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火災・防火対策

第4回  地下空間での火災に備える

執筆者

山田 常圭
東京大学大学院都市工学専攻 消防防災科学技術寄付講座 特任教授 工学博士
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地下空間の火災事例

大都市の地下には、網の目のようにつながった地下街や地下駅舎が広がり、日々多くの人々が通行やショッピングに利用して、今やなくてはならない都市空間となっています。地下という特殊性から、さまざまな防火防災対策が立てられ、日本では幸いにもこれまで多くの死傷者が出る火災は起きていません。

しかし海外では、2001年に韓国テグ市の地下鉄車両内への放火で192名の犠牲者が出ました。また1987年、ロンドンの地下鉄キングスクロス駅では、地下のエスカレーターで火災が発生し、31名が犠牲となっています。

国内での地下空間の火災事例は非常に限られていますが、2012年2月、大阪の市営地下鉄御堂筋線・梅田駅の倉庫で火災が発生し、地下街に煙が流出し、歩行者に混乱が生じました(写真1)。幸い大事には至りませんでしたが、人通りも多く気密性の高い地下空間で、火災が起きたときの危険性を想起させる一幕となりました。それでは、地下駅や地下街の防火対策は、どのようになっているのでしょうか?

出火・火災拡大防止のポイント

気密性の高い地下空間の火災では、少量の煙でも避難安全上大きな支障になります。煙を抑えるためには、出火や火災拡大の防止が対策のポイントになります。地下街や地下駅舎などを見て分かるように、床、壁、天井とも不燃材料で出来ており、燃えるものは極力抑えてあります。

それでも、店舗や鉄道車両、通行者が持ち込む手荷物など、燃えるものには事欠きません。車両自体は、容易に火災拡大しないように出来ているのですが、韓国の事件のように悪意のある人が可燃性の液体を散布して放火した場合は、ひとたまりもありません。

また地下街の店舗では、火災を局限化するため、超高層ビルと同様に制限された面積の店構えにすることとなっています。もちろんスプリンクラーの設置も義務付けられています。

店舗の地下街通路に面した部分が「防火シャッター」になっているのは、万一の場合に火と煙を閉じ込めるためです。しかし、シャッターの下に商品が置かれるなど、いざというときに防火区画の形成が不可能な事例も散見され、防火意識が十分徹底しているとはいえない状況もまだまだ残っています。

煙制御・避難経路を確保

韓国の地下鉄火災以降、わが国の地下駅舎での煙対策の基準が一部見直されました。それ以前は車両の電気系統からの出火など、少量の発煙に備えるような排煙対策が講じられていたに過ぎませんでした。見直し後は、構内の売店や車両内部で火災が発生しても、避難する間に煙に巻かれないような対策が取られています。

しかし、天井に煙がたまっていくことで構内の照明を覆い隠し、暗くなってしまう恐れがあります。また、広い地下空間では、薄い煙でも出口の誘導灯が見えなくなったり、進もうとしている方向が暗闇のように見えて、避難の支障になる危険性もあります。

韓国の地下鉄火災時に、停電で真っ暗になったと証言している避難者が多くいるのですが、実は煙によって真っ暗になったというのが正しいようです。煙に巻かれないまでも、避難の支障となる事態に備えるために、現在地下鉄駅舎の床面や階段には「明示物」と呼ばれる蓄光式の誘導標識が設置され、万一の場合に「命の道しるべ」として機能することになっています。

その他、避難時に気をつけることがあります。地下駅の構内や地下街には万一の火災に備えて、「防火シャッター」や「防火扉」が避難経路上に設置されています。避難が遅れると、いつも使っている通路に思いも寄らない壁が立ちはだかって、混乱するかもしれません。こうした防火シャッターの横には、誘導灯のついた扉が設置されています。通勤・通学時に一度確認してみることも、いざというときの速やかな避難に役立つのではないでしょうか?

万一、地下空間で火災に遭ったら?

それでは、地下空間で、万一火災に遭遇したらどうしたらよいのでしょうか? 例えば地下街では、中央や端部の要所に「広場」が設けられていることが多いはずです。こうした広場は、避難のための一時滞留スペースとしての機能も備えられており、地上の屋外への出口も充実しています。

こうした安全な場所を覚えておき、いざというときの避難計画を、自分なりに立ててみることも有用だと思います。なお、周辺のビルと接続しているような地下街では、火災発生等の非常時には、火煙の拡大を防ぐため、防火区画としての扉やシャッターが閉鎖されることを知っておくと、慌てなくてすむのではないでしょうか?

前回と今回、都市の代表的な空間の防火安全について紹介してきました。都市のさまざまな空間は、日々変化しています。また、同じ空間でも時間帯によって火災発生、避難安全上の危険も変わります。すべての状況に対して個人が回避できるリスクには限度があるのです。

都市のさまざまな空間での防火安全は、防火安全設計や防火設備といったハード面ばかりでなく、防災センターの管理要員や自衛消防隊などによる防火管理などソフト面の対策でも支えられています。これら安全対策の両輪が日々確実に回っていることで、われわれが安心安全な日々を過ごしていることを再認識することが、今後のより安全な都市空間の構築につなげる第一歩だと思っています。

(参考文献) 山田常圭 「地下街の防火安全対策の今日的課題」予防時報222(2002)

(2012年12月27日 更新)