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落雷・突風

第5回  雷から身を守るために

執筆者

小林 文明
防衛大学校地球海洋学科教授 千葉大学環境リモートセンシング研究センター客員教授 理学博士
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落雷回避のウソ・ホント

前回のコラムで紹介した落雷位置評定システムにより、1個1個の落雷が捉えられるようになりました。日本ではひと夏でどのくらいの落雷が観測されるでしょうか? 多い年で100万回、少ない年でも10万回程度観測されます。このように年によって大きな差がありますが、落雷は身近な現象であり、私たちは案外落雷の危険と隣り合わせにいることも少なくありません。

特に今年は、雷の多い年になりました。大阪ではすでに年間の雷日数を超えており(2012年9月現在)、8月18日には公園の林で雨宿りしていた女性が落雷で亡くなりました。木の下は危ないと分かっていても、突然の雷雨に思わず林に逃げ込むことはよくあることです。そこで今回は、雷から身を守るための正しい知識を解説していきたいと思います。では、ここで問題です。次の6つの質問の中で正しいものはいくつあるでしょうか?

Q1 雷が近づいたら貴金属を身体から外す。
Q2 車の中は絶対安全である。
Q3 家の中にいれば絶対安全である。
Q4 海水浴中に雷に遭ったら海中に潜ればよい。
Q5 木の下は危険だが、林や森の中は安全である。
Q6 キャンプ時に雷に遭遇したらテントの中に逃げればよい。

正解はゼロ、いずれも「×」です。例えば、Q1については、最近ではほとんどの人が「金属を身につけていても、いなくても雷は高いところに落ちるので変わらない」と答えるでしょう。ところがQ2やQ3では、車中や家の中で感電した事例もあり、100 % 安全とはいえないのです。(図1)に落雷時の安全な場所、危険な場所や行動をまとめました。

九死に一生? の直撃雷

では万一、落雷に遭うと私たちの体にはどのような影響があるのでしょうか。主な傷害は次の4つに大別されます。 

1.直撃雷 平地、海岸、山頂や尾根など周囲の開けた場所では、雷雲から直接人体に放電が生じます。実際に雷撃を受けたケースとして、ウインドサーフィン中の雷撃、テニスラケットへの雷撃、登山中の雷撃などさまざまな事例が報告されています。雷に打たれると感電死して生存は難しいというイメージがありますが、実際には2割の人が一命を取り留めています。ただし、多くの場合障害が残ります。重要なのは早い段階で蘇生措置を施すことです。

2.側撃雷 落雷を受けた樹木や人に接近していると被害を受けることがあります。木の下で雨宿りをしているときに遭遇する雷による死傷事故のほとんどは側撃によるものです。

3.歩幅電圧傷害 落雷の近くで地面に触れている部分に、しびれ、やけど、痛みなどを生じることがあります。これは、落雷の電流が地表面を流れる(いわゆる地電流)ことによります。

4.電線や金属を伝わる高電圧傷害 屋内や車内は落雷に対して基本的には安全ですが、電話線や電線とつながった電話機や電気機器、また水道の蛇口など金属に触れていると、傷害を受けることがあります。さらには、車の中で窓を開けていたり、車内の金属部品に触れて感電した事例などもあります。

屋外で雷に遭遇した場合は、より安全な場所で安全な姿勢をとり、雷が通り過ぎるのを待つことが肝心です。例えば、建物が何もない場所では、電線の下にいるだけで落雷のリスクは大きく軽減されます(図1)。一番大事なのは、発達した積乱雲が近づいたら回避行動をとることです。雷雲が発生しやすい日には、落雷が起こりやすい場所への行動を中止する勇気も時には必要でしょう。

さまざまな落雷

(写真1)は、航空機の被雷の瞬間です。民間の大型ジェット機、戦闘機、ヘリコプターなどさまざまな航空機にもしばしば落雷があります。パイロットは、航空機にとって危険な積乱雲には通常決して近づきません。夏の積乱雲は遠方から目でみても分かり、気象レーダーでも容易に識別することができます。

ところが、冬季雷雲は背も低く、多くの対流雲が層状性の雲の中に隠れた状態ですから、雲に覆われた状態でどれが発達した雷雲かを判断するのは困難です。ですから、冬の日本海沿岸域では多くの航空機被雷が発生しています。ちなみに、これらの航空機は被雷後も問題なく飛行を続けましたが、これまでの被雷事例では、機体に穴が開くなどの被害も報告されています。航空機被雷は金属が雷雲に近づいて生じる誘導雷ですから、落雷(自然雷)が発生しないような電気的に弱い雷雲中で遭遇することも多く、その予測や回避は難しいのです。

(写真2)は北海道の牧草地で20頭近くの乳牛が落雷で死亡した事例です。乳牛は驚くと群がる習性があり、雷雨時に林の中で一か所に集まっていたためにこのような落雷事故が発生したものと思われます。写真中央右の松の木には落雷の痕跡(雷獣)が認められますから、側撃によって生じたものと考えられます。ただし、側撃雷によって一度にこれだけ多くの牛が死亡したのか、あるいは地電流の影響(歩幅電圧傷害)によるものなのか、いまだに不明な点が残されています。

ケタ外れの電撃「スーパーボルト」

落雷の中には、通常の落雷よりはるかに大きな電流「200 kA(キロアンペア)」や中和する電荷量「100 C(クーロン)」、あるいは長い継続時間「1 ms(ミリセカンド)」を有する雷撃がしばしば観測されます。このような大エネルギー、大電流を伴う落雷を「スーパーボルト」と呼びます。

この「スーパーボルト」は、冬季の日本海海上で、通常の雷放電よりも光エネルギーが1桁から2桁大きい強烈に発光する雷が衛星観測によって発見されたことで、その存在が知られるようになりました。 「スーパーボルト」による雷撃時には、長時間大きな電流が流れるために、通常の雷防止センサーが効かず、重大な雷撃事故につながる可能性があります。例えば、送電鉄塔への雷撃、住宅火災や感電、コンピュータのIC回路やハードディスクの破壊などが挙げられます。

ところで、相対的にスケールの小さな冬季雷雲から、なぜこのように大きなエネルギーの雷撃が生じるのでしょう。そのメカニズムはいまだ解明されていませんが、数多くの雷雲が隣接する冬季の日本海上では、何らかのきっかけで周囲の電荷が一か所に集中して中和される結果ではないかと推測されています。つまり、1個1個の雷雲のエネルギーは小さくても、それらが複数集まることで大きなエネルギーになるというものです。

大気電気学会 http://www.saej.jp/ ※NHKサイトを離れます

(2012年11月29日 更新)