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地震全般・各地の地震活動

第4回  プレート境界の巨大地震

執筆者

平田 直
東京大学地震研究所教授、地震研究所地震予知研究センター長
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プレート境界の種類

地震を起こす力の源は、地球上を覆うプレートの水平方向の運動です(第1回コラム参照)。プレートとプレートの境界には、二つのプレートが近づき合う境界(収束境界)、離れ合う境界(拡大境界)、すれ違うように運動する境界(すれ違い境界)の3種類があります(図1)。

「収束境界」では、もし二つのプレートがどちらも大陸を形成するプレートなら、プレート同士が衝突することで境界部に大きな山脈ができます(衝突境界)。例えば、アジア大陸とインド亜大陸の衝突による隆起でヒマラヤ山脈が形成されており、山脈の麓(ふもと)や周辺で地震が発生しています。一方が大陸、他方が海洋を形成するプレートの場合は、海洋プレートの方が重いので、大陸プレートの下に海洋プレートが沈み込みます(沈み込み境界)(図2)。「沈み込み境界」は巨大な逆断層となるため、ここでは巨大な地震が多く発生します。沈み込み口が海溝(深海底の細長い溝)になります。

「拡大境界」は、海洋プレートが誕生する場所です。大西洋やインド洋の中央部にある海嶺(両側に急斜面のある海底の大山脈)や、太平洋の東にある海膨(海嶺よりも勾配が緩く起伏が少ないもの)で海洋底が拡大しています。海嶺は一直線でなく、ジグザクに食い違っているため、海嶺と海嶺の間に「すれ違い境界」が形成されます。北アメリカ西部にあるサンアンドレアス断層は、太平洋プレートと北アメリカ大陸の「すれ違い境界」を構成する横ずれ断層です。ここでも、横ずれ型の地震が多数発生しています(図2)。

巨大地震は「沈み込み境界」や「すれ違い境界」で発生しています。過去に知られているマグニチュード(M)9クラスの超巨大地震はすべて「沈み込み境界」で発生しています。

日本列島はプレートの沈み込み帯

日本列島の東には、地球上で最大の太平洋プレートがあり、アジア大陸に向かって、年間約10cmの速さで西進しています。太平洋プレートは日本海溝から東北日本の下に沈み込み、プレート境界では大地震が繰り返し発生しています。

2011年東北地方太平洋沖地震(M9.0)もこれらの地震の一つです。東北地方の太平洋沖では、これまではM7からM8程度の巨大地震が発生してきたことが知られていましたが、2011年のM9.0地震発生以後の検討により、過去にもM9クラスの超巨大地震が繰り返し起こっていたことが分かりました。

西南日本の南方沖にはフィリピン海プレートがあり、南海トラフから北西の方向に日本列島の下に沈み込んでいます。このために、南海トラフから西南日本にかけての領域では、東海地震、東南海地震、南海地震などが繰り返し発生しています。

プレート境界の固着と滑り、アスペリティ・モデル

地下の100km程度より深部では温度が高いため、海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込む時、境界部はほとんど摩擦力を受けずにスルスルと沈み込んでいきます。このため、深いプレート境界では、地震は起きません。しかし、浅部では二つのプレートは固着して引っかかっているので、陸側のプレートも引きずり込まれていきます。つまり、陸側、東日本の場合には東北地方が太平洋プレートの西進に伴って東西方向に圧縮されています。

しかし、陸側のプレートの変形がたまってくると最後には堪えきれなくなって、大きく東に向かって跳ね返ります。これが、2011年に東北地方太平洋沖で起きた地震発生の仕組みです。年間 約8cm程度のプレートの沈み込みが500年続くと40m程度変形し、これがM9.0の地震によって元に戻りました。地震時の大きな滑りは、大変長い間の変形の結果です。

プレートの浅部境界は、どこでも強く固着しているわけではありません。同じ深さでも、固着している場所とゆっくりと滑っている場所があります。強く固着して、地震の時に大きく滑る場所を「地震アスペリティ」といいます(図3)。地震アスペリティは、その周辺でゆっくりとした滑りが続くことによって力がかかり、最終的に破壊されます。これがプレート境界で地震が発生する仕組みで、アスペリティ・モデルと呼ばれています。

プレート境界は完全には平らな面ではなく、わずかな凹凸があったり、構成岩石の種類や含有水分の量が違ったりしています。このため、同じ深さの境界面でも摩擦の性質が異なります。もし、地震アスペリティの位置と大きさが時間的に変化しなければ、プレート境界地震は既存のアスペリティの位置と大きさによって予測することができます。実際には、複数のアスペリティが相互作用することによって、単独のアスペリティが破壊されたり、複数が同時に破壊されたりすることがあります。このため、いろいろな大きさの地震が発生する可能性があるのです。

さらに、2011年東北地方太平洋沖地震のように、複数のアスペリティが破壊されるだけでなく、個々のアスペリティで、通常の滑り量よりはるかに大きな滑りが発生することもあります。

地震アスペリティの間の領域では、地震を発生させることなくゆっくりと滑っています。しかし、ここでは周辺のアスペリティによって支えられる力や摩擦力が働いているので、プレート間の相対運動に比べて滑りの早さは遅く、長い間にひずみエネルギーが蓄積されます。その結果、M9クラスの超巨大地震の時には、アスペリティの間の領域も、急激に破壊されて地震を起こします。プレート境界の場所ごとの摩擦の性質を理解することが、プレート境界地震の発生を予測するために最も重要なことです。しかし、まだまだ分からないことが多いのが現状です。

ゆっくり滑り、ゆっくり地震

プレート境界には、固着と滑りの領域のほかに、ゆっくりと滑る領域があります。2000年秋ごろから2005年夏ごろにかけて、浜名湖の下では、境界面がゆっくりと滑り続けました(図4)。地震マグニチュードに換算するとM7.1に相当するエネルギーが解放されました。この滑りの領域は、想定されている東海地震の震源域より西寄りの深いプレート境界でした。

2000年ごろに、西南日本の深さ30km程度のプレート境界で、深部低周波微動が発見されました1)。通常、微動は火山の下で発生する現象ですが、新しく発見された微動は火山活動との関連はなく、発生場所からプレートの沈み込みに関連していることが分かりました。この微動活動が発生している時に、継続時間が1週間程度のゆっくりとした滑り(短期的ゆっくり滑り)が発生していることが確認されました2)。「短期的ゆっくり滑り」は、「長期的ゆっくり滑り」の領域よりさらに深い部分のプレート境界で発生しています(図4)。さらに、プレート境界の沈み込み口に近い場所で、通常の地震よりゆっくりと滑るゆっくり地震(超低周波地震)が発生していることが発見されました。

気象庁が東海地震の予知を行うために監視しているのは、震源域で発生することが予想されている前兆滑りです。震源域の一部が剥がれ始めて前兆滑りが発生し、滑りが加速して本震に至ることが想定されています。このような前兆滑りは、実験室では確かめられていますが、野外ではまだ明確には観測されていません。このため、気象庁は前兆滑りが発生して検出されてから東海地震が起きる場合と、検出されずにいきなり地震が起きる場合のあることを前提として防災の準備をするように呼びかけています。

東北地方太平洋沖地震では前兆滑りが起きたのでしょうか。残念ながら東海地震で想定されているような前兆滑りは観測されませんでした。しかし、地震の2日前と、約1カ月前の2回、本震の震源の近傍でゆっくりとした滑りが発生し、最初の滑りより2度目の滑りは速く、滑りが震源に向かって南下したことが観測されました3)。ゆっくり滑りの移動は微小地震の観測によって推定されました。また、本震後1年半を過ぎても、ゆっくりとした余効滑りが続いて、日本列島の東半分は大きな地殻変動が続いています。

沈み込みプレート境界では、巨大地震が発生するだけでなく、ゆっくりとした滑りやゆっくり地震など多様な滑りが生じています。地震の直前の前兆滑りも、必ずしも単純な理論通りに発生するわけではなく、多様な過程を経ることが分かってきました。地震予知が難しくなったともいえますが、大きな地震がプレート境界で突然発生するわけではないことも確かめられました。ゆっくり滑りやゆっくり地震の発生間隔が、巨大地震の前に変化する可能性が理論モデルによって示されています。

(参考文献)
(1) Obara, K., Nonvolcanic deep tremor associated with subduction in southwest Japan, Science, 296, 1679?1681,
2002.

(2) Obara, K., Nonvolcanic deep tremor associated with subduction in southwest Japan, Science, 296, 1679?1681,2002.

(3) Kato, A., K. Obara, T. Igarashi, H. Tsuruoka, S. Nakagawa and N. Hirata (2012),Propagation of Slow Slip Leading Up to the 2011Mw 9.0 Tohoku-OkiEarthquake,Science,335,705-708, doi:10.1126/science.1215141.

(2012年12月27日 更新)