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火災・防火対策

第5回  サステナブル社会の新たな防火安全の課題

執筆者

山田 常圭
総務省消防庁 消防研究センター 技術研究部 上席研究官 
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エネルギーと火災

火災は、燃焼という化学的現象ですが、災害としての事象としては、その時々の社会世相が反映されることがしばしばあります。
例えば、わが国の高度経済成長期には、1人あたりのエネルギー需要量が年々増大するとともに、火災の死者率も増えていくという関係が見られました(図1)。

エネルギーを多く使う分、火災によるリスクが高くなったといってよいかもしれません。最近では、エネルギー需要量に比べ死者率が多少低めになっている点からすると、高度経済成長の頃より、エネルギーの安全な使い方が多少は上手になってきているのではないでしょうか?

さて現代社会が目指すべき姿として「サステナブル社会」(持続可能な社会)という言葉を耳にします。21世紀は、有限の化石燃料から再生可能・代替エネルギーなどへの質的な転換が進みつつある時代といってよいと思います。このエネルギーの質的変換は、火災の様相にも変化をもたらし始めています。今回は、「サステナブル社会」への移行に伴い、環境・エネルギー分野、さらにはオゾンホールや温暖化のように地球規模で顕在化しつつある防火安全上の課題について紹介します。

循環型社会の再生資源がもたらす新たな火災

省エネ、環境に優しい再生資源の活用は、非常に重要なことですが、事前の防火安全対策が不十分で、新たな様態の火災が起きるようになりました。その1つとして、平成15年、三重県のごみ「固化燃料発電所」での火災爆発事故が挙げられます(写真1)。

「固化燃料発電」とは、家庭などから出る燃えるごみを直径 10~20mm、長さ 30~50mmの円柱形に成型した燃料をRDF(refuse-derived fuel)と呼び、これを燃料とした火力発電システムのことです。廃棄物処理とエネルギー確保という一石二鳥のシステムとして大いに期待されていました。しかし、この燃料の貯蔵サイロ内で発熱および発火が確認され、その後、消防士2名が消火活動中の爆発によって殉職するという痛ましい事故が起きてしまいました。

その後の事故調査では、次のような経過であったことが明らかにされています。①RDF中の細菌が適度な水分温度条件下で発酵し発熱、②発熱がきっかけで燃料の科学的酸化反応が促進され、大量に蓄積されたRDFの断熱性が高いため内部の温度が上昇、③熱分解により一酸化炭素や炭化水素系の可燃性ガスが蓄積され爆発。類似の火災は、穀物類のサイロで過去にも発生しているのですが、システムの設計や運用に過去の経験が十分生かされない火災爆発事例でした。

規模や被害状況は異なりますが、類似の火災現象は、そのほかにも発生しています。平成15年、神奈川県のショッピングセンターに設置された「業務用生ごみコンポスト」で爆発が起き、11名が負傷する事故が発生しています。この発火は細菌ではなく、植物油の熱分解による発熱が契機となり→蓄熱→可燃性ガス生成→爆発に至りました。そのほかにも、地方では、野山に不法投棄された木材チップなどから、類似の火災が発生しています。

再生資源は、少量であれば可燃物自体の火災危険性は高くないのですが、大量に貯蔵する際の運用については、発火や爆発の危険があるという点に留意が必要です。

石油代替エネルギー、新エネルギー媒体をめぐる防火上の課題

再生資源と併せて、バイオエタノールやバイオディーゼル燃料などの「石油代替エネルギー」も生活の中で使用され出しています。例えば、バイオエタノールが10%程度混合した高濃度混合ガソリン(通称E10)の普及促進を図り、運輸エネルギーの石油依存度の低減も計画されています。こうした油種は、従来の石油類と比べて火災の危険が少ないと思われがちですが、社会全体の安全な利活用を円滑に進めていくにあたっては、事前に注意深く防火対策の検討をする必要があります。

燃料の発熱量は、従来の石油類とあまり変わりがありませんが、エタノールなどアルコール類が水溶性であることに対して防火対策上の留意が必要となるため、従来の泡消火薬剤で、泡の保持ができるかどうかが懸念されていました。E10については、実験によって消火性能の検討がされ、従来の泡薬剤で一定の効果があることが分かりました。さらに水溶性の高い油種については、泡消火剤の有効性の検討が必要となります。

一方、廃食油などから精製されるバイオディーゼル燃料のような混合物では、品質にばらつきがあり、引火点が非常に低いものや酸化や加水分解で、その性状が不安定なものもあります。災害防止の観点から、こうしたものが既存の危険物施設で使用された場合に予期せぬ事故が起きる可能性があるので、今後も注意深く見守っていく必要があるでしょう。

私たちの周囲には、携帯電話・パソコン等の情報機器やハイブリッド車のような非常に高機能な製品が流布し、日々の生活の利便性を支えてくれています。こうした機器の動作を支えているのが、リチウムイオン電池や燃料電池など、エネルギー密度の高い「エネルギー媒体」です。

一時期、国内外でノートパソコンや携帯電話の「リチウムイオン電池」の発火、発煙事故が発生したため、これらの電池の安全性は電気用品安全法に基づく技術基準が適用されるようになりました。またその電解液が、石油類と同様の火災危険性を有する危険物(引火性液体)であるため、大量の「リチウムイオン電池」を貯蔵または取り扱う施設については、危険物施設として一定の防火安全対策を講ずることとされ、防火上の対策が講じられています。

最近、最新鋭旅客機でのバッテリー火災が話題になりましたが、エネルギー密度が大きい分、万一、火災に至った場合、甚大な被害につながりかねないということを開発者も使用者も、十分認識しておくことが、今後、この種の防火対策を進めていく基本といってもよいでしょう。

地球規模での環境問題と火災の関係

地球規模の環境問題では、しばしば「オゾンホール」と「温暖化」が人類の将来を左右する大きな課題として挙げられますが、実は、どちらも火災と無関係ではないのです。

オゾンホールの形成には、過去に使用された高性能の「ハロン消火剤」が少なからず関与しているといわれています。「ハロン消火剤」は、燃焼の連鎖を断ち切る負触媒の効果(専門的にはラジカル連鎖反応)によって消火を促進しますが、オゾン層の破壊過程も、消火メカニズムとほぼ同じなのです。「ハロン消火剤」は、毒性、汚染性も低く、絶縁性が高いので、コンピューター室、電気室、また水損防止の必要な図書館の蔵書庫に広く用いられてきました。

しかし、オゾン層の破壊に関わっていることが分かった後、1987年の「モントリオール議定書」(オゾン層を破壊する物質に関する議定書)採択を経て、1994年以降は生産が中止されました。現在は、「ハロン消火剤」の代替として、環境負荷の少ないハロゲン化合物や不活性ガスが新たな消火剤として使用されています。

最後に、地球温暖化と火災について紹介しておきましょう。地球温暖化により相対湿度が下がり、森林からの放湿が進むために、山火事が発生しやすくなるのではと言われています。(図2)は、1916年から1995年までの米国西部11州の林野火災による焼失面積の経年変化を示したものです。

この図から直ちに温暖化が林野火災の増大に影響しているとは断定できませんが、1980年以降、森林焼失面積が増大傾向にあるように見受けられます。「現在の温暖化傾向が続けば山火事は世界各地で増加。その結果、大量の二酸化炭素が大気中に放出され、温暖化をさらに悪化させることになる」と警告を発している米国の研究者もいます。

火災は人類が火を使い出して以来、長い付き合いのある、災害の中でも理解しやすいものの1つです。火災の中でも住宅や市街地火災に関しては、過去の苦い経験を基に、科学技術に根差した防火安全対策が講じられ、着実に防火性能が向上してきていると感じられます。一方で、今回紹介した火災では、利便性を向上させる科学技術が逆に新たな火災の脅威を生み出してきています。こうした火災から国民の安心安全を守るには、最新の科学技術に目配りした、より高度な消防防災科学技術の推進が不可欠です。

(2013年2月22日 更新)