トップページ > コラム > 地震・津波台風・大雨落雷・突風大雪猛暑火山・降灰火災PM2.5・黄砂防災の知恵夏の雷、冬の雷

落雷・突風

第4回  夏の雷、冬の雷

執筆者

小林 文明
防衛大学校地球海洋学科教授 千葉大学環境リモートセンシング研究センター客員教授 理学博士
プロフィール・記事一覧

夏と冬で様相が変わる日本の雷

落雷は、激しい対流現象を伴った積乱雲によってもたらされます。モンスーン(季節風)が卓越する日本では、夏も冬も積乱雲が発生しますが、夏の積乱雲は圏界面まで達するような鉛直方向に発達した入道雲です。
前回のコラムで、積乱雲内の電荷分離は霰(あられ)粒子が重要であることを述べましたが、このプロセスは霰が形成される雲内の気温が-10℃のレベルで活発に行われます。

夏季の地上気温は30 ℃前後で対流圏界面は-55℃程度ですから、-10℃レベルは必ず雲内に存在します。ですから、高度10kmぐらいまで鉛直方向に発達した夏の積乱雲は発雷を伴う雷雲です。
ところが、冬の積乱雲は高さが3~4km程度の雪雲ですから、-10℃のレベルが雲内に存在する保証はありません。

例えば、地上気温が-10℃であれば、雲内はさらに低温ですから電荷分離は不活発になります。北海道では厳冬期に大量の雪は降りますが、落雷がほとんど観測されないのはこのためです。

夏季の発達した積乱雲では、数100 回から数1000回に及ぶ活発な雷活動が特徴ですが、一方、スケールの小さな雪雲からの落雷数は極端に少ないため、雪雲からの落雷はいきなり電光が走り雷鳴がとどろいたかと思えば一撃で終わる「一発雷」といわれます。
こうした雪雲からの落雷は暖候期の落雷と区別して、「冬季雷」と呼ばれます。

例えば、北陸地域では12月ごろに鳴る雷を「ぶり起し」と呼ぶように、「冬季雷」は地域によって発生する時期が決まっているため、日本各地、固有の名で呼ばれることが多いようです。

日本周辺、落雷頻度のピーク

(図1)は、日本周辺での暖候期(4月~9月)と寒候期(10月~3月)の落雷分布です。夏の落雷は、強い日射によって対流が発生するいわゆる「熱雷」で、本州から九州の内陸部や山岳域で集中して起きていることが見てとれます。

一方、冬は日本海側に集中しています。特に、北陸沿岸と東北沿岸に落雷頻度のピークが見られます。これはシベリアの寒気の南下による気団変質が日本海上で起こり、雪雲が発達する場所と一致しています。さらに、冬にはもう一つ、太平洋上にも高頻度域が存在していることが分かります。

冬の太平洋上で落雷の頻度が高まる原因はよく分かっていませんが、寒気進入時に太平洋沿岸でも発生する対流雲や本州南岸を発達しながら通過する低気圧の影響が考えられています。
ちなみにこうした雷放電の観測は、一つ一つの電磁波を地上で直接捉える「落雷位置評定システム(LLS; Lightning Location System)」によって確認することができ、現在、気象庁、電力会社、民間気象会社などに設置されています。

大地・雲内・雲間で放電する、落雷のパターン

世に怖ろしいのは、地震、雷、火事、親父・・・ といわれますが、2番目に怖い雷を経験したことがない人はまずいないのではないでしょうか。

落雷は一瞬の現象ですが、その過程は複雑です。積乱雲の中で蓄積された電荷は、まず雲の中で中和が始まります。これが「雲放電(cloud-to-cloud lightning discharge: CC)」です。雲放電でも電荷の中和がしきれない時、大地の間との中和、すなわち「大地放電(cloud-to-ground lightning discharge: CG)」が生じます。これが落雷です。雲放電は雲内の放電であり、雲と雲の間で起こる雲間放電とは区別されます。

落雷の放電路は、最初ステップト リーダ(stepped leader 以下リーダ)と呼ばれる導電性の高い電荷が絶縁体である空気をつき破りながら、地面に向かっていきます。リーダは進展と休止を繰り返しながら進み、約20ms(ミリセカンド)で大地に達します。放電路が枝分かれしながら進むのはこのためです。

リーダが地面に到達した途端に地面から雲に向かって電流が流れます。これで雲内の電荷が中和されることになります。放電路の温度は、30,000K(ケルビン)に達し、激しい閃光(せんこう)が生じます。また、大きな電流が流れる際に衝撃波が発生し、雷鳴となります。
地面に達したリーダはその後、同じ放電路をたどって雲内に戻ります。これを「リターンストローク」と呼びます。
実際の落雷では、再びリーダが雲から地面に伸びてきて同様の過程が何度も繰り返す、多重落雷もよく観測されます。

落雷は雲から地面への放電ですが、中には放電の経路が地上から雲に向く上向きの落雷があることは一般にはあまり知られていません。
(図2)は、主な落雷のパターンを模式的に示したものです。

夏の積乱雲(左図)では雲中のマイナス電荷を中和するための地上への放電、すなわち負極性の下向き落雷がメインで約9割を占めます。ただし、一部は上空のアンビル(かなとこ雲)からの正極性の下向き落雷も観測されるため、雷雲から離れていても落雷の危険があるのです。
一方、雪雲(右図)は雲頂、雲底高度とも低く、地上から上向きに延びる放電路が雲に達する確率が高くなります。ですから、雲中(マイナス)や雲頂(プラス)への上向き落雷の数が増えます。

冬季雷は、正極性雷や上向き放電の割合が高くなるのが特徴です。上向きの放電は、煙突、鉄塔、風車、ビルなどの高構造物から伸びた方が雲に達しやすいので、冬季雷では、このような構造物への落雷が集中します。

雷雲が放つ、閃光の妖精・スプライト

これまで落雷は雲から地面への放電現象と考えられてきましたが、雲頂から上向きの放電も存在することが分かってきました。理論的には、雷雲の上部から放電が起こり得ることは指摘されていましたが、高度10kmを超える積乱雲の雲頂からさらに高高度の大気圏への放電は、発光現象として観測され、雷雲雲頂から上向きの放電として発見されました。

最近ではスペースシャトルなど宇宙からの観測も行われ、詳細が分かってきました。積乱雲雲頂からの上向き放電は、「スプライト(妖精)」という何ともファンタジックな名前が付けられています。
高度 50~80kmの中間圏で観測される「スプライト」の中でも赤く発光するものは、「レッドスプライト」、青く発光するものは「ブルージェット」と呼ばれています。

このような積乱雲から上向きの発光現象は、その色や形態は千差万別で、形状によって、「ニンジン状」、「柱状」、「クラゲ型」などさまざまな名前が付けられています。

現在、スプライトは高性能のカメラを用いて、世界中で観測されており、日本上空でも多くの観測事例が報告されています。
このような定量的な観測が進めば、これまで不明であった、大気圏全体の電荷分布や電気の流れ(グローバルサーキット)が明らかになるでしょう。

(2012年9月24日 更新)