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高波・高潮

第2回  水深によって変化する、波の高さとエネルギー

執筆者

佐藤 慎司
東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻教授
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浅海ほど、波の運動は大きくなる

海では、いろいろな方向に進むさまざまな周期の波が重なるため、一波ごとの高さ・長さ・方向は不規則なものです。その中で、ある方向に進む波だけに注目してみると、水深が一定であれば水面の波形は変化せず、そのままの形で一方向に進んで行きます。しかし、海岸付近の水深が浅い領域になると、海底地形の影響を受けて波の高さや形が変化します。

波の変形を理解するには、波による水の運動の性質を理解しておく必要があります。波による水の運動では、水面の波の形は進行していきますが、水粒子の運動は鉛直方向にも水平方向にも往復運動です。したがって、波の波形は進行しても水そのものは輸送されないことになります。

水粒子の運動の様子は、水深が深い場合と浅い場合で異なります。水深が深い場合には、表面付近の水が円を描いて運動するだけで、海底付近の水は運動しません。海底近くの水は運動しないのですから、海底がどこにあっても波の運動は変わらないことになります。このような波を「深海波」と呼びます。

先ほど「水深が深い場合」と説明しましたが、水深の深さは波の波長との相対関係で決まるので、実際には、水深が波の波長の半分より深い場合には、波の運動は水深の影響を受けず、深海波と見なしてよいことが分かっています。

これに対して、水深が浅い場合には、表面だけでなく、海底付近の水も前後に運動することになります。水粒子が、水表面から水底までほぼ一様に運動するような波を「長波」と呼びます。長波では波の運動は水深の影響を強く受けるため、波の伝播(でんぱ)にともなって水深が変化すると波も変形することになります。「長波」の場合にも、水深の浅さは波の波長との相対関係で決まりますので、水深の浅い場所でも波長の短い「さざ波」は深海波と見なせますし、深海域を伝播する波でも、「津波」のように波長が数十キロ以上の長い波は深海波とは見なせず、むしろ水深に比べて波長が十分長い「長波」として扱われます。

電力活用も期待される、大いなる波のチカラ

わたしたちは、昨年東北地方の太平洋岸を襲った3.11の大津波で、波の強大さ・恐ろしさを目の当たりにしましたが、波というのは、それほど大きな運動エネルギーを持っているといえます。静止している水が波の運動を起こすためには大きなチカラが必要です。静かな海域に波が進入してくる場合には、静止していた水が波の運動を始めますが、このような運動が生じるためには、波によってエネルギーが運ばれてくることが必要なのです。

少し専門的に解説すると、波のエネルギーは、波の高さHの2乗に比例します。波の高さが10倍になると、エネルギーは100倍になります。このエネルギーが、波の進行とともに輸送されていくことになります。例えば、長さ1万kmの海岸に波高1m、周期10sの波が1年間来襲し続けたとすると、波によって輸送される総エネルギーは約9,000億kWhにもなり、これは日本の総電力供給量に匹敵します。

波のエネルギーを発電に使うためには、効率的で頑丈なエネルギー変換装置を開発する必要がありますが、日本は海岸線が長く、厳しい波浪環境にある島国なので、波浪エネルギーをうまく電力利用できる条件にあるといえるでしょう。

押し寄せる前に砕け散る、波のエネルギー

では次に、波が運ばれてくる速さ、波によるエネルギーの輸送速度について見てみましょう。それもまた、波の周期や水深によってさまざまに変化します。波の周期が短いほど、水深が浅いほど輸送速度は小さくなります。したがって、水深の深い沖合いから水深の浅い海岸付近に波が近づくと、波の進行速度が遅くなるため、海岸付近には波のエネルギーが濃縮されることになり、波の高さが高くなります。これを浅水変形(せんすいへんけい)といい、高速道路でスピードが落ちると、自動車の密度が高くなって渋滞が発生するのと同様の現象です。

さらに、こうしてエネルギーが高まった波が海岸へ近づき、波の高さが水深と同程度にまでなると、波は不安定になり砕けてしまいます。これを波の砕波といいます。波が砕けると渦や気泡を含む乱れた流れが発生するため、元々の波のエネルギーはこの乱れた水の運動により消費され、熱エネルギーとなって消散してしまいます。波が砕けることによって、波のエネルギーが消費され、結果として高い波がそのまま海岸線に作用しないで済んでいるわけです。

沖縄地方の島で、島の周囲にサンゴ礁が発達している所では、サンゴ礁の縁の部分でほとんどの波が砕けるため、台風時にも大きな波が海岸まで到達することはありません。サンゴ礁が天然の防波堤のような役割をしていることになります。温帯地域でも、最近ではこれにヒントを得て、海の中に潜堤(せんてい)と呼ばれる人工的な浅瀬を作り、その上で波を砕けさせることにより、波の力を弱める工法の導入が進められています。

「屈折」によって、集中して押し寄せる波

浅瀬などがあると、その部分だけ周辺より波の進行速度が遅くなるため、波の向きが変わり、その背後に波が集中します。光が凸レンズにより曲がり、焦点に集中するのと同じ原理で、この現象を屈折と呼びます。海岸付近は一般には沖合より浅いため、沖合ではさまざまな向きの波が混在していても、すべての波は水深の浅い海岸の方向に曲がり、海岸近くでは、ほとんどの波が海岸と直角の方向に進むようになります。海岸で波を観察すると、ほとんどの波が海の方向から来襲するように見えるのはこのためです。

岬のように突出した地形があると、海底地形の等深線が海に向けて凸レンズのように張り出すため、波が岬に集中するようになり、波の高さが高くなります。逆に、湾のように湾入した地形があると、海底地形の等深線が凹レンズのように湾入するため、波が発散し、波の高さが低くなります。

波の向きの曲がる程度は、波の周期によって異なります。「深海波と長波」のところで説明したように、周期の長い波は波長が長いため、水深の深い領域でも海底の影響を受けることになります。周期が10秒程度の通常の波では、水深数十メートルより浅い地形のみに影響されますが、周期がさらに長い波は、より沖合から屈折し始めることになり、結果として波向きが大きく曲がることになります。

周期が数十分にも及ぶ「津波」のように波長が極めて長い波は、水深数百メートルより深い沖合の海底地形の影響を受けて屈折することになります。岬の背後などで、津波が集中するのはこのためです。台風による波でも、周期が1分以上の長い波に発達することがありますので、このような場合には沖合の海底地形による波の集中についても検討し、警戒を呼びかける必要があります。

(2012年7月3日 更新)