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落雷・突風

第2回  すさまじい下降流、ダウンバースト

執筆者

小林 文明
防衛大学校地球海洋学科教授 千葉大学環境リモートセンシング研究センター客員教授 理学博士
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列島に吹き荒れる、さまざまな「突風」

4月の初め、台風並みに発達した低気圧(爆弾低気圧)の発生により、日本列島各地がすさまじい突風に襲われました。このように、世の中には竜巻以外にもさまざまな「突風」が存在します。日本では突風の定量的な定義がないため、「急に風速が強まる風」を広く「突風」といいます。

「強風」、「疾風」、「烈風」、「暴風」などの用語は、風力階級に対応した表現であり風速の大きさを表しています。突風をもたらす大気の乱れを、気象用語では「擾乱(じょうらん)」といいます。大規模な擾乱としては、温帯低気圧、熱帯低気圧(台風)や季節風などがあり、局地的な現象としては、海陸風、山谷風、湖陸風などの局地循環や、だし風、おろし風、フェーンなどの地形によるものが挙げられます。

例えば、夏の浜辺や海岸に涼をもたらす海風も、その進入する先端は海風前線と呼ばれ、突風を伴います。一方、降水を伴う現象、特に積乱雲に伴う突風としては竜巻やダウンバーストが知られています。今回は特にこのダウンバーストに焦点を当て、突然吹き荒れる風についてお話ししましょう。

積乱雲からの強い下降流「ダウンバースト」とは?

積乱雲からの強い下降気流はダウンバーストと呼ばれます(図1)。ダウンバーストは地上で四方八方に発散するため、建物や私たちの生活にとって驚異となります。ダウンバーストは、水平スケールが4 km以上のものをマクロバースト、4 km以下のものをマイクロバーストと区別されます。竜巻は古くから知られていますが、ダウンバーストは近年発見された現象です。シカゴ大学の藤田哲也博士が、1975年6月24日にニューヨークのケネディ空港で航空機が墜落した原因が積乱雲からの強い下降流であるということを発見し、それ以来ダウンバーストは広く注目されるようになりました。

ダウンバーストに伴う風の急変は、低高度のウインドシア(LAWS, Low Altitude Wind Shear)を引き起こし、航空機の離着陸に大きな影響を及ぼします。航空機にとって風の急変は大敵であり、特に減速する着陸時にダウンバーストのような下降流を受けると、墜落の危険性が高まるのです。

ダウンバーストが発生する原因はいくつか考えられます。一つは雨滴や雪片などの降水粒子が落下中に蒸発する効果です。蒸発によって、上空の空気の塊が冷やされ、密度が高くなり、重くなった空気が勢いよく地面にぶつかるわけです。もう一つは、雹(ひょう)などの固体粒子が落下中に空気を引きずることにより下降する気流の勢いが強められる効果です。

アメリカ合衆国の中西部では雲底高度が高く、雲底下が乾燥しているため蒸発の効果が大きく、雨は地上に達する前に蒸発してしまい、“ドライ”なマイクロバーストがしばしば観測されます。一方、わが国では雲底が低く、雲底下の空気が湿っているため、ダウンバーストのほとんどは降水を伴った、いわゆる“ウエット”なマイクロバーストです。ダウンバーストは下降気流ですが、雨や雪、あるいは地上のほこりにより可視化され、遠くから積乱雲を見ると雲底下でダウンバーストが地上に達する様子を確認することができます(写真1)。

ダウンバーストは地上で発散するため、その影響は竜巻に比べ広範に及び、日本各地でも観測、報告されています。わが国で大きな被害をもたらしたダウンバーストの事例としては、1991年6月27日の岡山市、1996年7月15日の茨城県下館市周辺、2000年5月24日の関東地方、2003年10月13日の千葉県や茨城県、2008年7月12日の東京都などが報告されています。

にわかに曇り、一陣の風が吹き過ぎる・・・ガストフロント

蒸し暑い夏、夕立ちが起きる直前に涼しい風を感じたことはありませんか? それがガストフロントの通過です。ダウンバーストが地面にぶつかり、冷たい空気が地上付近で発散する時、その先端では冷気と周囲の暖気の間に前線が形成されます。この前線はガストフロント(突風前線)と呼ばれ、突風・風向の急変・気温の急降下・気圧の急上昇を伴い、ミニチュアの寒冷前線的な様相を示します。

時代小説などを読むと、「一転にわかにかき曇り、一陣の風が吹いたかと思うと…」というような記述が見られますが、これも積乱雲に伴うガストフロントで、「陣風」「早手(はやて)」と呼ばれるものですが、こうした言葉は、現在ではあまり使われなくなりました。

ガストフロントは通常目には見えませんが、ガストフロント上で新たな積雲が発生し可視化されることがあります。この雲は積乱雲に付随する雲に分類され、ガストフロントに沿いアーチ状に形成されるため、アーククラウド(アーク雲あるいはアーチ雲)と呼ばれます。写真2や写真3に示したように、ガストフロント上できれいに雲が形成される場合もありますが、積雲が一列に並ぶこともあり、気象条件によりさまざまな形態になります。

アーククラウドは、通常の雲底より低い高度に形成されます。写真の事例では、アーククラウドの雲底はいずれも高度200 mと推定されています。ですから、発達した積乱雲の接近時に手の届くような低い高度に突然現れる異様な黒い雲はガストフロントのサイン。ガストフロント上にスカート状に広がった形状と雲底部分の凹凸がアーク雲の特徴です。
雲底の凹凸は、ガストフロント前面の大気の乱れを表しています。そのため、ガストフロント上では2次的な竜巻(ガストネードとも呼ばれます)が発生する場合もあります。降雪雲の場合は、しばしば雪によってガストフロントが可視化されます。

ガストフロント通過時の突風は、多くの場合風速20~30 m/s程度で、被害もF0クラスと顕著な被害が生じることが少ないため、日本で発生するガストフロントの発生件数や実態はよく分かっていません。しかし比較的弱い突風であっても、テント、高層ビルのゴンドラ、大型遊具などは要注意です。

2008 年7月27日に福井県敦賀市のイベント会場でテントが飛ばされ、1名の死亡者が出た事故の原因はガストフロントとされています。この大型テントは、1トンの重り4個で固定されていましたが、20 m/s弱の風であおられ飛ばされることが、その後の専門家の調査で分かりました。ガストフロントによる仮設物の被害は多発していますが、たまたま軽微な被害で済んでいるだけなのです。アウトドア・イベントやキャンプ時などは、十分注意が必要です。

竜巻・突風を予測するドップラーレーダー

では、竜巻やダウンバースト、ガストフロントなどの突風を観測、予測することは可能でしょうか。一般に、気象レーダーは雨を測る道具ですが、ドップラー効果(動いている対象物に反射する波の周波数が変化する現象。救急車のサイレンの音がすれ違う前後で変わるのもこの効果による)を利用して雲内の降水粒子の速度、すなわち風速を測定することは可能です。ですから、ドップラーレーダーというリモートセンシング(遠隔測定)技術を用いれば、竜巻やダウンバースト、ガストフロントを空間的にとらえることができ、観測・予測することが可能になります(図2)。

すでに、世界各地の空港などにはドップラーレーダーが配備され、雲内の竜巻渦や地上付近のガストフロントを観測しています。最近、東京都心周辺では、複数のドップラーレーダーを用いたネットワーク網が構築され、安全な都市生活のために、竜巻、ダウンバースト、局地的豪雨など極端な気象を短時間で予測(ナウキャスト)する試みが始まっています。

(2012年5月29日 更新)