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地震全般・各地の地震活動

第2回  地震と災害〜過去の地震災害に学ぼう〜

執筆者

平田 直
東京大学地震研究所教授、地震研究所地震予知研究センター長
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過去の地震災害の歴史

日本はこれまで繰り返し大きな地震による災害(震災)に見舞われてきました。大震災は「ごくまれに発生する災害」と考えられがちです。確かに最近の50年程度に発生した死者・不明者1000人を超える大震災は、阪神・淡路大震災(1995年)と東日本大震災(2011年)の二つだけです。しかし、明治以降の約100年を考えれば、これまで12回も発生しています。(表1)。

最大の震災は関東大震災(1923年)です。死者・不明者は10万5000人に及びました。2番目は明治三陸地震(1896年・死者不明者2万1959人)です。この震災では、多くの方が津波の犠牲になりました。東日本大震災では、死者1万6140人、行方不明者3123人(2012年2月現在)がもたらされました。

明治以降の約100年間に発生した死者・不明者千人を超える大震災は、不思議なことに関東大震災から福井地震(1948年・死者3769人)までの25年間に集中しており、8回も発生しています。その後47年間を経て阪神・淡路大震災、その16年後に東日本大震災が発生しました。第二次大戦後の日本が高度経済成長を遂げた時期に大震災が発生しなかったことは、ほんの少し長い目で地震の歴史を見てみれば、単に運が良かっただけであることが分かります。

災害誘因(ハザード)と災害素因の違いとは?

震災は、地震が発生することによってもたらされます。災害科学の用法では、災害をもたらす原因を「災害誘因」といい、自然災害の誘因の一つとして地震や火山噴火が挙げられます(図1)。英語では「ハザード」といい、「地震ハザード」という用語もよく使われています。自然現象としての地震とは何かということは、「第1回 地震はどうして起きるのか」で説明しました。参照してください。

「災害誘因」としての地震の規模が大きく、地震による揺れが強ければ、震災は大きくなります。しかし、災害は人間社会の営みの無い所では発生しません。災害発生のきっかけとなる加害力、つまり「災害誘因」を受ける社会・組織の特性を「災害素因」といいます。人口・資産が密集し、経済活動が集中するほど、発生する被害・損失は大きくなります。建物や土木構造物の耐震性が弱い、つまりぜい弱な都市は被害が大きくなります。被害・損失が発生してもそれを減らす能力の高い社会では被害を軽減できます。これらの要素が「災害素因」です。

交通事故のように、「災害誘因」である事故そのものを少なくできる災害に対し、震災は大地震の発生を抑止することはできません。従って、災害の被害を少なくするためには、「災害素因」である、例えば「建物の耐震性能を向上させること」などが重要となります。

地震の種類によって異なる災害が発生する

社会の震災に対する「災害素因」を少なくする、つまり地震に強い社会にするにはどうすればよいのでしょうか。まず、災害の発生する仕組みを理解することが重要です。そのためには、過去の震災の教訓に学ぶこと。東日本大震災では、死者の9割が津波によるものですが、津波による災害は、明治三陸地震や昭和三陸地震でも発生しています。関東大地震では死者の9割近くが火災で犠牲になりました。阪神・淡路大震災では死者の約8割が家屋の倒壊や家具の転倒による圧死でした(図2)。新潟県中越地震(2004年)では中山間地での斜面災害が大きな問題となりました。これらは、海域の地震か内陸の地震か、平野部の地震か山間地の地震かなどといった「災害誘因」としての地震の性質と、地震の発生した地域の人口が多いか、耐震化された都市かどうかなど「災害素因」の特徴の組み合わせによって決まります。


さらに、東日本大震災では震度6弱以上の強い揺れに見舞われた地域が8県と極めて広域に被災が生じていることが重要な特徴です。阪神・淡路大震災は兵庫県一県の局地的な震災でした。これは、東日本大震災がマグニチュード9.0という巨大な地震によってもたらされたことが原因ですが、将来発生が予想されている南海トラフ沿いの巨大地震によっても、西南日本の広い地域で被災することが予想されています。


どのような震災が発生するかは、「災害誘因」としての地震の性質と「災害素因」としての社会の特徴を理解することで予想できます。過去の震災の教訓を学ぶことは、その第一歩となります。しかし、忘れてならないのは最近50年程度の歴史では短すぎるということです。そのためには、最近の経験にとらわれることなく、科学的に蓄積された広い知識を正しく理解することが必要です。

災害の被害を軽減する「減災」とは?

すでに述べたように、地震の発生を防ぐことはできません。しかし、震災を軽減=「減災」することはできます。例えば、今後発生が懸念されている首都直下の地震では、火災による大きな被害が予想されています。首都圏には依然として木造の不燃化されていない住宅が密集している地域が多く残っているからです。道路が狭く、消防車が活動できない地域です。こうした地域では、地震が発生しなくとも火災による被害の起きる危険性は高く、改善が望まれます。一人ひとりが火を出さない注意をすれば火事を防げると考えがちですが、いったん大規模な地震が大都市のそばで起きれば、必ず火災が発生します。そのとき、都市が不燃化されていなければ確実に被害が広がります。これは一例です。

日頃から斜面災害の多い地域では、いくら大雨の時に注意をして、一時的に避難しても、不意に発生する大地震で土砂崩れが発生すれば災害を食い止めることはできません。都市の高層マンションでは、海域で発生する巨大地震によって長周期の大きな揺れに見舞われます。エレベーターが停止し、停電によって貯水タンクへの給水が止まり断水になることもあります。こうした災害の種類は、地域や発災時刻によっても異なります。自分の住んでいる地域の「地震ハザード」をよく理解して災害に備えることが必要です。

地震の発生を防ぐことはできませんが、いつ発生するか、あらかじめ予測することはできるのでしょうか。残念ながら、防災・減災に役立つような地震予知情報が出ることはありません。東海地方のプレート境界で発生する巨大地震についてだけは、気象庁が24時間体制でプレートの状態を監視して、地震発生の前触れがあったときに情報を発表する体制が整っています。

それでも、気象庁のホームページには、予知の情報が出ずに大きな地震の発生する可能性があることが述べられており、静岡県も予知の情報が出て地震が発生するときと、予知できずに不意に地震が発生するときの両方に対して防災・減災対策を講じています。もし、予知情報が出れば死者の数は約4分の1に減らせるという試算もありますが、不意打ちを受けることも十分考慮する必要があります。

地震と震災は、「減災」という観点からは厳密に区別する必要があると述べました。さらに重要なことは、私たちの住んでいる日本は地震災害発生の可能性が高いということです。これに備えることが最も重要なことです。

(2012年7月3日 更新)