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地震の揺れと長周期地震動

第4回  揺れによる構造物の被害

執筆者

纐纈 一起
東京大学地震研究所教授 理学博士
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どの構造物にもある固有周期

地震による強震動(第2回「揺れの測り方」参照)が街を襲うだけでは災害になりません。強震動が構造物を破壊して物的災害となり、破壊された構造物がわれわれに危害を加えることによって人的災害となります。「構造物」とは、複数の材料や部材で構成される建物や道路、橋、貯蔵タンクなどの総称です。建物以外の構造物を土木構造物と呼ぶこともあります。地震の揺れ(地震動)などにより構造物が振動するとき、どの構造物も振動しやすい特有の周期(第3回「長周期地震動とは?」参照)を持っています。これが「固有周期」です。

「固有周期」は構造物に特有のものですから、構造物ごとに異なるのが普通です。例えば、比較的単純な形をしたビルは地面の一点で固定された振り子のようなものですから、振り子の棒が長いほど、つまりビルの高さが高いほど固有周期が長くなります。同じように、東京のレインボーブリッジや横浜のベイブリッジなどのつり橋は長さが長いほど、また石油などを貯蔵するタンクは直径が大きいほど、長い「固有周期」を持っています。

建物の共振現象

ビルについてもっと詳しく見ると、地震調査委員会(2009)によれば、一般的な鉄骨造ビルの場合、その固有周期T(秒)は、階数をNとすればおおむねT=0.1N 、高さをH(m)とするとおおむねT=0.02~0.03×Hであるといわれています。例えば、30階建て高さ120m程度の高層ビルでは「固有周期」が3.0~3.5秒程度、50階建て超高層ビルでは固有周期が5.0~6.0秒程度と見積もられ、実際に東京・新宿副都心の50階程度の超高層ビルでは「固有周期」が5秒前後となっているそうです。また、日本一の高さの横浜ランドマークタワーは70階建て高さ296mなので、その「固有周期」は7秒前後と見積もられます。

ところで、「固有周期」は構造物が振動しやすい周期ですから、構造物を揺さぶる地震動の周期がこの「固有周期」に近い値になるとき、構造物は最も大きく振動します。この現象は「共振」と呼ばれ、共振が起こると最も大きく振動するので、結果として構造物は災害につながるような危険な状態になります。

第3回で解説した長周期地震動にはいろいろな定義がありますが、例えば2秒から3秒程度より長い周期の揺れという定義を用いるとしましょう。この周期の範囲に「固有周期」を持つ、30階程度の高層ビルや新宿副都心の超高層ビル、横浜ランドマークタワーは、長周期地震動に「共振」してしまうということになってしまいます(図1左)。一方、それらより低い普通のビルの「固有周期」は3秒より短いですから、「共振」が起こる可能性は小さくなります(図1中)。木造家屋は「固有周期」がさらに短く1秒未満ですので、可能性はさらに小さくなります(図1右)。つまり、長周期地震動による災害は、高層ビル、超高層ビルが出現するようになった現代の新しい災害なのです。

高層ビル室内の被害

長周期地震動が発生すると、高層ビルそのものだけでなく、その室内にも被害を及ぼします。この室内被害について、兵庫県三木市のE-ディフェンスと呼ばれる施設にある実大三次元震動台で次のような実験が行われました(地震調査委員会、2009)。震動台上に30階建物の上層部5階を模した試験体を載せて、実物大の室内の状況を再現し、南海地震を想定した長周期地震動で震動台を揺らして室内がどうなるのかを調べました。この実験では、試験体の床は周期約3秒で約200秒間揺れ、その間の揺れの幅の最大値は約1.3mに達しました(図1左のように)。1.3mも揺れたとすると、窓際に立っていた人はその瞬間の窓の向こうに120m下の地面が見えたはずです。

オフィスを模した室内では、書棚など背の高いじゅう器の多くが転倒してしまいました。転倒を免れたとしても、収納されていたものが飛散してしまいます。一方、集合住宅のキッチン内を模した室内でも、背の高い冷蔵庫や食器棚などが転倒することが確認されました。こうした長周期地震動による室内の被害を未然に防ぐには、家具や家電製品などをしっかりと固定することが重要です。

石油タンクの共振現象

貯蔵タンクでは、同じく地震調査委員会(2009)によれば、満タン状態の石油タンクの場合、その大きさが直径30mと60mのとき、内部液体の「固有周期」が約7秒と約10秒になりました。したがって、これらの石油タンクを長周期地震動が襲うと「共振現象」が起こり、内部の液体は大きく揺さぶられます。この状態は「スロッシング」と呼ばれ、第3回で紹介した2003年の苫小牧市内の石油タンク火災は「スロッシング」が原因だったと考えられています。

2004年1月に放送されたNHKスペシャル『地震波が巨大構造物を襲う』では、石油タンクの「スロッシング」現象の模擬実験が紹介されました。直径20m、40m、80mの石油タンクに相当する3種類の水タンクを用意して、周期5秒、7秒、11秒の長周期地震動に相当する振動でそれらを揺らすと、周期7秒のときだけ直径40m相当のタンクの水が共振して「スロッシング」が発生します(図2中)。これに対して、直径20mや80m相当のタンクでは水がそれほど大きく揺れず、共振やスロッシングは発生していないことが分かります(図2右、左)。

(2012年12月27日 更新)