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土砂災害

第3回  天然ダムの危険性と対策

執筆者

池谷 浩
政策研究大学院大学 特任教授
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激甚な土砂災害をもたらす天然ダムの決壊

昨年、平成23年9月3日朝、台風12号は高知県に上陸後、ゆっくりとした速度で四国地方、中国地方を縦断し、4日未明に日本海へ進みました。

台風12号は動きが遅いうえに強い勢力を維持していたため、台風の進行方向右側にあたる地域では、雨雲の発達により長時間、強い雨が降り続き、奈良県上北山村では、8月30日17時からの総雨量が約2,400mm(奈良県ホームページ)を観測するなど、広範囲に記録的な大雨をもたらしました。この台風災害による被害は死者78名、行方不明者16名、全壊家屋373棟、半壊家屋2,924棟、床上浸水5,664棟(平成23年12月28日内閣府調べ)など、激甚なものとなりました。

また、長時間に及ぶ豪雨は地下深くまで浸透し、保水能力が高いといわれる紀伊半島でもその能力を上回る豪雨であったため、深層崩壊と呼ばれる大規模な崩壊が多数発生し、激甚な土砂災害を生じさせました。特に大規模な崩壊による天然ダムの形成とその決壊の危険性が全国的に知られるようになりました(写真1)。

豪雨により形成される「天然ダム」とは?

天然ダムとは、崩壊した土砂や土石流となって流下した土砂が河川を閉塞(へいそく)して、上流側に水たまりを形成する現象のことで、土砂ダム、堰止湖(せきとめこ)とも呼ばれています。これらの天然ダムは豪雨のほか地震や火山噴火によっても発生します。

そして、台風12号によって奈良県内で天然ダムが形成された一帯は、明治22年8月19日に発生した十津川災害でも多数の天然ダムが形成された地域でした。この十津川災害もまた台風の大雨によるもので、その降雨量は累計で約1,000mmに上り、53か所で天然ダムが形成され、災害による死者1,492名、全壊家屋は約5,000棟と、甚大で悲惨な被害をもたらしました。(国土交通省砂防部資料より)

特に十津川郷では集落が壊滅的な被害を受け、住民の一部は北海道に移住して新十津川村を開拓しました。十津川災害によって形成された天然ダムのうち、地質が四万十帯に属していて、かつ決壊時間がほぼ推定できた19か所の天然ダムについて、湛水(たんすい)量と堰止(せきとめ)土量との関係を決壊までの時間で整理したのが(図1)です。

明治と平成の天然ダムを比べると…

明治22年と平成23年の天然ダムを比べてみると、明らかに天然ダムの決壊状況が異なります。明治22年に形成された天然ダム19か所のうちほとんどが1日以内で決壊しており、7日以上決壊しなかったものは4か所に過ぎませんでした。その決壊の大部分は洪水の越流が原因でした。これらの天然ダムの上流の流域面積が50平方キロメートル以上と広く、豪雨による流水が集まりやすい場所に形成されたため、容易に洪水の越流が生じ、早期に決壊したと考えられるのです。

一方、平成23年には天然ダムが17か所で形成されましたが、8か所は決壊していません。その多くが流域面積20平方キロメートル以下の小支川の比較的水の集まりにくい場所に形成されていたこと、特に国が緊急調査を実施した5か所の天然ダムは湛水量に比して崩壊土砂量が十分大きいことなどから決壊に至らなかったものと考えられます(図1)。

すなわち天然ダムの決壊は堰止土量(せきとめどりょう)、湛水量(たんすいりょう)および、形成された場所や流域面積(水の集まりやすさ)等に大きく影響されるもので、平成23年の天然ダムは明治22年の天然ダムに比べて早期に決壊しにくい条件を有していたといえるでしょう(池谷浩、『日本歴史災害事典』参照)。

天然ダムの安全対策は、早期発見が鍵

過去の天然ダムの災害では、ダムの上流域で人家や道路が水没したり、天然ダムが決壊して土石流化し、下流域に多くの被害を発生させる災害が生じています。天然ダムの防災対策としてはどのような方法が考えられるのでしょうか。

一般的には、天然ダム形成による上・下流域での災害を防止するために、流水が天然ダムを越流する前に天然ダムを壊すか、または越流しても決壊しないように天然ダムの上に水路を作ります。また雨量計や水位計を設置して流水の量や水位を測り、水没の危険性や越流の危険性を知ることが大切です。そして万一決壊した時のために、カメラやセンサーによる警戒体制を作るのです。

では、昨年の台風12号によって形成された天然ダムではどのような災害防止対策がとられたのでしょうか。まず初めに土砂災害防止法という法律に基づいて、国は天然ダムの決壊による土石流災害を防止するべく緊急調査を実施し、県や市町村にその結果を「土砂災害緊急情報」として伝えました。その内容は、図2のような危険区域の図(一部分のみ図示)と、危険が想定される時期として、図の奈良県五條市大塔町赤谷地区では「早ければ今夜」という情報が出されました。

そして天然ダムごとの緊急対策工事が開始され、流水が安全に流れ下るための仮排水路、崩壊斜面の再崩壊に対する防護堤や法面(のりめん)対策などが実施され、土砂の再移動を監視・観測するための対策として、赤谷地区では水位計、雨量計、CCTVカメラ、土石流センサーが設置されました。今後は、より恒久的な対策が実施され、地域住民が安心して生活できる国土基盤の創出がなされることでしょう。

このように現在は明治時代と異なり、安全を確保する対策が可能になりました。そこで今、大切なことは少しでも早く形成された天然ダムを見つけ、その状況を把握し、天然ダム上・下流域の危険度を知ることです。すなわちどのような状況下にあっても、危険を回避する対応ができるかどうかが災害対策の要といえるでしょう。

(2012年9月24日 更新)