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大雪

第1回  降る雪と積もった雪

執筆者

佐藤 威
(独)防災科学技術研究所雪氷防災研究センター長 理学博士
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世界でも有数の雪国、日本

地球上の陸地のおよそ30%は冬になると雪で覆われますが、雪の量は場所によって大きく異なります。日本は、スカンジナビア半島の西側、北米大陸の太平洋岸北部の山脈の西側や五大湖沿岸、アンデス山脈南部の西側などと並んで雪の多い地域になっています。日本国内の雪の分布(図1)を見ると、北海道のほぼ全域と本州の日本海側で最深積雪の値が大きく、特に標高の高い山岳部では2m以上になっていることが分かります。

雪国で暮らしている人々は、雪による災害の危険にさらされたり、雪のため生活に苦労を感じることもあります。防災白書によれば、雪による犠牲者は毎年のようにあり、年によっては風水害による犠牲者を上回ることもあります。最近では平成18年豪雪の冬に152名が、そして昨冬(平成24年)は132名が亡くなるなど、大きな社会問題となっています。ところで、なぜ雪の量が場所によって違うのでしょうか。その答えは、雪が降る仕組みと関係しています。

雲の中で生まれ育つ雪

寒い冬に雪が降り、それ以外の季節には雨が降るのだから、雪は雨が凍ってできると考える人がいるかもしれません。本当は全く逆で、雪が降ってくる途中で解けたものが雨で、解けずに降るものが「雪」なのです。ちょっと分かりにくいですか?

雪が生まれて育つのは直径0.01mm程度の水滴が集まった雲(雪雲)の中です。気温は高度とともに低下しますから、地上の気温が0℃であっても雪雲の中は氷点下です。そして、その温度でも凍らない過冷却状態の水滴が雪雲の正体です。雪雲の中にはもっと小さな土壌粒子などもあり、これが核となって雪の赤ちゃんが生まれます。生まれたては小さな氷の結晶(写真1:氷晶と呼ばれています)です。よく晴れて冷え込んだ朝に北海道などできらきらと輝くダイヤモンドダストが見られることがありますが、これも氷晶で雪の赤ちゃんと同じものです。

さて、雪雲の中で氷晶と過冷却水滴が共存していると、両者の表面での飽和水蒸気圧の違いから、過冷却水滴の表面では蒸発が起こり氷晶の表面では昇華凝結が起こります。このため氷晶は成長して大きくなり、雪の結晶となってやがて落下し始めます。これが雪の降る仕組みです。雪の誕生から成長までのプロセスは、冬以外の季節でも同じです。つまり、上空(高い所)の気温は氷点下であり、そこで最初にできるのは雪なのです。それが降ってくる途中の気温が高いと解けて雨になり、解けきる前に地上に達するとみぞれになります。

雪の結晶が成長する時の気温と湿度(正確には氷に対する水蒸気の過飽和量)に応じてさまざまな結晶形ができます。代表的なものは樹枝状結晶(写真1)で、気温が-15℃程度で湿度が高い時にできます。この樹枝状結晶を目にする機会が多いため、雪の結晶といえば樹枝状のものが連想され、いろいろなデザインに使われていますが、そのほかにも針状、砲弾状、扇状などまだまだたくさんの結晶形があります。

雪はいつ、どこに降る?

それでは、降雪の元となる雪雲はどのような場合にできるのでしょうか。一般に、雲は湿った空気が上昇する時に冷却され、水蒸気が凝結してできます。上昇気流は、対流や地形の影響、気流の収束などによって起こります。日本で雪が降るのは、西高東低の冬型の気圧配置となり北西の季節風が吹く時と、低気圧が通過する時に大別されます。前者の場合、日本海の上を寒冷な季節風が吹いている間に相対的に高温である海水により空気が暖められて対流が発生します。同時に海水も盛んに蒸発し水蒸気が空気に補給されます。

このようにして日本海を埋め尽くすようにできた雪雲は、気象衛星の画像でおなじみの筋状の雲となります。季節風が陸地に達し山にさしかかると強制的に上昇させられ、雪雲はさらに発達します(図2)。これらは、北陸地方の典型的な降雪パターンの一つである山雪の時の状況です。もう一つの降雪パターンである里雪の場合は、日本海の等圧線が湾曲している時に海岸付近で気流の収束が起きることによって上昇気流が発生しやすくなります。

また、朝鮮半島の付け根にある白頭山の影響で日本海上に大規模な気流の収束帯が発生すると長大な雪雲のバンドが形成されます。これが日本列島に達した場所には非常に強い雪が降ります。一方、太平洋側や北海道の東部で雪が降るのは低気圧が通過する時が多く、低気圧そのものによる上昇気流や、低気圧に伴う南風が地形によって上昇することが降雪の原因となります。

これらの雪雲が発生する気象条件は、地球を巡る大気の流れやそれに伴ってできる高気圧や低気圧の影響を受け、常に変化しています。そのためいつも同じ場所に同じ量の雪が降るとは限りません(例を第2回に紹介する予定です)。しかし、冬には北西の季節風が吹くことが多いという気候条件に加え、日本列島の西側には暖流の流れる日本海があるという地理的条件、また、脊梁山脈があるという地形的条件が重なることにより、日本海側の山間部が世界にもまれに見る多雪地域になっているのです。

積もった雪は常に変化している

降った雪が地上に積もったものを積雪といいます。積もった直後は新雪と呼ばれ雪の結晶形を見ることができますが、やがて結晶は形や大きさを変えたり、互いにつながるようになります。このような変化は積雪の変態と呼ばれていて、雪という物質が持つ特徴の一つです。

変態の仕方は雪の温度(雪温)や水分、積雪中の温度勾配などに依存するため、これらの条件に応じて異なる種類の積雪(雪質)に変化します(写真2)。例えば、雪温が0℃より低く積雪中の温度勾配が小さい場合には、結晶が丸みを帯びるようになり、それらが網の目のようにつながったしまり雪へと変わります。

一方、雪温が上昇し0℃に達すると雪粒子は解け始め、積雪中に水が生じるようになります。こうなると雪粒子は急速に大きくなり、ざらめ雪へと変わります。高い山や気温の低い北海道の東部では、積雪中の温度勾配が大きくなる時があり、積雪内部で霜ができることがあります。このような時には角張った雪粒子が弱く結合するしもざらめ雪へと変わります。

雪のもう一つの特徴として、力を加えると変形しやすいことが挙げられます。雪の上を歩くと足跡がつくのは体重によって雪が圧縮変形したためです。このような外から作用する力がなくても積雪は自分の重さによっても圧縮されます。これを圧密といいます。積もった雪が解けなくても時間が経つと圧密によってかさが減少します。この時、雪の重さは変わらないので密度は大きくなります。また、一冬に降った雪の合計が10mくらいあっても、最深積雪が2m程度にとどまるのもこの圧密のせいです。

このように雪が降る時の気象条件によって雪の結晶形が異なるし、積もってからの気象条件によって積雪の状態も異なります。雪氷災害の発生もこのような降雪や積雪の種類や状態で大きく変化します(第3回、第4回ではその例を紹介する予定です)。日本の積雪地帯は南北に細長く分布し、かつ標高の範囲も広いため、場所によって降積雪の状態が異なります。また、同一地点でも気象条件は変化することが多く、それに応じて降積雪の状態も多様なものとなります。このため、雪氷災害の発生には地域性があり、また季節性も生じます。さらに、災害発生の危険度が日毎に変わることも珍しくありません。

(2012年11月29日 更新)