トップページ > コラム > 地震・津波台風・大雨落雷・突風大雪猛暑火山・降灰火災PM2.5・黄砂防災の知恵今年に続いて来年も?猛暑の実態

猛暑について

第1回  今年に続いて来年も?猛暑の実態

執筆者

木本 昌秀
東京大学大気海洋研究所 教授、副所長、気候システム研究系系長
プロフィール・記事一覧

猛暑日は熱中症対策を忘れずに

「今日も暑い。夏が暑いのは分かっているが、なんか近頃は毎年暑い気がする。いったいどうなってるんだ?」――そう思って、このページにたどり着いた人も多いと思います。私は、冷静な専門家ですからちょっとくらい暑くても、なるべく口に出さないように心がけていますが、熱中症の犠牲者が毎日のように報告され、節電にも心を配らなければならないとなると、みなさんの心配を少しでも和らげるために、猛暑や異常天候の要因や背景について説明くらいはしなくては、と思います。

ただ、残念ながら、私は気象の専門家なので、熱中症に有効な対策については、みなさんよりも無知かもしれません。職場や家庭での熱中症の予防策などについては、環境省や厚生労働省などのホームページにガイドがありますので、そちらを参照してください。

日本の夏の平均気温

近頃、夏は毎年猛暑のような気がしますが、そうでしょうか? データを見てみましょう。(図1)は、1898年から継続して観測している日本の17の観測点で、夏(6、7、8月)の平均気温の推移を見たものです。値は1981年から2010年の30年間の平均値(平年値といいます)からのずれの大きさ(℃)で表されています。だいだい色の縦棒は、各年の値がこの平年値を上回った年、水色は、下回った年を表しています。1980年代から最近にかけて、だいだい色が多くなっているのが分かると思います。「近頃、夏が暑いな」という感覚と合っています。

観測開始から現在までの長期変化傾向を直線で近似したものが図の赤線で、100年間に1℃昇温する割合になっています。日本での6~8月平均気温のこれまでの最高値は、記憶に新しい2010年夏の猛暑のときの+1.46℃です。このほか、2004年や1994年の夏の暑さを覚えている人も多いと思います。

気象庁では、このような気候の統計に使う平年値を近年30年の平均とし、10年ごとに更新しています。30年にそれほど大きな意味はありません。これまで経験したことのないくらい、珍しい天候が起こると「異常気象」と呼びたくなりますが、大体の人は一世代分の記憶しかないものですから、30年を気候統計の一応の基準としているにすぎません。

それこそ30年ほど前までは、このような平年値が10年ごとの更新のたびに大きく変わることは気にしていませんでしたが、最近では気温の平年値は更新のたびに、どんどん上昇する傾向にあります。これは、世間でも話題になっている地球温暖化が日本の気温にも表れているものです。実際、日本の平均気温の上昇率は全地球平均の0.74℃/100年より、少し大きなものになっています。

「2010年は観測史上始まって以来の猛暑だった」とは言っても、3カ月の平均気温では1.5℃に満たない程度です。3カ月のうちには涼しい時期や曇る日もありますから、平均するとならされて、そう大きな値にはなりません。逆に、+1.5℃であの暑さなら、地球全体の年平均が+2.0℃になるのがどれほど大変なことか想像できると思います。日本の気温にも見られる、20世紀後半以降顕著化した「地球温暖化の傾向」は、化石燃料の使用などに伴う、人間活動が主因と考えられています。やはり温暖化の抑制は真剣に考えなければいけません。

真夏日や熱帯夜は増えているか?

「猛暑」の感覚は、3カ月平均気温より、日最高気温が30℃を超える「真夏日」や、日最低気温が25℃を超える「熱帯夜」の日数を見た方がより体感に近いかもしれません。(図2)は、上から順に、真夏日、猛暑日、熱帯夜の年間日数の推移を見たものです(熱帯夜は、厳密にいうと夜間の最低気温が25℃を上回った日のことをいいますが、ここでの統計には、寒気の流入などで、日中に最低気温が記録された日も一部含まれています)。「猛暑日」とは日最高気温が35℃を超えた日のことで、2007年から気象庁が正式用語として用いています。

予想どおり、熱帯夜や猛暑日の日数は、長期的に増加してきています。グラフに長期変化傾向を表す赤線が引かれているのは、このような傾向が統計的に有意である―柔らかく言うと、上下を繰り返すランダムなデータが、たまたまそういう傾向を示したとは考えにくい―ことを示しています。真夏日日数は、よく見ると近年わずかに上昇傾向があるように映りますが、赤線は引かれておらず、科学的には「真夏日は増加傾向にある」とは言えません。(図1)や(図2)のグラフに見られるように、天候は年ごとの変動が大きく、「最近は○○である」と断言しようとするときは、きちんと科学的な検定をしなくてはいけません。

都市化の影響も要因の一つ

「それにしたって最近は暑いですよね」、まだそう言われる人も多いと思います。上に紹介したデータは、近年の都市化の影響が無いか、もしくは最小限と考えられる観測点のデータのみを用いたものです。しかし、街にはビルが建ち、里山はどんどん失われつつあります。森の木や土には水分が多く含まれ、また、日差しを和らげてくれる効果があります。暑い日に顔を洗ってうちわであおぐと、水分が蒸発して気化熱を肌から奪ってくれるので、涼しく感じます。

ところがビルのコンクリートは水分を含まず、日差しを受けるとすぐに暖まってしまうので、都市では郊外地より気温が高くなります。エアコンなどによる排熱も無視できません。晴れた穏やかな日に気温の分布を詳細に調べて等温線を引くと、都市の部分だけ、周囲より気温が高く、海に浮かぶ島のように見えるので、都市化による昇温を「ヒートアイランド現象」と呼ぶことがあります。
日本での長期の気温上昇傾向に都市化の影響がどの程度あるのか、(図3)で見てみましょう。このグラフは、夏だけでなく年平均の気温を示しています。黒線は(図1)や(図2)で用いた都市化の影響が少ないとされる17地点の平均で、水色の線は、その直近の海水の温度を示しています。

黒線と水色の線はほぼ同じ年々、長期の変化傾向を示しており、後者はやはり100年で1℃の割合です。海水温には都市化の影響はないと考えられますから、17地点の選択は大きく間違ってはいません。しかし、ピンクの線で表示した大都市(札幌、名古屋、大阪、福岡)での上昇率は、2℃/100年を超えており、赤線で示した東京にいたっては、3℃/100年に迫る勢いです。日本の大都市では、地球温暖化に加えて、その倍以上のペースで都市化による昇温が起こっている、といえます。
都市化の影響は「猛暑日」の分布にも表れています。(図4)は、1994~2002年の期間の真夏日と日最高気温38℃以上の日(前述の猛暑日よりさらに暑い日)の出現日数の分布を見たものです。真夏日は、北海道、東北を除いた西~東日本で比較的均等に出現していますが、38℃以上の出現日数は、図に破線で示した首都圏・中京圏・近畿圏の三大都市圏で周囲より明らかに多くなっています。猛暑の一因は、都市化にもあるといってもよいでしょう。

今回は、長期の気温上昇傾向を中心にお話ししました。地球温暖化と都市化がその背景にあります。しかし、日々年々の気象の変動は大きく、猛暑イベントは、もっぱら日本列島をはるかに超える大きなスケールの大気の流れの変動に伴って起きています。次回は、猛暑に限らず、異常気象などの天候変動を引き起こす「大気循環の仕組み」についてお話ししたいと思います。よく受けるご質問、「猛暑は地球温暖化のせいですか?」については、Q&Aの項でご説明をしますので、そちらもご覧ください。

(2012年9月1日 更新)