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土砂災害

第4回  火山噴火による火山灰と土砂災害

執筆者

池谷 浩
政策研究大学院大学 特任教授
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火山噴火と火山灰の降下

今から約300年前の1707(宝永4)年、富士山が噴火しました。その際、約100kmも離れた江戸の街にも富士山の灰が降ったことが、新井白石の随筆「折たく紫の記」に記述されています。その富士山宝永噴火による降灰の分布を示したのが(図1)です。この図を見ると、火山噴火に伴って多量の火山灰が広範囲に降ること、さらに降灰によってさまざまな災害が生じることが分かります。

例えば宝永の富士山噴火では、火山灰や噴石により悲惨な被害が生じました。
「富士山麓須走村の場合、焼けた石が大量に降り、そのため75戸中37戸が焼失し、38戸が倒壊し、浅間社は大破した。他の村々の場合も大量の灰、砂で田畑や用水路が埋まり、仕付けたばかりの麦は実らず、翌年の稲の作付けも危ぶまれる状態に陥った。(中略)深砂に覆われたままの村々はしだいに深刻な事態になり、出稼ぎのため村を離れる者、田畑を手放す者が相次ぎ、村に留まる者は老人・子供ばかりで、餓死する人もでている。」(小山町史)

そして、多量に火山灰が降った地域では、その後の雨により広範囲で土砂災害が発生しています。事実、宝永噴火の時には神奈川県横浜市の帷子(かたびら)川でも土砂災害が発生しました。特に静岡・神奈川の両県を流れる酒匂(さかわ)川では上流から流れ出た火山灰により河床が上昇し、下流の足柄平野では、富士山噴火の後、毎年のように洪水に見舞われるようになりました。そして災害防止のための河川改修には約100年という長い年月が費やされました(1707 富士山宝永噴火報告書、中央防災会議)。

これも一種の土砂災害と言えるもので、火山灰の影響がいかに大きいかを物語っています。このように火山灰の量によっては、富士山から離れた東京都やその周辺でも土砂災害が発生する可能性があるのです。

火山灰が降ると、なぜ土石流が発生するのか

最近の有珠山や三宅島、雲仙普賢岳の火山災害では、土石流の発生とその被害が社会的話題となりました。では、なぜ火山噴火によって土石流が発生するのでしょうか。

一般的には、火山の山腹斜面の土壌は比較的隙間が大きいため、少しくらいの雨はすぐに地中に染み込んで河川に水が流れてこないのです。そのため、全国的に火山周辺には水無川とか尻無川という名の普段は水の流れていない河川が存在しているのです。

富士山にも、普段は水が流れておらず大雨が降ったときだけに水が流れるたくさんの渓流があります。降った雨は山腹の地中に染み込んで地下水となり、山麓(さんろく)から湧き出して柿田川などの美しい流れになっています。

このように、火山の山腹に火山灰が堆積すると、火山灰は細粒の物質で構成されているので、山腹の斜面に新たに隙間の少ない層を形成します。いわば雨水に対して防水膜をつくるのです。すると雨水は、以前と比較して地中に浸透しにくくなり、火山灰の表面を流れ下るようになるのです。また、火山灰の粒子は細かいため、山腹斜面の土壌層の隙間が降り積もった火山灰の粒子によって目詰まり状態になり、雨水の浸透する能力(以下、浸透能)を減少させます(図2)。

有珠山では、斜面に堆積した火山灰の表面が降雨によってモルタル状に固まる、いわゆるモルタル状被膜を形成し、浸透能を低下させていたことが、その後の現地調査で明らかになりました。

火山灰の上を雨水が流れると、細粒の火山灰が水の流れに取り込まれます。山腹斜面は一般に傾斜が急であることから、その流れは速くなり、雨水は火山灰と一体化して流れ出ます。これが、火山灰によって土石流が発生する理由です。 火山灰を取り込んだ流れは古い堆積層をも掘り起こしながら流れ下るため、山腹斜面にはガリー(小さな溝)ができます。そして雨の量が多いとガリーの幅も広くなり、流れ出る土石流の量も多くなることが分かっています。

火山灰を含んだ土石流の特徴

では、この火山灰を含んだ泥水のような土石流の特徴について詳しく説明しましょう。土石流の発生に関しては、小さな雨で土石流が発生していることが分かっています。例えば雲仙普賢岳の水無川では、火山噴火するまでは時間雨量が30mmを超す雨が何回もありましたが、土石流は発生していませんでした。しかし火山噴火により火山灰が堆積してからは、累加雨量が10~20mm、時間雨量が10mm程度になると土石流が発生しました(図3)。桜島では10分間に3mm程度の雨で土石流が発生したというデータもあります(国土交通省大隅河川国道事務所資料)。

今度は流れの速度を見てみましょう。雲仙普賢岳の水無川では秒速で10mという土石流の流れが観測されていますし、桜島では平成3年6月に秒速で21mという土石流が野尻川で記録されています。秒速で10~20mという土石流の流れの破壊力はすさまじく、まともに衝突すれば木造家屋の場合は全壊する恐れもあるほどです。

さらに、流れの速い土石流は、発生してからわれわれの住んでいる地域まで短時間で流れ下ることから、避難するための時間が十分とれず逃げ遅れる危険性が高くなります。それだけに、ひとたび土石流が発生すると、多くの人命が奪われる悲惨な災害につながるのです。

火山噴火による土石流は泥水のように流れやすいことから、雲仙普賢岳の水無川や桜島の野尻川の場合、海まで土石流が流れ下っています。つまり、火山噴火による土石流は広い範囲に影響を及ぼす危険があるといえます。

土石流から身を守るために

火山灰に起因する土石流から生命や財産、ライフライン等をいかに守るか。その対策としては、一般的にハード対策とソフト対策による対応が考えられます。

仮に、火山の噴火により火山灰が降り積もったとします。まず、ハード対策としては、火山噴火が事前に予測できる場合には、導流堤(流れを安全な方向に導く堤防)や砂防えん堤の材料を用意して、可能な限り施工を進めることで、土石流が生活の場に流れ出るのを防ぐことができます。

しかし、噴火の予知は難しいものです。そこで、火山灰が降り積もってからの事後の対策について話を進めましょう。まず重要なのは、危険な場所はどこか、土石流の発生する可能性のあるところはどこかを知ることです。

火山灰が降り積もると、国土交通省が火山灰の厚さを調べて、土石流発生の可能性(危険性)のあるところを図で示すとともに、どの程度の雨量で土石流が発生するのかという緊急情報(土砂災害防止法に基づく土砂災害緊急情報)を関係する都道府県や市町村に出すことになっています。特に図で表示されている区域の人々は、危険な雨量になったり、あるいはそのような雨が降る可能性が高まったらすぐに避難するなどのソフト対策が大切です。

さらに、緊急時には実際にどのような土石流対策が行われるのか、雲仙普賢岳の例で見てみましょう。水無川では、災害の防止・軽減のため、ただちに土石流の流れの方向を変える導流堤がつくられ、既設の砂防えん堤に堆積した土砂を取り除く作業が進められました。また電波による遠隔操作で地面に穴を掘る機械を新たに開発し(写真1)、土石流を貯留する空間をつくることで、被害拡大を防ぐことができました。

日本は世界でも有数の火山大国です。火山噴火による災害はいつ起こるやもしれません。火山周辺に住んでいる住民は、都道府県や市町村から出される火山噴火に関する防災情報に注意して安全を確保しましょう。また、火山とは程遠い地域に暮らしている人も、風向きによっては、はるか遠くの火山から火山灰が降ってくることがありますから、日本全体で火山噴火情報に気をつける意識を持つよう心がけましょう。

(2012年12月27日 更新)