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大雪

第4回  春が近づいても油断大敵

執筆者

佐藤 威
(独)防災科学技術研究所雪氷防災研究センター長 理学博士
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積もっている雪はどこから解ける?

立春を過ぎると雪国でも日差しの中に春らしさを感じるようになります。まだまだ寒暖を繰り返しますが、これからは積もっていた雪もだんだん解けて少なくなっていきます。ところで、雪が解ける時は積雪のどの部分から解けるのでしょうか? 雪を解かす熱エネルギーを考えるとその答えが分かります。

(図1)は、融雪期に積雪が得る、または失う熱を表しています。雪面が0℃、晴天の日中で、気温がプラスの場合を想定しています。「日射」は太陽からやってくる熱で、晴天時には大きくなり、もちろん夜間はゼロとなります。一部は反射されますが、残りは積雪の表層で吸収されます。「長波放射」には下向きと上向きがあります。前者は雲や空気中の水蒸気、二酸化炭素が射出する赤外線によるもので、雪面で吸収されます。後者は雪面が射出する赤外線です。差し引きすると積雪は長波放射によって熱を失っていて、長波放射によって雪が解けることはありません。

残りの熱のうち「顕熱」は空気と雪面の間でやり取りされる熱です。「潜熱」は空気中の水蒸気が雪面で凝結する時に積雪が得る熱(空気が失う熱)、または逆に雪面で蒸発が起こる時に積雪が失う熱(空気が得る熱)です。ともに風が強くなると輸送される熱量は大きくなります。顕熱は気温と雪面温度の差に依存し、潜熱は空気中の水蒸気量と雪面温度に対応する飽和水蒸気量の差に依存します。(図1)のように気温がプラス、雪面が0℃の場合は、顕熱は必ず雪面へ向かいますが、潜熱は気温や湿度の条件次第でどちらへ向かうか決まります。気温がプラスで雨が降り(したがって日射は少ない)、しかも風が強い時には、雨そのものが雪を解かすと思われがちですが、その量はさほどではなく、顕熱に空気から雪面に向かう潜熱が加わり、それらによって解ける方が優勢となります。

(図1)には地面から積雪底面へ伝わる熱も示されています。地面が凍結するような寒冷な地域を除けば、この熱は一冬の間継続的にあり、そのため真冬でも積雪底面は少しずつ解けています。しかし、底面の融雪量はその他の熱による表面からの融雪量と比べるとわずかで、雪が解ける時には雪面から解けるといってもよいでしょう。

雪を消す&雪を利用する

雪を解かす熱の話が出たついでに、関連する話題を2つほど……。1つ目は雪を消す話です。家の周囲や屋根などの生活空間や道路にある雪は邪魔者です。多少お金が掛かっても消してしまおうと考えるのは当然です。上で述べた雪を解かす熱は自然エネルギーでしたが、人工的な熱を加えると、雪はもっと早く解けます。これまでにいろいろな融雪装置が開発され使用されていますが、例えば、電熱を利用した融雪マットや、地下水の熱を利用した道路融雪システムなどは積雪底面に伝わる熱エネルギーを増やすものです。また、遠赤外線の融雪装置は長波放射を自然状態よりも大幅に増やすものです。これらの融雪装置はランニングコストを小さくすることが課題になっています。

雪を解かす熱の1つである顕熱は、空気が失う熱でもあります。つまり雪には周囲の空気を冷やす能力があり、これを「雪の冷熱エネルギー」と呼ぶこともあります。2つ目は、この冷熱エネルギーの話です。これを利用する取り組みが各地で行われるようになってきました。米や野菜などの冷温貯蔵に利用し、品質を長期間保ち、また食味を改善するなど、付加価値のついた農産物が生まれています。また、室内冷房などに利用する例もあり、優しい冷気になると好評のようです(写真1)。

解けた水はどこへ行く?

雪が解けて出来た水(融雪水といいます)は、雪粒子同士の隙間を通って下方へ移動します。もちろん積雪の状態によっては、途中でとどまったりすることもあります。雪面が一様に解けても水が一様に浸透するとは限らず、場合によっては水が通りやすい「水みち」というものができ、そこを集中的に流れることもあります。いつの間にか平らであった雪面のあちこちにへこみが出来ているのを見かけることがあります。これには「雪えくぼ」というかわいい名前がついており(写真2)、多くの場合その下には水みちが出来ています。このように融雪水の移動は複雑ですが、最終的には地面に達します。

融雪量は解けた積雪の厚さとその密度の積に等しく、一般的には雨量と同じ単位であるmmで表します。新潟県長岡市での観測結果によれば、融雪最盛期の2~3週間、毎日12~24mm程度の雨が降ったのと同等の融雪水が地面に達し、地面の状態によってはさらに地中に浸透したり、河川へ流出したりします。融雪水は水資源となり、農業用水などに利用されています。雪が多く積もる山を控えた地域では干ばつは起こらないといわれますが、まさしく雪の恩恵といえるでしょう。一方で、融雪水は以下に紹介するような全層雪崩や地滑りなどの災害の原因にもなります。

大気汚染の結果、酸性雨が問題になっていますが、降ってくる雪が酸性物質に汚染されている酸性雪というのもあります。融雪期になりこれが解け始める時に、酸性度の高い水が流出する現象をアシッドショックと呼び、特に北欧では生態系に深刻な影響を与えるとして問題となっています。

暖かくなってきたら全層雪崩や融雪災害に注意

融雪水が地面に達するようになると、積雪の底面付近の水分が多くなります。斜面の雪がこのような状態になると積雪全体が崩れやすくなります。このようにして発生するのが全層雪崩です(図2)。全層雪崩が発生するかどうかは積雪底面に接する地面の状態にも依存します。ささや草が生えている斜面では積雪と地面の間の摩擦が小さいため危険性が一層大きくなります。

全層雪崩は、流下速度や流下距離が表層雪崩に比べて小さいものの、家の裏山や道路際で発生するものは、家屋を壊したり道路を塞ぐなどの被害をもたらす危険なものです(写真3)。幸いなことに、表層雪崩と異なり全層雪崩の場合は、よく前兆現象が見られます。例えば斜面の雪にクラック(ひび割れ)やしわができる、あるいは雪解け水が急に増えるなど、ふだんと違う様子は全層雪崩の危険性が高まっているサインですので、見落とさないようにすることが大切です。

地中の水分が多くなると今度は地滑りの危険性が出てきます。地中の水分は融雪水の量や土質などに依存して変わります。崩れやすい第三紀の地質が多く、しかも雪が多い新潟県では、融雪期に発生する地滑りが最も多く、梅雨期や台風の時期を上回っています。

融雪期に気温が上昇して雪解けが急に進んだり大雨が降った時に、河川への水の流出が急増して洪水になることもあります。また、同じような気象条件の時に発生する雪泥流(スラッシュ雪崩)という災害もあります。これは雪と水が一緒になって斜面を流れる現象で、富士山では大規模なものが時々発生し、レストハウスや道路に被害を与えることがあります。また、1945年に青森県鰺ヶ沢町大然(あじがさわまちおおじかり)で発生した雪泥流によって88名の犠牲者が出ました。

いずれにしても、雪は降り始めから解け終わるまで、いろいろな災害の原因となります。時期により災害の種類が異なるため、雪がなくなるまで注意を怠らないことが大切です。

(2013年2月18日 更新)