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台風の基礎知識

第4回  大雨・暴風・・・台風予報でどこまで分かる?

執筆者

中澤 哲夫
WMO(世界気象機関)世界気象研究計画課長
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米国大西洋岸を襲ったハリケーン「サンディ」

今回は、10月下旬に米国東部に上陸し、9万棟もの住宅が全・半壊に見舞われ、500億ドル(約4兆円)にも上る大被害をもたらしたスーパーハリケーン「サンディ(sandy)」について解説します。

ご存じのように、サンディの上陸で、ニューヨーク市内では広範囲にわたる浸水被害が発生しました。その後、「上陸直前に温帯低気圧に変わる」としていた予報判定をめぐる訴訟問題が取りざたされるなど、その影響がいかに大きかったかが想像できます。

それでは、実際にサンディの予報はどうだったのでしょうか? 前回の第3回コラムで紹介したTIGGE(ティギー=略称)の全球アンサンブル予報結果を見てみましょう。

http://tparc.mri-jma.go.jp/TIGGE/tigge_extreme_prob.html
※NHKサイトを離れます

まずは図1を見てください。これは、2012年10月24日12世界時を初期値とした6日先の大雨発生の可能性を定量化したものです。6つの図が描かれていますが、右の4つがヨーロッパ(ECMWF)、日本(JMA)、米国(NCEP)、イギリス(UKMO)のそれぞれのセンターによる大雨の予測結果です。暖色系の場所は大雨が起きる確率の高い場所です。地上気圧が等圧線で引かれています。

この4枚の図から、サンディが10月30日12時(世界時)には米国東海岸に上陸する可能性が高く、大雨をもたらす可能性が高いことが分かります。
サンディは、30日9時(世界時)ごろに上陸したようですが、やや上陸が遅くなる予報となっている米国のモデルを除き、上陸時刻もほぼ当たっていることが分かります。左の2つの図は、右4つのまとめの図と考えてください。

6日先の予報結果はまずまず当たっているようですが、さて、もっと先の予報はどうなっているのかが気になるところです。そこで、9日先の図(図2)を見てください。一見してお分かりになるでしょうか。この段階では、大雨の降る確率も低く、ハリケーンの予報位置もさまざまで(ヨーロッパのものは比較的当たっています)、予報としては決してうまくいっていません。

これは一例ですが、長い期間のデータを使った予報精度の成績で見ても、これらの図で示したように、7日程度先の予報まではおおむね当たるようになってきているのが台風予報の現状です。

http://tparc.mri-jma.go.jp/TIGGE/tigge_daily_score.html
※NHKサイトを離れます

台風による大雨予報の難しさ

では、台風による大雨はどのように予測できるのかご説明いたしましょう。実は予報モデルには、それぞれに予報の癖があります。例えば「台風の進路を北向きに予報してしまうことが多い」といった癖です。雨の予報などは特に難しいものの一つで、全球モデルではこれを過小評価する場合が多いのです。ですから、モデルの降水量の予報数値をそのまま利用しても、あまり役に立たない場合が多いのも事実です。

そこで、モデル間の癖を修正する一つの方法として、モデルの予報値をそのまま使うのではなく、これまでにモデルが予報した値と比較して、今回の予報値がどのあたりに位置するものなのか(平均値に近い値なのか、それともまれにしか起きてない値なのか)を示す方法があります。これをパーセンタイル値といい、全体の個数が100あったときに、小さい値から10番目の値を10パーセンタイル値と呼びます。50パーセンタイル値は中央値(メディアン)になります。

仮にモデルの予報値の取り得る気候値が実際の観測される気候値とずれていたとします。しかし、どちらも気候値であるので、パーセンタイル値としては50という同じ値を取るわけで、両者のずれが補正されると考えることができます。

例えば、ある場所での気温の気候値がモデルAでは20℃、モデルBでは22℃、予報値もこの気候値と同じだったとします。そして実際の観測では21℃だった場合、いずれの予報値も1℃ずつずれていることになります。しかし、モデルの過去の予報値の頻度分布を用いて補正するこの方法を使えば、どちらも同じ50パーセンタイル値(中央値)なので、気温の気候値とその頻度分布がわかっていれば、21℃を予測できることになります。

大雨の予報値は、予報モデルによって異なります。あるモデルでは1時間当たりの降雨量が50ミリとあっても、別のモデルでは100ミリになるかもしれません。本来であれば、実際に何ミリの雨が降るかが重要なのですが、その一方で、モデルがこれまで取り得た値と比較して、とてもまれな数値ケースであることを示すことも、大雨、強風、熱波、寒波などの顕著現象の予測にとっては大事なのではないかと考えます。

大雨、強風など顕著現象の発生予測方法

顕著現象の発生予測は、まずモデルが取り得る予報値をすべて調べ上げることから始めます。TIGGEデータは、2006年10月からのデータしかないので、まだ6年分しかありません。この6年間のデータすべてを使って、月日ごと、予報時刻ごとにそれぞれのモデルの予報値の頻度分布を計算します。

いずれの場合でも、6年間のデータの中で一番大きい(あるいは小さい)値から数えて、全予報事例数の1%、5%、10%のところの値を各地点で求めます。この値が出そろえば、あとは簡単です。アンサンブル予報のメンバーの予報のうち、この閾値(しきいち)を超える(あるいは下回る)メンバーの割合を求めるだけです。
(図1)、(図2)の彩色域は、このようにして求めたメンバーの割合を色分けしたものです。

例えば、ヨーロッパや日本のモデルはそれぞれ51メンバーの予報がありますが、赤い色の地点は、51のうち90%以上のメンバー(すなわち、51×0.9 = 45.9~ )が全予報事例数の上から10%番目の値より大きな値を予報していたことを示しています。これだけ多くのメンバーが予報しているのですから、大雨の降る確率は高いと考えてよいでしょう。

アンサンブル予報による発生予測について、もう少し補足説明をしましょう。図3の縦軸は頻度、横軸は降水量や風速などの変数です。黒い線は長い期間のモデルで予報された変数の頻度分布。赤線は、ある予報時刻での全メンバーが予報した変数の頻度分布です。

まず、モデルの長期データの頻度分布から、上位1%なりの値を読み取ります。
アンサンブル予報の変数(例えば降水量)で、この値を超えるメンバーがいくつあるかを数えます(赤で塗りつぶした部分)。このメンバーが多ければ多いほど、顕著現象の発生確率が高いと考えられます。(図3)の「降水量」を見ると、赤い塗りつぶし部分がおよそ45%程度上位10%の値を超えています。また、右側の「気温」の場合、85%程度のメンバーが超えています。(図1)や(図2)で示した彩色域は、この45や85というメンバー予報が閾値を超える割合を表したものです。

アンサンブル予報の使い方

今回は、サンディの例を使って、大雨が起きる可能性をアンサンブル予報からどのように導き出すことができるのかを紹介しました。4つの予報センターの予報がよく似通っていた場合、それは比較的予報しやすいケースだったことを示しています。サンディは6日先予報で、このような場合だったといっていいでしょう。その意味では、予報官はそれほど悩まずに予報を出せたのではないかと考えられます。

問題となるのは、4つの予報が異なっていた場合です。3つのセンターが一緒で、1つが異なる場合、他の3つのセンターの予報のほうが正しいとしていいかどうかが問題です。ひょっとすると、この1つだけ異なる予報が正しいかもしれないのです。この点をどのように確かめればいいでしょうか? それには、ある一つの時刻の予報を比較するのではなく、1つあるいは2つ前の予報からの時間変化傾向を見ることです。ある時刻では、1つだけ異なっていた予報が、次の時刻では2つとなり、その次の時刻では3つが共通する予報となってきたとします。このような場合、最初は1つしかなく、少数派だったものが、時間がたつにつれて多数派になってきたわけです。

このように、アンサンブル予報を使うことで、時間変化傾向をも見ながら、大雨が起きる可能性が高いかどうかをより正確に予測することが可能になってきています。ですが、まだまだ実際の予報現場でのアンサンブル予報の利用は限られているというのが現状です。今後、予報現場での使いやすい利用方法をどのように提供していくことができるかが、大きな課題です。

(2012年12月27日 更新)