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高波・高潮

第3回  台風と共に来襲する高波・高潮

執筆者

佐藤 慎司
東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻教授
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風速によって発達する波

私たちが普段目にする海の波は風によって発生します。海底の地震で発生する津波などと区別するために、風によって発生する波を風波(ふうは)と呼ぶこともあります。

風によって発達する波の高さや周期は、風速や風域の大きさによって決まります。発生初期の波は高さが低く周期の短い「さざ波」のような小さな波ですが、強い風速のもとで長い距離をかけて発達した波は、高さが高く周期も長くなります。高さが10mを超え、周期が15秒から20秒程度になる高波もあります。

風波の発達の程度は、風速と波の進行方向への風域の長さを用いて予測できます。これを波浪推算といいます。現在の気象情報予測で用いられている波浪推算では、不規則な波のエネルギー分布を解析する高度な手法が用いられていますが、有義波高と有義波周期のみを推定できる簡便な手法も実用化されています。
いずれの方法でも風域の特性に基づき、各地の波の発達状況を数値計算によって求めることができるようになっていますが、波の推定精度は風の場の推定精度に依存しますので、海上での風の場を高い精度で推定することが重要になります。

高潮発生のメカニズム「吸い上げ」と「吹き寄せ」

台風など強い低気圧が来襲すると、波が高くなると同時に海面の水位も上昇します。これを高潮といいます。高潮も波の一種ですが、周期が数時間と非常に長いので、波というよりむしろ海の水位が全体的に上昇する現象として観察されることになります。

高潮の発達には二つのメカニズムがあります。一つは大気圧の低下に伴い、海面が吸い上げられるように上昇する「吸い上げ」と呼ばれる現象です。大気圧が1hPa低下すると海面は約1cm上昇します。 平常時の大気圧は1013hPa程度であるため、台風の中心気圧が910hPa程度になると、台風の中心では海面が約1m上昇することになります。

二つ目のメカニズムは、湾口から湾奥に向けて強風が吹き続けることにより、湾の奥に海水が吹き寄せられて海水面が上昇する「吹き寄せ」です。この「吹き寄せ」による海水面の上昇は、風速が速いほど、湾の長さが長いほど、湾の水深が浅いほど大きくなります。北半球では、台風など熱帯性低気圧の常襲地帯で、南に開いた長い湾、しかも湾内の水深が浅い場合には、高潮の水位上昇量が大きくなります。

世界的には、ベンガル湾やメキシコ湾、日本では、東京湾、伊勢湾、大阪湾、有明海や周防灘などがこれらの条件に合致し、過去に大きな高潮災害が繰り返し発生しています。

湾岸地帯は特に高波や高潮に要警戒!

台風の東側は風が強くなるので、特に高波・高潮の警戒が必要です。
北半球では、台風の中心に向かって反時計回りに吹き込むようにらせん状の風が発達します。台風はらせん状の風を伴いながらほぼ北向きに進むため、中心の東側では、らせん状の北向きの風と台風の移動に伴う北向きの風の相乗効果で、非常に風が強くなるのです。

台風が南向きの湾の西側を通過すると、湾口から湾奥に向けて強い北向きの風が作用するため、「吹き寄せ」による水位上昇が大きくなります。台風の経路は気象情報によりある程度予測できるので、風域の予測を介して、コンピューターで実際の海底地形上を伝播する波の運動を追跡すると、高波・高潮の予測ができます。

海面上昇に高波が重なる、台風時の波の脅威

高潮が発生するような厳しい気象条件では、個々の波も高く発達しますから、海面の水位上昇に加えて高波が重なり、通常の状態より高い地点にまで波が到達します。また海岸に作用する波の力も大きくなります。さらに個々の波の周期も通常より長くなり、15~20秒間隔で来襲することもあります。

こうした周期の長い波は海岸近くに到達するまで砕けることなく、大きなエネルギーを保持したまま押し寄せるため、堤防に働く波力も大きく、場合によっては堤防を乗り越える恐れがあります。

さらに、このような厳しい海象条件では、周期が1分以上の長周期の海面変動も発達します。ただでさえ高潮で上昇している海水面が、1分から数分の周期で上がったり下がったりしますので、海面が上昇している時間帯では、海岸はさらに大きな波の力にさらされることになります。

台風が通過した後でも波はすぐには収まりません。海岸付近はしばらくの間危険な状態が続きますので、海岸には近づかないようにしてください。

(2012年9月24日 更新)