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高波・高潮

第1回  不規則に来襲する波の性質

執筆者

佐藤 慎司
東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻教授
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一波ごとに異なる波の高さと周期

高波や高潮に対する防災を考える上では、まず波の性質を理解しておくことが重要です。海岸に繰り返し来襲する波の特性は、高さ、周期、波の向きなどで表すことができます。また、波の高さを「波高(はこう)」といい、波の峰の水位と谷の水位の差で表されます。峰と次の峰までの距離が「波長(はちょう)」で、ある地点を峰が通過してから次の峰が通過するまでの時間間隔が「周期」です。海の波はいつも不規則ですので、その高さや間隔は一波ごとに異なります。

では気象情報などで使われる波の高さはどのようにして決められるのでしょうか? 波の水位波形は海底に設置した水圧計や超音波を利用した水位計で計測されます。このようにして計測された不規則な波の列を個々の波に分割して、統計的に処理することで、波の高さや間隔が決定されるのです。個々の波の高さを、高い波から順番に並べ替えて、上位三分の一の波の平均を取ったものを有義波高(ゆうぎはこう)といいます。

例えば、一連の波を200波観測したとすれば、その中の波高の高い66波の波高を平均したものが有義波高です。計測器がない時代には、波の高さを目視で観測していましたが、有義波高は、目視観測で推定される波の高さとよく対応することから、波の高さの代表的な値として用いられることになりました。気象情報などでは特に断らない限り、有義波高で波の高さを表していますし、港の防波堤や海岸堤防の設計にも有義波高が用いられています。

有義波高は、一連の波の中で高さが高い方から三分の一の波の平均値ですから、高めの波の平均値ということになります。したがって、有義波高はすべての波の高さの平均値(平均波高)より高くなり、通常、有義波高は平均波高の1.6倍になります。また、有義波高は最大の波の高さではないので、これを超える波が必ず存在し、通常の波浪条件では、8波に1波程度は有義波高を超える高さの波が出現します。

風速が増すほど、波も大きくなる

通常、私たちが海岸で見る波は、風の作用で発達する「波浪」で、周期は数秒から十数秒程度です。海の波には「波浪」のほかに、月や太陽からの万有引力により引き起こされる「潮汐(ちょうせき)」、台風などの気象擾乱(じょうらん)により発達する「高潮」、地震や海底地滑りなどで発生する「津波」などがあり、この順で周期が短くなります。「潮汐」の周期は数時間、高潮の周期は2~3時間、津波の周期は数十分程度です。

波高や波の周期は、風が吹いている風域の風速と大きさで変化します。風の吹く方向への風域の長さを吹送距離と呼び、この長さが長いほど、波が大きく発達することになります。また風速が強く増すほど波が発達し、波高が大きく、周期が長くなります。実際には風速も吹送距離も時々刻々と変化しますので、波浪予測では数値モデルにより波の発達を計算する手法が用いられています。

風域の中で発達する波は、さまざまな吹送距離で発達した波が重なり合っているので、波高や周期は不規則です。このような波を風波(ふうは)と呼びます。さまざまな周期の波が重なり合っているので、一般に周期は短く、波の形もギザギザしています。

高さ、周期、進む方向も不規則

波の周期は高さほど不規則ではありませんが、高さと同様の方法で算出した代表値(有義波周期)を用いて表します。波の峰から峰までの距離である波長は、周期が長くなるほど長くなります。周期が10秒の波の波長は水深によって異なりますが、100メートル程度です。波長を周期で除したものが波の速さで、周期が長い波ほどスピードが速くなり、これも水深によりますが、周期10秒の波のスピードは毎秒10メートルより少し速い程度です。

波は高さや周期に加えてその進む方向(波向、なみむき)も不規則です。海岸の近くでは、波向がそろってくるので、海岸と平行な波の峰線が観察されますが、水深の深い沖合の海では、波高、周期、波向きのそれぞれが不規則な波が重なり合っているため、波の峰線を識別できないような不規則な波が観察されることもあります。

突然来襲する「うねり」に注意

波の伝ぱ速度は周期の長い波ほど速いので、風域から外へと伝ぱしていく波は、周期の長い波が波群の先頭になり、周期の短い波は遅れて伝ぱすることになります。したがって、風域から遠く離れた海域には、まず周期の長い波から順に到達することになります。最初に到達する周期の長い波は、「うねり」と呼ばれます。「うねり」は、周期の長い波のみがそろった波なので、規則的な波に近く、波の形も丸っこくなります。夏の終わりに見られる土用波は典型的な「うねり」で、天候が穏やかな海岸に不意に来襲する場合があるので、注意が必要です。

2008年2月に佐渡島や富山湾に来襲した高波は日本海の北端部から長い吹送距離を経て発達したうねり性波浪で、周期が15秒にもなる長い波でした。富山湾では、気象条件によっては天気が良い日にもこのようなうねり性波浪が海岸に突然来襲することが知られており、このような波は「寄りまわり波」とも呼ばれ、被害をもたらす波として十分な注意が必要です。

(2012年3月9日 更新)