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火災・防火対策

第2回  大地震時の火災からの安全確保

執筆者

山田 常圭
東京大学大学院都市工学専攻 消防防災科学技術寄付講座 特任教授 工学博士
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東日本大震災と大規模市街地火災

昨年3月11日の東日本大震災では、津波や原子炉格納容器の爆発に伴う被害が広域かつ甚大であったために、二次災害としての火災の存在感は薄くなっていますが、阪神淡路大震災時に神戸市内で起きた市街地火災を超える火災が広域にわたって発生しています。

消防庁の報告 (※1)では、東日本大震災時の大地震やその後の津波、余震で発生した火災は、青森県から神奈川県まで1都10県、計284件に上っています。最も多いのは震源域直近の宮城県で135件ですが、震源から遠く離れた東京都でも31件と、2番目に多かった岩手県の34件に匹敵する数の火災が起きています。中でも、岩手県の山田町では市街地のほぼ全域、大槌(おおつち)町でも山沿いの市街地部分が焼失してしまいました。また宮城県の気仙沼市では、鹿折(ししおり)地区で大規模な市街地火災が発生するとともに、津波で漂流したがれきと流出油が相まって湾内で火災が漂流しました。これによって、今までに経験したことのない様態の火災が発生し、沿岸の漁村を火の手が襲いました。

今回の震災の火災の約半数は、津波後に浸水域で火災(以後、津波火災と表記)が発生しています。そもそも津波(水)と火災は、相いれないイメージがあり、浸水域での火災を不思議に思われる方が多くいるかもしれません。しかし、過去の昭和三陸地震(1958年でも八戸町(現・青森県八戸市)で津波後火災が発生していますし、最近では、北海道南西沖地震(1993年)で津波に襲われた奥尻島青苗地区の市街地ほぼ全域が津波火災で消失しており、それほど珍しいものではないのです。もっとも、東日本大震災ほど広域かつ大規模な津波火災が発生した例は過去に例を見ません。

東日本大震災での火災の発生状況

阪神淡路大震災時の神戸市では、ガス漏れ、電気の短絡や通電(停電した地域に復旧後、電気を供給すること)あるいは、ろうそくなど裸火の転倒により火災が発生し、市街地火災にまで発展しました。東日本大震災では過去の教訓が生かされ、通電による火災こそ少なくなくなりましたが、地震後の停電時に明かり取りとして使っていたろうそくが余震で倒れるなど、過去の地震火災と同様の事例も少なくありません。幸いなことに、こうした例は単独の火災にとどまっています。

一方、今回の大規模市街地火災のほとんど全てが津波火災によるものでした。それぞれの出火原因は、圧倒的な力の津波で破壊された家屋や車両での漏電・短絡、衝突による火花など、多種多様な可能性が複合していると推察されますが、偶発的要素が多いため確定することは困難です。しかし、その出火拡大の経過は、おおよそ推察することができます。三陸沿岸では、津波によって山際や高台に打ち上げられた倒壊家屋や自動車など、多くの可燃物が漂流してきた火源(家屋・各種燃料)から着火炎上し、市街地火災から山林火災に拡大しました。一方、仙台市以南の人口や産業が集積している平野部では、街の中に散在する家庭用ガスボンベや自動車のように、個々の燃料は少量でも、総量としては膨大な可燃物が、潜在的な出火・延焼の危険性拡大に少なからず関与したと思われます。

火災は、大地震や津波という自然の巨大な外力が平時の社会生活に加わった場合、多かれ少なかれ避けては通れない、ごく一般的な災害です。これに対して、津波や原子力は、極めて甚大な被害を広域にもたらしますが、災害としては特殊な災害といってもよいのではないでしょうか? 近い将来発生が想定されている首都圏直下型地震や東海・東南海・南海地震でも、恐らく火災は、住民の生命を脅かすと懸念されます。以下、地震火災からいかに身を守るかを簡単に紹介します。

地震火災への備え

大地震の火災からいかにして身を守ったらよいのでしょうか?いったん火災が市街地規模に拡大してしまったら、避難する以外、個人で出来ることはあまりありません。まず何よりも地震後に火事を出さないこと、また万一出火しても、周囲の人々と協力して、初期の段階で消火することが極めて重要です。

最近の石油ストーブやガス機器などの火気設備には、耐震装置が義務づけられるなど安全性が向上していますが、地震後、元栓の閉鎖などの安全確認を行うことが望まれます。地震時に調理で裸火を使っている場合、直ちに火を消すことも重要です。しかし、慌てて対応しやけどを負ったり、油をこぼして火勢を拡大させたりする危険もありますので、状況によっては揺れが収まるまで待って火の始末をしてください。

また地震後に停電となった場合は、再通電に備えて暖房機器などのスイッチは切断しておくこと、また自宅から避難する場合は、家庭用のブレーカーを必ず切断しておくことをぜひ覚えておいてください。万一、地震とともに出火してしまった際に備え、身の回りに消火器を準備しておくことは、一般の火災への備えと同じです。その他、今回の津波火災では、冠水した車両から出火した事例が数多く報告されています。いったん冠水した車両は漏電等で出火の危険性が高くなっていますので、不用意にエンジンをかけないなど、メーカー団体も注意喚起 (※2、3)しています。参考にしてください。

大地震時と平常時の火災とでは、公設消防機関の対応力に大きな差がある点も留意しておく必要があります。平常時であれば119番通報して5分程度で駆けつけられる消防隊も、同時に対応できる火災の数には限界があり、家屋倒壊による道路閉塞や交通渋滞で到着が通常よりかなり遅れる可能性もあります。それ以前に、電話の輻輳(ふくそう)で消防機関に連絡ができるかどうかも懸念されます。東日本大震災時には、公設消防機関の消防力が極度に低下し、緊急消防援助隊が到着して本格的な消火活動が始まるまでの約2日間、火災鎮圧できない状態が続きました。今後も同様の事態が発生する恐れがあります。

大地震時に自宅で起きた火災は、まずもって自らが、また地元消防団や自主消防組織が中心となって自助・共助で地域の安全を守るという意識が必要です。日頃から、地元の人々とのコミュニケーションを図ったり、地元の防災訓練に参加したりするほか、いざという時の身近な連絡先も事前に検討しておきましょう。

地震時の安全避難のために

地震発生後、火災などの危険が迫り、行政機関から避難勧告や避難指示が発令された場合、また市民の自主判断で避難が必要になった場合、避難行動をとることになります。どこへ、どのように避難するかは、具体的に各地域の地域防災計画で定められています。大都市では避難者の数が多くなることから、まずは近くの小中学校の校庭や公園、集会所などの一時(いっとき)避難場所へ一時的に避難することとされています。その後一時避難場所が危険になった場合には、別の安全な一時避難場所や、広域避難場所に移動する計画となっています。

原則として集団避難は、地域や防災福祉コミュニティーごとに一団となって避難することになっていますが、現実には、通勤・通学で、家族が家から離れた場所に居ることもままあります。家族全員で最寄りの避難先と連絡方法を事前に話し合っておくことは、安全・安心な避難には重要です。また、自宅以外の職場や学校で地震に遭遇した場合には、そこの避難計画に従うことになるので、事前に確認しておくことも必要です。

遠路、不用意に徒歩や車で移動を始めると道路の渋滞が発生し、緊急用車両の通行の支障となります。また状況が分からないまま市街地火災に巻き込まれる恐れもあります。
(図3)は、阪神淡路大震災時に市街地火災が発生した地域と、第2次世界大戦時に空襲で焼失した地域を重ねて表示したものです。両者は補完関係、つまり空襲の被災を免れた比較的木造で密集した地域が、地震災害時には市街地火災を被ったことが分かります。現在首都圏では、山手線を取り囲むように、木造密集地域が形成されています。地震時に都心に居る人々が徒歩で帰宅するとなると、こうした市街地火災発生の危険性が高い地域を通過していくことになります。まずは、発災後の情報収集をしっかりと行い、その上での冷静な対応行動を期待します。

さて、わが国は、わずか四半世紀間に、2度も首都である東京の大半を焼け野原にしています。1回目は関東大震災(1923年)、2回目は第二次世界大戦末期の東京空襲(1945年)です。世界広しといえども、首都で2度にわたって都市大火を経験している国などほかに例を見ません。二度あることは三度あるということにならないよう、地震火災への備えを推進していくことが、耐震補強と並んで地震被害軽減の上で重要であると考えます。

(参考文献)
※1:平成23 年(2011 年)東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)について(第145 報)

※2: JAF「被災による冠水車両の火災防止について」
http://www.jaf.or.jp/profile/news/file/2010_45.htm
※NHKサイトを離れます

※3: 一般法人日本自動車工業会
「損傷した電気自動車・ハイブリッド自動車の取り扱い時の主な注意事項」
http://www.isuzu.co.jp/product/elf/elf_hybrid/pdf/precautions.pdf
※NHKサイトを離れます

(2012年5月29日 更新)