トップページ > コラム > 地震・津波台風・大雨落雷・突風大雪猛暑火山・降灰火災PM2.5・黄砂防災の知恵日本中どこでも起こりうる竜巻の怖さ

落雷・突風

第1回  日本中どこでも起こりうる竜巻の怖さ

執筆者

小林 文明
防衛大学校地球海洋学科教授 千葉大学環境リモートセンシング研究センター客員教授 理学博士
プロフィール・記事一覧

雲底から地上へ、竜巻がもたらすミステリー

竜巻は積乱雲の雲底から伸びる鉛直の渦であり、私たちはそれを「漏斗雲(ろうとぐも)」として確認することができます。雲底下で漏斗雲ができるのは、気圧の低下により水蒸気(気体)が雲粒(液体)に凝結するのが主な原因と考えられ、上空に雲を伴わない「つむじ風(塵旋風・じんせんぷう)」や「火災旋風」などとは区別されます。アメリカでは、中西部など内陸で発生する強い竜巻をトルネード、海上で発生する比較的弱い竜巻をスパウトといいます。

漏斗雲の直径は数10 mから数100 mと、大気現象としては非常に小さなスケールなのですが、人にとっては巨大な渦です。竜巻に伴う風速は、時として100 m/sを超えることもあり、想像を絶する被害が生じます。竜巻の強さを示すF(フジタ)スケールでF0(風速17~32 m/sに相当)、F1(風速33~49 m/s)のランクは“弱いトルネード”と呼ばれ、F1になると顕著な被害が目立ち始め、屋根瓦が飛んだり、窓ガラスが割れたりします。F2(風速50~69 m/s)の“強いトルネード”になると、屋根が剥がれたり、大木の倒木、列車の脱線などが生じます。F3(風速70~92 m/s)では、車が飛ばされたり、家屋の倒壊も始まります。アメリカでは、F4(風速93~116 m/s)やF5(風速117~142 m/s)ランクの竜巻も観測されます。F5は“想像外のトルネード”と呼ばれ、ミステリーが起こるといわれています。これは、巻き上げられた車、列車、牛や魚などが空から降ってくるという普通では考えられないことが起こるからです。2011年4月には、アメリカで1日に数10個もの竜巻が起こり、中にはF5クラスの竜巻も複数含まれていました。

アメリカでは「ミサイル」と恐れられる飛散物の破壊力

竜巻による被害は大きく二つの特徴があります。一つは、被害は甚大でかつ局所的であるという点。もう一つの特徴は飛散物です。竜巻の怖さは、単に強い風速で構造物が破壊されるだけでなく、破壊された物が飛散物として渦を巻き、次に家屋を破壊していくという負の連鎖が続く点にあります。写真は、北海道佐呂間町で竜巻が発生した翌朝に上空から被害域を撮影したものです。竜巻渦が通過した所は跡形もなくなっており、その近傍では屋根が吹き飛ばされ、剥がされるなど大きな被害が見られますが、少し離れた場所では軽微な被害、あるいは被害が全く見られません。写真でも広範囲に散乱した物体が見られますが、実際には重さが何kgもある木片やトタンなどです。このような木片が、家の壁を突き破る凶器となるケースも多く、そのため竜巻による飛散物は「ミサイル」と呼ばれ、恐れられています。

秋~冬、沿岸部で起きやすい、日本の竜巻発生頻度と分布

今まで、日本で発生した竜巻の大きな被害は、2005年12月25日に山形県酒田市で発生した竜巻(羽越線の列車横転で5人死亡)、2006年9月17日に台風接近時に宮崎県延岡市で発生した竜巻(3人死亡)、2006年11月7日に北海道佐呂間町で発生した竜巻(9人死亡)などがあります。昨年2011年11月18日に鹿児島県徳之島町で発生した竜巻では、住宅一軒が飛ばされ、中に居た3人の命が失われました。日本で発生した最も強い竜巻は、1990年12月11日に千葉県茂原市で発生したもので、ダンプカーが飛ばされるなど、被害ランクはF3と推定されています。

また、日本で竜巻が起こりやすい時期としては、月別の発生頻度(図1)を見ると、9月にピークがあり、10月、11月の初冬にかけて発生数が突出しています。これは、台風に伴う竜巻や寒気の南下に伴う竜巻が増加するためです。7月や8月の夏には毎日のように積乱雲が沸いて夕立があちこちで起こりますが、竜巻を生み出す積乱雲は少ないのです。アメリカで春から夏にかけての暖候期に竜巻の発生が集中するのとは大きく異なります。

日本の竜巻は、低気圧や台風、冬型など年間を通じてさまざまな原因で発生しています。また、わが国では多くの竜巻が海岸線、すなわち人口密集地域で発生しているのが特徴です。(図2)のマップは、1997年から2006年までの10年間で発生した250個の竜巻について、被害をもたらした竜巻を発生原因別に示したものです。台風に伴う竜巻の発生場所は、太平洋沿岸、特に宮崎県、高知県、愛知県に集中していることが分かります。冬季の竜巻は日本海沿岸に集中します。ところが、低気圧に伴う竜巻は北海道から沖縄まで季節を問わず発生しています。台風や冬季季節風下で発生する竜巻は特定の季節に特定の場所で発生しやすい一方で、低気圧が発達するのは一年間を通じて起こりますから、いつどこで竜巻が発生してもおかしくありません。実際に、茂原市の竜巻、佐呂間町の竜巻、徳之島町の竜巻は発達した低気圧の通過に伴い発生しました。

竜巻から身を守るためには

統計的に、日本でF3ランクの竜巻は10年に1度、F2ランクの竜巻は1年に1度の割合で発生しています。日本で発生する竜巻の多くは、F0からF1ランクの“弱いトルネード”ですが、今後F4やF5クラスの強い竜巻が発生しないとはいえません。

1人の人間が竜巻に遭遇する確率は、単純に計算すると1万年に1回程度といわれますが、一方で3年間で2回竜巻の被害に遭った家もあります。さらに日本でも竜巻の起こりやすい地域と起こりにくい地域があります(図2)。ですから、まず大切なのは、自分の住んでいる地域が竜巻の発生しやすい場所かどうかを知ることです。さらに竜巻の移動速度は、時速50 km/hを超えるような速いものが多く、気が付いてから逃げたのでは間に合いません。海岸に居た人が竜巻に巻き込まれて海に転落した事例もあります。また、建物の中に居ても被害に遭うケースが多いのも、竜巻の恐ろしさです。佐呂間町竜巻の事例では、屋外に居た人が逃げて助かり、屋内に居た人が被害に遭うという皮肉な結果となりました。徳之島町でも、自宅に居ながら犠牲となった竜巻被害が報告されています。人は、とかく屋根の下に居ると安心しがちですが、自分がどのような建物の中にいるか確認する必要があります。仮設構造物や強度の弱い住家などは、建物ごと飛ばされる可能性も少なくなく、たとえ強度の強い建物でもガラスが割れ室内で被害に遭うことも珍しくありません。避難場所に使われることの多い体育館でも、ガラスが割れ屋根が飛ばされるという被害が多く見られるため、特に老朽化した体育館は警戒が必要です。また、夜間就寝中に発生する竜巻に対する対策も今後の大きな課題といえるでしょう。

竜巻は短時間の局所的な現象ですが、竜巻の親雲である積乱雲に注意することで危険を回避することができます。発達した積乱雲、雷雨を伴った積乱雲、いつもと違う異様な雲を見たら、要注意です。最近は天気予報でも竜巻注意情報が出されるようになりましたから、気象情報と併せ、常に自分の目で見て判断する習慣が竜巻から身を守ることにつながります。

(2012年3月9日 更新)