましたが、マップと同じことが、他のさまざまな地域防災活動にも当てはまります。例えば、地域によっては、熱心に避難訓練を行っています。避難訓練では、どれだけ多くの人々が、どれだけ早く避難できるかが問われます。その際、マップで考えたように、訓練実施に至る過程こそが大切ではないかと問うてみてください。

誰の視点で避難訓練を行うのか、どの時間帯に行うのか、どの季節に行うのか、誰のために行うのか、避難訓練だけでよいのか、そして、避難訓練を通して結局地域には何がもたらされるのか。多様な問いを浮かべ、工夫をして、避難訓練をレベルアップしていくことが大切だと思います。

(2013年2月22日 更新)