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落雷・突風

第3回  局地的大雨・雷・竜巻を生む巨大積乱雲

執筆者

小林 文明
防衛大学校地球海洋学科教授 千葉大学環境リモートセンシング研究センター客員教授 理学博士
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大雨・竜巻を生む積乱雲・スーパーセル

今年の上半期、不安定な大気の状態から特に東日本を中心として突然の雷や大雨、竜巻に見舞われる事例が数多く発生しました。そこで今回は、局地的な雨・風・雷をもたらす積乱雲について詳しくお話ししたいと思います。

積乱雲が発達すると、積乱雲の群れや1個の巨大な積乱雲になって長続きすることがしばしば起こります。1個の積乱雲はシングルセル(単一細胞)といい、それに対して巨大に組織化された積乱雲はマルチセル(多重セル)、またはスーパーセル(単一巨大セル)といいます。発達した積乱雲や積乱雲群は、局地的な豪雨や降雹(こうひょう)、竜巻やダウンバースト、落雷など顕著な現象(シビアウェザー)を伴い、アメリカ合衆国では、このような積乱雲を総称して「サンダーストーム」と呼んでいます。

では、なぜ積乱雲は「マルチセル」や「スーパーセル」などに組織化するのでしょうか。まず、積乱雲が組織化されるには、気温、水蒸気、風の場といった周囲の環境条件が重要になります。

一つは大気の安定度。もう一つは周囲の風です。大気が不安定になり、上昇気流が生じて地上付近の大量の水蒸気が凝結して雲が鉛直方向に発達すると積乱雲が組織化されやすい環境にはなるのですが、ただ、これだけではスーパーセルにはなりません。

さらに、高さ方向に風が変化(風の鉛直シアー)すると、うまく上昇流と下降流が分離されることになり、積乱雲は衰弱することなく長続きし、発達します(第2回 ダウンバーストの図1参照)。つまり、スーパーセルは特別な環境条件によって生まれる特別な積乱雲であり、「トルネードストーム」あるいは「ヘイル(雹)ストーム」とも呼ばれています。

巨大積乱雲スーパーセルとメソサイクロン(竜巻低気圧)

巨大に組織化され発達した積乱雲・スーパーセルは、鉛直方向に風が変化する影響で、積乱雲自体が回転するのが特徴です。この雲内の回転は直径10kmのスケールを持ち、メソサイクロン(竜巻低気圧)と呼ばれます。それゆえ、スーパーセル型の竜巻は雲内に存在する直径約10kmのメソサイクロンに伴って形成されます。

(写真1)はタッチダウン直前の竜巻をほぼ真下から撮影した写真です。漏斗雲が雲底から凝結(気体である水蒸気が液体である水滴に相変化すること)しながら、地表面付近に向けて伸びて行く様子が分かります。
さらに、その付け根にあたる雲底には直径約1kmの親渦(マイソサイクロン)が確認できます。さらに、この渦はより大きなメソサイクロンに連なっている様子が分かります。

風が鉛直方向に変化し、うまくねじれるとこのような積乱雲内に渦が生じるのです。このようなスーパーセルは日本でもしばしば観測されます。

直径100mの竜巻を観測的に捉えることは難しいですが、雲内のメソサイクロンはドップラーレーダーで観測することが可能です。ただしメソサイクロンから、いつ、どのように竜巻が形成されるのか、あるいは竜巻が発生する場合としない場合の違いなど、いまだ十分に解明されているとはいえません。

夏型積乱雲がもたらす「ゲリラ豪雨」

夕立は夏の風物詩といえますが、近年では都市部を中心に「ゲリラ豪雨」と呼ばれる局地的大雨による被害が問題になっています。山沿いで発生する夕立の積乱雲とは別に、夏季晴天時、平野部の都市上空で突如発生する積乱雲がもたらす「ゲリラ豪雨」の例として、1999年7月21日に東京都練馬区で発生した豪雨(練馬豪雨)があります。

その日の天候はお昼ごろまで快晴でした。それが、午後を過ぎるといきなり積雲や積乱雲が湧きはじめ、15時に東京上空で急速に発達を始めた積乱雲はわずか10分足らずで高度17kmにまで達しました(写真2)。

次々と同じ場所で積乱雲が発生した結果、練馬区に時間雨量131mmという記録的豪雨をもたらしました。時間雨量で100mmを超える降水は、地球上で降りうる1時間あたりの雨の極値に近い雨です。しかも熱帯ではなく温帯気候の東京で、太平洋高気圧に覆われ安定した夏日にこのような豪雨が生じるのは驚きです。

北関東の山岳域で発生した雷雲が移動する通り雨、いわゆる夕立とは明らかに異なっていました。写真からも、かなとこ雲が爆発的に広がって、一つの巨大な積乱雲が形成されたことが分かります。都市の排水機能をはるかに超えた降雨が起こると、都市機能はまひします。いわゆる「都市型水害」の発生です。都市に固有の豪雨はなぜ起こるのでしょうか。

都市型豪雨の原因の一つとして、都市によるヒートアイランド(熱の島)現象が指摘されていますが、その因果関係は不明な点が数多く残されています。とはいえ、毎年各地で発生する「ゲリラ豪雨」対策は急がなければなりません。

積乱雲の中はどうなっているの?

夏の積乱雲は入道雲ともいわれます。もくもくとした積乱雲の中はどうなっているのでしょうか。

積乱雲はよくカリフラワーに例えられますが、一房のカリフラワーも一口大に分けて食卓に出すように、1個の積乱雲も無数の雲の塊から成り立っています(写真3)。すなわち、水平スケールで10kmを有する積乱雲もその中には、1km程度の雲の塊(タレット)が存在し、タレットは100m程度の雲(タフト)で構成されていることが分かります。

これまでは、10km程度の積乱雲全体が観測対象でしたが、最近では高性能の雲レーダーなど新しい観測技術の出現で、タレットやタフトなどの積乱雲の微細構造が見えるようになってきました。

では、積乱雲の内部はどうでしょう。上昇流域では数10m/sを超える激しい上昇流のコアが存在します。一方、雹(ひょう)を含んだ降水域では10m/sを超える下降流のコアが存在します。ですから、積乱雲は飛行機が決して近づいてはならない危険な場所なのです。また、積乱雲内では電荷の分離が起こるのも特徴です。

小学校の理科で静電気の実験を行いますが、雲内でもさまざまな粒子同士がぶつかり合い、粒子間でプラスとマイナスの電気が分離されます。このとき重要なのは霰(あられ)粒子による電荷分離で、積乱雲内は上層にプラス、中層にマイナス、そして雲底付近にプラスの電荷がたまりやすくなります。この電荷を中和する過程が放電現象であり、地上への放電を落雷と呼びます。

落雷にはプラスの電荷を中和する正極性落雷とマイナス電荷を中和する負極性落雷の2種類があります。次回からはこの「落雷」について詳しく解説していきましょう。

(2012年7月31日 更新)