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日本の火山活動

第3回  火山噴火と災害

執筆者

藤井 敏嗣
東大名誉教授 火山噴火予知連絡会会長
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噴石の落下、降り積もる火山灰

爆発的な噴火に伴うのは、噴石です。火口から放出される岩石片はそのサイズによって火山灰(直径2mm以下)、火山れき(直径2~64mm)、火山岩塊(直径64mm以上)などに区分されますが、気象庁は火山れき、火山岩塊などを一括して噴石と呼んでいます。

噴石の中には火口から飛び出し、砲弾のような弾道を描くものがあります。この噴石の大きさは数十cm以上にも達するので非常に危険です。噴石は通常、火口から数km程度まで到達する場合があるため、活発な噴火が始まると火口から2~4kmの範囲は立ち入りが規制されます。一方、噴煙とともに上空まで運ばれ、風に流された後に落下する噴石もあります。この場合にはこぶし大の石が10km以上離れた地点に落下することもあり、直撃されれば負傷するのはもちろん、自動車のガラスや家の屋根などが砕かれて二次災害につながる恐れがあるため風下では注意が必要です。

激しい噴火で噴煙が上空まで上がると、周囲の大気と密度が釣り合って噴煙は傘のように広がります。しかし、成層圏には強いジェット気流があるので大抵その風に押されて風下側に広がります。噴煙を作る火山灰は、マグマのかけらが冷えて岩石の粒になったものですから空気より重く、次々と上空の噴煙から降ってくることになります。火口に近いほど大粒のものが落ちてきて、遠くまで運ばれるのは落下速度の遅い細粒の火山灰です。

富士山の宝永噴火の火山れき・火山灰の厚さ分布(図1)から分かるように、火山れきや火山灰は火口に近いほど厚く堆積しますが、宝永噴火の場合、100kmも離れた江戸(現在の東京都心)でも数cmに達しました。降り積もった火山灰が数mm程度の厚さでも、坂道では車のスリップ事故が多発し、鉄道、航空などのあらゆる交通網・都市機能がまひし、流通経済が完全にストップします。また、田畑など農地も大きな被害を受けます。さらに山地に降り積もった火山灰は降雨のたびに土石流となって山麓(さんろく)を襲い、河川を埋めて川床を高くするので、少量の雨でも流域が氾濫を起こしやすくなり、その後、何年にもわたって水害が続くこともあります。

逃げられない火砕流、森林を燃やし尽くす溶岩流

火砕流は高温の溶岩片、火山灰、火山ガスなどが一体となり、斜面を高速で駆け下る現象です。10km以上も噴煙を噴き上げるような大噴火では、噴煙が崩れ落ちて、火砕流が発生することがあります。火砕流の速度は時には時速100kmを超え、それ自体が数百度と非常に高温ですから大変危険です。火砕流の流れる方角では、建物も破壊され、燃え上がり、火砕流が発生してから避難しても間に合わない危険があります。噴煙が崩れ落ちて発生する火砕流の場合は数十km程度流れることもあり、被害は広範囲に及びます。

また、火砕流は噴煙を噴き上げるような爆発的噴火でなくても発生することがあります。急な斜面の近くに溶岩ドームが作られたような場合、溶岩ドームの一部が崩落して粉々になるとそのまま斜面を火砕流となって走り出すこともあります。そして何より、このような火砕流は高温で高速であることが、大きな惨事につながります。

猛然と襲い来る火砕流の恐怖として思い起こされるのは1990年11月以降5年間にわたって続いた長崎県・雲仙普賢岳の噴火です。雲仙普賢岳では(写真1)、噴火当初はまだこうした火砕流の恐ろしさが人々の間に知られておらず、1991年6月3日に流れ出した火砕流に巻き込まれ43名もの命が失われました。

噴火によっては、溶岩流が流れ出すこともあります。溶岩流はマグマが冷え固まらないで地表を流れるものですが、マグマの粘性が低い玄武岩マグマの場合でも、通常は人の歩く速さよりもゆっくりと流れるため、よほど近づかない限り危険はありません。しかし大抵の溶岩流は、1000℃以上の高温で密度も大きいので、森林地帯を流れると森林を焼き尽くし、住宅地に達すれば鉄筋の建物も破壊し火災を起こします。

たとえ溶岩の流れが停止しても、完全に冷え固まるには数年以上かかりますから、当分の間その上に建物を作ることはできません。1983年の三宅島(東京都・伊豆七島の一つ)の噴火では住宅地に溶岩が流れ込み、多くの家屋や学校の建物がその熱で燃え尽き、溶岩で埋め尽くされてしまいました(写真2)。

有毒な火山ガス、土石流の危険につながる火山灰

マグマから抜け出す揮発性成分の大部分は水蒸気ですが、炭酸ガス、二酸化硫黄、硫化水素など有毒な火山ガスも含まれています。この火山ガスは大抵空気よりも重いので、山の斜面に沿って流れ、低地にたまって被害をもたらすことがあります。

2000年に噴火した三宅島では9月初めに住民が全島避難した後に大量の二酸化硫黄のガスが発生。最もひどい時には1日に十万トン以上の二酸化硫黄が放出され、4年以上にわたって一日に1万トン以上のガスが放出されたことから、島民は4年半もの間、帰島することができませんでした。

細粒の火山灰が降り積もったところに降雨があると、雨水が浸透できず急流となって斜面を下るうちに火山灰を巻き込み、下流ではさらに基盤の岩石までも削って斜面を流れる土石流が発生します。速度は時速100km程度にまで達することもあり、土石流の恐れがある場合には高台などに避難する必要があります。

また、冬の積雪期に火砕流が発生すると、その熱で雪が溶かされ、水・火山灰・岩石片が一体となって沢筋などに沿って斜面を駆け下ることがあります。これは土石流の一種で融雪泥流と呼ばれ、居住地に達すると大変大きな災害をもたらします。

山体崩壊と岩屑(がんせつ)なだれ

火山噴火や地震に伴って、火山体のかなりの部分が崩壊し、乾いた土石の流れ(岩屑なだれ)として斜面を駆け下ることがあります。この速度も火砕流や土石流と同程度に高速で、巻き込まれると生き埋めになり、途中の建物は破壊、埋め立てられてしまいます。

1888年、福島県・磐梯山(ばんだいさん)の水蒸気爆発に伴う山体崩壊では、岩屑なだれにより5村11集落が埋没し、477人が犠牲になりました。岩屑なだれは長瀬川をせき止め、下流に土石流を発生させましたが、同時に五色沼などのせき止め湖もつくりました。現在の裏磐梯の景観はこの岩石なだれによるものです。

このように、ひとたび火山が噴火するとさまざまな現象が発生し(図2)、甚大かつ深刻な被害がもたらされます。もちろん、この全てが同時に起こることはめったにありませんが、この内のいくつかが同時に起こる場合や、順次移り変わっていくことはよくあることです。災害は、それぞれの噴火現象に対応して単独で発生することもありますが、複数の現象が同時に起こり複合災害を起こすことも珍しいことではないのです。

(2012年10月26日 更新)