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日本の火山活動

第1回  大地震は火山噴火を誘発する!?

執筆者

藤井 敏嗣
東大名誉教授 火山噴火予知連絡会会長
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地震と火山噴火の関係

2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震の後、東北・関東地域ではしきりに地震が発生しています。これは、巨大な地震によって震源域周辺の地殻内の応力場が変化したためですが、地殻内の応力状態の変化は地震を誘発するだけでなく、地殻内に存在するマグマだまりに影響を及ぼし、火山噴火を誘発する危険性があるのです。

地震が火山噴火を誘発した例として有名なのは、約300年前の宝永地震(M8.6)と富士山宝永噴火です。宝永地震は1707年10月28日、遠州灘沖と紀伊半島沖で同時に発生した大地震で、いわば東海地震と東南海・南海地震が連動した地震ですが、この49日後の12月16日に富士山がその歴史の中でも珍しいほどの激しい爆発的噴火を起こしました。(写真1)

20世紀最大級の噴火といわれるフィリピン・ピナツボ火山の噴火(1991年)も、その前年1990年7月16日に約100km離れたバギオ付近を震源に発生したフィリピン地震(M7.8)に誘発されたと考えられています。地震発生から9カ月後の1991年4月、ピナツボ火山山麓で水蒸気爆発が起こり、カルデラを作った爆発的噴火のクライマックスは6月と、ほぼ1年後でした。

3月11日の地震に誘発されたと見られる噴火はまだ起こっていませんが、世界の例からすると地震後数年たってから噴火したケースも知られていることから、まだしばらくは注意が必要です。

地震によって火山噴火が起きるのはなぜか

地震が噴火を誘発するメカニズムには、以下の通り、さまざまなケースが考えられます。

(1)地震による圧縮ひずみが増大しマグマが絞り出される
(2)差応力が増加してマグマの貫入を誘発する
(3)地震動によってマグマだまりが揺さぶられマグマが一斉に発泡し,爆発的噴火をする
(4)周囲の岩盤の応力変化によってマグマだまりの圧力が減少し、マグマが発泡して軽くなり上昇を開始する

以上のうち、最も有力視されているのは、(4)のマグマ発泡の促進によるマグマ上昇のケースです。マグマだまり周辺の応力状態が変化して、微小なクラックが生じマグマだまりの圧力が減少すると、マグマから二酸化炭素などの揮発性成分が気泡として分離します。二酸化炭素はマグマ中に数%程度含まれる水と異なり、マグマ中の溶解度が低く水の100分の1程度なので、もともと発泡直前の状態にあり、わずかな減圧によっても容易に飽和して発泡しやすいのです。

このような発泡が起こると、マグマの密度は低下するので、マグマだまりで密度的に中立状態にあったマグマが浮力を得て上昇を開始することになります。マグマが上昇して浅い場所に移動すると周囲の圧力が下がるので、マグマの減圧が生じてさらに発泡が促進されます。こうなるとマグマはさらに浮力を得てもっと浅い場所に移動するという、いわば“正のフィードバック”がかかることになります。

ただし、このように地震がきっかけでマグマが発泡し上昇を始めても、マグマ中の二酸化炭素量は多くないため、得られる浮力もそれほど大きくなく、最終的に地表に到達して噴火するまでにはかなりの時間がかかることもあります。地震発生後、噴火が誘発されるまでに数年を要したケースが見られるのは、このようなメカニズムによるためかもしれません。

火山噴火を誘発してきた巨大地震の歴史

火山噴火は地下に存在するマグマによって引き起こされるので、火山の近くで地震が発生しても、火山の下のマグマだまりに十分なマグマが蓄積されていない場合には噴火は起こり得ません。つまり、すべての大地震が火山噴火を誘発するとは限らないと考えられますが、過去の歴史を振り返ると、それがそうとも言い切れないのです。

これまで世界各地で発生したM9以上の巨大地震は、例外なく火山噴火を誘発したと考えらます。これは地震のマグニチュードが大きいと応力変化を起こす領域も広くなり、震源域から離れたところにある火山にまで影響力が及ぶからだと考えられます。

20世紀半ば以降、M9を超える地震が発生した地域では、いずれも近くの複数の火山で数年以内に噴火が生じているのです。(図1)

2010年のチリ地震はM8.8で、直後には近くのどの火山も噴火しませんでした。地震の規模がM9に達しなかったから火山噴火を誘発できないのかと思われましたが、1年3カ月後の2011年6月にコルドンカウジェ火山群の噴火が始まりました。この噴火もM8.8の地震に誘発されたと考えられています。

3.11の大地震が火山噴火を誘発する可能性

このように過去の事例を振り返ると、M9に達するような巨大地震の場合には必ず火山噴火が誘発されてきたわけですが、では、このたび日本観測史上最大のM9と認定された東北地方太平洋沖地震の場合はどうでしょうか。

3月11日の地震発生直後、北海道から九州に至る20の火山で直下の地震活動が活発化しました。多くの火山は1~2日で平常状態に戻りましたが、箱根山(神奈川県・静岡県)と焼岳(長野県・岐阜県)では有感地震も発生しており、1週間以上地震活動が高まった状況が続きました。

また、3月15日には富士山の直下15kmの深さでM6.4の地震が発生。余震の震源は山頂直下5kmの深さまで伸びる垂直板状の領域を形成して、2週間以上にわたり活発な余震活動が続き、1年以上経ってもまだ影響が残っていました。

この地震については気象庁が「静岡県東部地震」と発表したことから、富士山の直下で起こった地震だとは気付かなかった人が大部分でしたが、火山研究者の多くは「もしかするとこのまま富士山噴火につながるのでは・・・」と考えたのです。しかし、その後の調査でマグマの移動を示す兆候は見られませんでしたから、私自身、ほっと胸をなで下ろしたというのが正直なところです。

このように東北地方太平洋沖地震の影響によって多くの火山で地震活動が高まった事実はあるものの、これまでのところ噴火には至っていません。霧島山新燃岳と桜島(いずれも鹿児島県)は3月11日の地震の直後に噴火を起こしていますが、この二つの火山は元々、活発に噴火活動を繰り返していたので、果たして地震の影響で噴火したのか、たまたま地震と重なったのかは判断が難しいところです。しかし世界の他の巨大地震の例では、数年たってから火山噴火が誘発されたと考えられる例もあることから、まだまだ予断を許さない状況です。(図2)

M9ほどの巨大な地震では、場所によっては一辺数百km以上の地盤が数十mずれるため、その影響は広域に及び、すぐには収まりません。地震発生後も大きな余効変動が継続しており、今後数年から数十年程度は震源域周辺の広い領域で地殻応力状態が変化すると予想されます。つまり、日本に暮らすわたしたちは、大きな余震や誘発地震に備えるのはもちろんのこと、火山噴火の誘発にも今しばらく注意する必要があるといえるでしょう。

(2012年7月3日 更新)