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地震の揺れと長周期地震動

第3回  長周期地震動とは?

執筆者

纐纈 一起
東京大学地震研究所教授 理学博士
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長周期地震動という言葉

多くの人は「長周期地震動」という言葉を、2003年の十勝沖地震で知り、2011年の東日本大震災時の首都圏の揺れで思い出したのではないでしょうか。研究者の間では、1960年代からこの現象自体は知られており、「やや長周期地震動」という言葉が使われていました。言葉の違いは「やや」が付くか否かだけですが、この違いには地震学や地震工学の研究の歴史が関わっています。

周期とは、地震の揺れ(地震動)のような振動現象で、振動が一回往復するのに要する時間を意味します。したがって「長周期地震動」とは、その時間が長く、ゆったりと揺れる地震動のことを表します(第1回「揺れの測り方」参照)。では、どのくらい周期が長いと「長周期地震動」と呼ぶのでしょうか。1960年代の日本の建物は、木造はもちろん、いわゆるビルでも中低層が大部分であり、それらが影響を受けやすい揺れの周期(固有周期と呼ばれます)は1秒以下でした。そのため地震工学では、当時、1秒を超える地震動の周期を長周期と呼びました。

ところが、周期が数時間に及ぶ地球の自由振動まで扱う地震学では、この程度ではとても長周期とは言いづらいのです。たとえば、地震学の研究で使われる長周期地震計は、海の波浪などによる雑音の周期帯(2秒から8秒)よりも長い周期の揺れを記録できるように作られています。そこで、この地震学での長周期の定義に敬意を表して、地震工学でも単に「長周期地震動」と呼ぶのではなく「やや長周期地震動」と呼ばれるようになりました。

「長周期地震動」はメディアによる造語

このゆっくりとした揺れがわが国で広く知られるようになったのは、冒頭で述べたように2003年の十勝沖地震でした。震源から250 km離れた苫小牧市内で、揺れによる建物の被害がほとんどなかったにもかかわらず、大型の石油タンクだけが被害を受け、そのうち2基で火災が発生しました(写真1)。この奇妙な現象はメディアの注目を集め、取材を受けた研究者は、現象が「やや長周期地震動」によるものと答えました。しかし、報道では「長周期地震動」と省略されることが多く、結局、翌年1月に放送されたNHKスペシャル『地震波が巨大構造物を襲う』で国民に広く知られたことにより、省略した形が定着してしまいました。つまり、「長周期地震動」は「直下型地震」と同じくメディアによる造語ということもできます。

長周期地震動が発生する条件

2003年十勝沖地震の際のような被害を及ぼす「長周期地震動」は、いくつかの条件がそろったときに発生します。まず、地震の震源から長周期の地震波がたくさん出てくる必要があります。地震は規模が大きくなればなるほど、放出される地震波が長周期になります。また、第2回「揺れの測り方」で「長周期地震動」の主成分は表面波であると述べました。表面波は震源が浅い(地表面に近い)ほどたくさん発生します。以上の震源に関する事項をまとめると、第一の発生条件は「浅くて大きな地震」ということになります(図1の赤線)。

次に、震源で発生した長周期地震動が、被害地域まで効率よく伝えられる必要があります。言い換えると、第二の発生条件は「効率的な伝播経路」です。たとえば、南海トラフの陸側には付加体という、比較的軟らかい地層で構成されている領域が存在します(図1のピンク領域)。こうした地層は表面波をよく伝え、場合によっては発達させることもあります。したがって、南海トラフの巨大地震の震源域と首都圏や中京圏は、効率的な伝播経路である付加体で結ばれていることになります。

三つの条件がそろう南海トラフの巨大地震

最後に、被害地域が大規模な平野や盆地にあるとき、伝播してやってきた「長周期地震動」がその平野や盆地の直下にある堆積層で増幅・強化されて、揺れ幅が大きく、揺れている時間も長い「長周期地震動」になってしまいます。つまり、「平野や盆地」が第三の発生条件となりますが、首都圏や中京圏は関東平野あるいは濃尾平野という大規模沖積平野に立地しています(図1の黄緑色領域)。

遠くない将来の発生が懸念される南海トラフの巨大地震と、付加体、それから首都圏・中京圏という組み合わせは、これら「長周期地震動」の三つの発生条件をすべて満たしてしまいます。一方、日本海溝沿いには付加体が存在しません。そのため、東北地方太平洋沖地震と首都圏という組み合わせでは、第二の発生条件が満たされていませんでした。結果として、マグニチュード9.0という超巨大地震であるにもかかわらず、首都圏での「長周期地震動」は深刻な被害を及ぼしませんでした。南海トラフで今後、超巨大地震が発生した場合には、この程度ではとても済まない可能性が高いでしょう。

(2012年10月23日 更新)