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火災・防火対策

第3回  超高層建物の火災安全対策を考えよう

執筆者

山田 常圭
東京大学大学院都市工学専攻 消防防災科学技術寄付講座 特任教授 工学博士
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多様化する都市空間の火災リスク

都市における生活空間は、超高層建物から深層地下空間へ、その領域を上へ下へと拡大しつつあります。また、建物が巨大化し、一つの建物にホテルや事務所、住宅、物販店舗、アミューズメント施設などが集積し、「街」を形成しているようなケースも少なくありません。また、一方では、カラオケ店や個室ビデオ店のように従来にはなかった使用形態での小規模雑居ビルが出現し、新たな火災を引き起こしており、都市空間での防火上のリスクは多様化してきています。

幸いなことにわが国では、最近、大規模な建物火災は起きていませんが、過去には中高層の建物火災で、一度に多くの犠牲者が出た時期がありました。その度に防火対策が見直されて、現在の比較的安全な建物、都市空間が構築されてきたのです。しかしながら、絶対に安全かというと、そうとは言いきれません。防火対策は、防火設備などによるハード面の対策と人の防火管理によるソフト面の対策の二つからなっています。建物の安全を管理する人が適正な維持管理を怠ったりすると、防火設備は立派でも「想定外」という事態が起きないともかぎりません。

今回は、都市空間の中で多くの人が利用し、防火安全上関心が高い「超高層建物」について取り上げます。

日本における超高層建物の火災事例

超高層建物火災といえば、映画の「タワーリング・インフェルノ」を思い浮かべる人も多いと思いますが、最近、海外では(表1)に示すように、急速に経済発展しているアジア地域において、映画を地でいくような火災が発生しています。

わが国でも「超高層建物」で小規模な火災は発生しているのですが、幸いにして複数階にわたって延焼した事例はありません。1989年8月の東京都江東区のマンション(地上28階建て、火災は24階で発生)で起きた火災が、「超高層建物」での様々な課題が露呈した最初の火災といってよいと思います。このケースでは、出火した住戸と共用廊下などの局所的な火災にとどめることができました。それは、高層建物ならではの防火対策が施されていたからです。基本となる防火対策は以下のようなものです。

超高層建物での防火対策の基本とは?

(1)出火および火災の拡大防止
「超高層建物」では、いったん火災が拡大してしまうと消火や救助活動が非常に困難で、火災の発生拡大を極力防ぐことが極めて重要です。31mを超えるような超高層建物では、スプリンクラーの設置、内装の不燃化およびカーテンなどの防炎物品の採用により火災の発生や拡大を未然に防ぐ対策が、建築基準法や消防法などの法令で定められています。また、一般の建物に比べて狭い防火区画の面積(通常3,000m2に対して高層の場合は1000m2)で火災を閉じ込めることとなっています。

(2)煙制御・避難経路の確保
高層建物で防火上留意すべき課題は、外壁が開閉できない窓などで覆われ、内部が密閉空間となる場合です。火災時に窓が破損するまでは、火災で発生したすべての煙は行き場がなく建物の内部に充満することになります。特に階段室に煙が入り込むと、「煙突効果」で急速に上層階へ煙が拡がっていき、火災階より上の階にいる人たちが危険にさらされます。こういうことがないように、垂直方向の空間(竪穴区画)と各階との空間的独立性を高める対策が取られています。

代表的なものとしては、「特別避難階段」と呼ばれる階段が挙げられます。これは廊下または居室と階段の間に、さらに安全な空間(付室)を設け、煙が階段室に流入しないような仕組みになっています。一方、火災室の煙は通常「機械排煙」(住宅用途では窓を明けて排出する自然排煙が多い)で屋外に排出されます。
また火災室から廊下に流出した煙は、廊下から別途排出される仕組みとなっています。「付室」に給気し、圧力を高めて階段室への煙の進入を抑えるということも、「超高層建築」ではしばしば行われます。

先に述べた高層マンション火災では、火災室からの避難時に住戸の扉を開放したまま避難したため、廊下に煙が充満し消防活動に支障が生じたと言われています。各住戸の出入り口の扉は、火災を拡大させないための防火戸の役割を果たしていますので、避難する際には必ず扉を閉めてください。

(3)耐火性能の維持
2001年9月11日、ニューヨークのワールドトレードセンターで旅客機が超高層ビルに激突し、その後、崩壊したのは衝撃的でした。衝突による倒壊と思われている方が多いようですが、崩落の直接的なきっかけは、内部で発生した火災による構造部材の耐力低下によるものです。実は旅客機が衝突した2棟以外の「超高層建物」も長時間の火災で崩壊しているものが数棟あるのです。「超高層建物」の消火にはかなりの時間がかかりますので、簡単に倒壊するようでは消防隊も安心して消火することができません。現在では、しかるべき耐火性能が法令で定められており、火事になったからといって、避難中に崩壊するようなことはありません。

もし「超高層建物」で火災に遭ったら?

こうした超高層の建物において、万一、火災に遭遇したらどうすればよいのでしょうか?普通の建物火災と基本的に避難の手順は変わりませんが、皆さんが想像する以上に建物の在館者数は多く、一斉に避難すると階段は渋滞し、全員が安全な地上に避難するまで、1時間近く時間がかかることを覚えておきましょう。

それ自体が街ともいえる「超高層建物」では、建物の安全を一元的に管理する防災センターが設けられています。火災が発生したら全館の非常ベルが同時に鳴るのではなく、原則、出火階とその直上・直下階で非常ベルが鳴ります。非常ベルが聞こえたら火災は近いと考えてよいでしょう。その後、防災センターの要員が現場確認の上、非常用放送設備にて火災発生場所、状況を放送することになっていますので、その指示に従って落ち着いて避難します。

もっとも避難指示以前に煙など火災の徴候があれば、放送がなくても最寄りの階段から避難することが肝要です。階段に煙が入っているようならば、別の階段を使用するのが無難です。「超高層建物」の大半の避難階段は「特別避難階段」で、煙が簡単には入らない設計になっています。繰り返しになりますが避難時に通過する扉は、火煙を拡大させないように閉めておくことが重要です。

避難時には、エレベーターやエスカレーターを使用しないことは常識ですが、こうした竪穴が煙の通り道になる危険性が高いからです。なお、エレベーターの中には、消防活動時にも使用できる特別仕様の「非常用エレベーター」もあります。避難時要援護者の人々の避難への使用も可能ですが、消防活動との兼ね合いもあり、運用についてはこれからの課題です。次回は引き続き、「地下鉄と地下街の火災安全対策」について紹介します。

(参考文献)
藪内喜一郎監修「写真図説日本消防史」国書刊行会発行 (1984)

(2012年9月1日 更新)