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台風の基礎知識

第1回  当たる・当たらない!? 台風予報の最前線

執筆者

中澤 哲夫
WMO(世界気象機関)世界気象研究計画課長
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台風予報は、なぜ「外れる」ことがあるのか?

テレビの気象ニュースなどで、よく以下のような台風予報を耳にされることでしょう。
「台風○号は今朝午前6時にマリアナ諸島近海で発生しました。今後次第に勢力を強めて、4~5日後には九州から四国、紀伊半島にかけての地域に接近する模様です」
さらに、これらの予報がその通り「当たる」こともあれば、時として大きく「外れる」こともあったことを経験された方が多いのではないでしょうか?

こうした台風予報は、気象庁のスーパーコンピューター上で計算された結果に基づき、最終的には予報官の経験と判断によって出されます。
では、膨大な計算によって出される台風の予報が、なぜ時に「外れる」場合があるのでしょうか。それには大きく分けて2つの理由があります。

一つは、予測を行うための数値計算式群(スーパーコンピューター上で実行される巨大なプログラムのこと。今後、このことを、数値モデル、あるいは単にモデルと呼ぶ)に十分な物理法則が組み入れられていないか、あるいは組み込まれていても自然を正しく反映したものとなっていない可能性があることです。

もう一つは、モデルの入力データとなる初期値の不完全性の問題です。モデルで将来の大気の状態や台風の進路を予測するためには、現在の大気の状態を記述する初期値が必要です。初期値は観測データを基に作成されますが、台風は海洋上で発生、発達するので、観測データが極めて限られているという問題点があります。結果として、初期値には初期誤差が含まれることとなり、この初期誤差がモデルの中で増幅し、予測の誤差、予報のズレとなってしまうのです。

この初期値の誤差に関する問題については、次回、詳しくお話しすることにします。

台風を発生・発達させる源は?

では、そもそも台風の成り立ちとはどういうものなのでしょう。簡単に言うと、海の水が蒸発し雲になるときに出る「エネルギー」が大きくなったもの。専門用語を使うと、暖かい海面からの水蒸気が凝結して雲粒になるときに出る「エネルギー(潜熱:せんねつ)」が、台風発生と発達の源なのです。

熱帯の暖かい海では、時として積乱雲(入道雲)が発生します。これらの積乱雲は、あちらこちらで発生・発達・消滅を繰り返します。積乱雲の上昇気流により、水蒸気は上空へ運ばれて凝結し、その結果放出される潜熱によって、ある領域で周囲より暖かい場所が出来てきます。このため、その領域で気圧が下がり、そこに向かう低気圧性の空気の流れが形成されます。この循環は、さらなる積乱雲の発生、発達を促し、それによってさらに大気中の加熱が大きくなっていきます。

「潜熱放出→気圧低下→低気圧性循環強化→潜熱放出強化」と、どんどん強く大きく発達しようとする「自励効果(じれいこうか)」が働くこととなり、周囲の湿った空気の流れと積乱雲の集団による潜熱放出とが、相互に強め合うことで台風が発生、発達すると考えられています。

この潜熱放出によって出来る台風の中心付近での加熱は、温暖核あるいは暖気核と呼ばれています。このような台風の特徴は、南北の温度差をエネルギー源とし、前線を伴う温帯低気圧とは異なることが分かります。

台風予測を困難にする元凶、積乱雲集団

これまでの説明でも何となくイメージしてもらえるように、台風の発生、発達に必要不可欠なチカラといえば、積乱雲の集団による潜熱放出です。

潜熱放出が起きるためには、たくさんの積乱雲が出来なければなりません。ですが、どこでどれくらいの積乱雲が出来るのか。積乱雲が組織化してどのように積乱雲の集団が形成されるのか、それによってどの程度の加熱が起きるのか、積乱雲の解明は台風予測の鍵ともいえます。しかしながら、その実態についてはいまだ科学的に解明されていない課題が数多く残されています。つまりこの積乱雲集団の観測と予報の難しさこそが、台風予測を困難にしている元凶といってもいいでしょう。

ところで、通常の台風の大きさは、直径数百キロから数千キロ程度です。積乱雲一つ一つの大きさは、数キロ程度ですから台風の大きさに比べれば、ごくごく小さなものです。個々の積乱雲の発生・発達・消滅とその組織化を解明することが台風予測の鍵となるといいましたが、無数に発生しては消えていく極めて小さな積乱雲一つ一つを捉えるのは、現在のスーパーコンピューターの力をもってしても無理だと言わざるを得ないのが現状です。

では、スーパーコンピューターはどうやって台風予報を出しているのでしょうか。それは、積乱雲一つ一つを捉えるのではなく、それらをひとまとめに積乱 雲の集団的な効果を見積もることで予報を行っているのです。

改善が難しい「強度予測」、着実に進歩する「進路予測」

台風の予報には、大きく分けて「強度予測」と「進路予測」があります。このうち強度予測については、残念ながらここ10年ほど、目立った改善がありません。モデル(計算式)の水平空間分解能が大幅に細かくなり、物理法則も精緻化(せいちか)されてきているにもかかわらず改善が進んでいないというのは、おそらくモデルそのものの問題と初期値の問題、両方が関係しているのでしょう。

モデルの問題については、「目の壁雲(かべぐも)」や「レインバンド(激しい雨をもたらす降水帯)」「温暖核(台風中心付近の暖かい空気塊)の再現性 」が悪い点などが挙げられます。目の壁雲とは、台風の渦巻きの中心、いわゆる「台風の目」の周りで壁のようにそそり立つ積乱雲のことです。初期値の問題に関しては、台風域での観測データ量が少ないこと、台風中心示度の誤差(主として衛星による強度推定誤差)や検証データの欠除などが挙げられるでしょう。

一方「進路予測」は着実に精度が上がってきています(図参照)。
10年ほど前は、2日後の台風の予測進路と実際の進路の差は300キロでしたが、最近では、3日後の予測進路でもその誤差は300キロと、精度の向上が見られます。これには、モデルの全般的な改善と衛星データが飛躍的に増加し、それらのデータをモデルに取り込む手法も高度化してきたことで、特に風の予測が向上してきたことが挙げられます。

というのも、台風は主に「指向流(しこうりゅう)」と呼ばれる台風周辺の風によって流されているので、台風の進路予測の向上と風の予測精度の向上は密接に関係しています。また、台風それ自体の気圧、風分布がよく表現できるようになってきたことも進路予測の精度向上に寄与しているものと考えられます。

このように今回は「台風予測の今」を詳しく見てきましたが、次回は「ここで観測すれば台風予報は改善される!」というテーマで、「観測のツボ」について説明したいと思います。

(2012年5月29日 更新)