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火災・防火対策

第1回  住宅の防火安全

執筆者

山田 常圭
東京大学大学院都市工学専攻 消防防災科学技術寄付講座 特任教授 工学博士
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住宅火災の実態

冬晴れが続き、乾燥した季節になると決まって、『○○住宅で火災が発生、逃げ遅れた高齢者(あるいは留守番をしていた幼い子供ら)が焼死体で発見された』という痛ましいニュースが流れてきます。消防白書によると、平成22 年中の建物火災による死者1,314 人のうち、住宅での死者は1,186人と、全体の9割を占めています。またその中でも81 歳以上の高齢者の死亡率は、全年齢階層での平均0.80 人に比べ5 倍も高くなっています。今後、高齢者世帯が増えていくとますます焼死者が増えるのではないかと懸念されますが、火災の安全対策は十分なのでしょうか? またどうすればわが身を住宅火災から守れるのでしょうか?

住宅火災でどのように人は亡くなるのか?

住宅火災では、深夜就寝中に発生した火災に気付くのが遅れ、逃げ遅れて亡くなっているケースが多く見られます。出火元としては、ストーブやたばこ、電気器具が挙げられ、いわゆる失火から衣類や寝具など身の回りのものへ二次着火し、延焼拡大という経過をたどる例が住宅火災の典型です。また最近では、老朽化した電気器具やたこ足配線といった不適切な使用による火災も少なくありません。まずは身の回りの火気管理をすることが重要なのは、今も昔も同じです。

一方、高齢者にあっては、聴力や運動能力の低下により火災発生時の対応が遅れることから犠牲者が多いのではないかと思われますが、火災全般を見ると、住環境の変化による火災性状の変化も、逃げ遅れの一因になっているのではないかと考えられます。

住宅の省エネルギー化による建物の高断熱、高気密化によって、室内火災でフラッシュオーバ(FO:flashover)と呼ばれる急速な燃焼(後述)が起きやすく、煙が室内に急速に充満しやすい条件も整ってきています。またさらに、住宅内での個室化は火災発生時の異変としてのにおいも、物音にも気付きにくくなってきています。昔風の立てつけの悪い建物ですと、隙間から漏れてきた煙の異臭や、パチパチという物音で火災にいち早く気付き、雨戸を蹴破って避難すれば命は助かったのですが、昨今の建物では、こうしたことができなくなってきているのです。

住宅火災から生き延びるための火災現象の正しい理解

災害に備えるには、その災害の様相について正しく理解しイメージできることが重要といわれています。火災は災害の中でも、現象が理解しやすく、対策も比較的容易で、イメージしやすいのではないかと思われますが、それでも一般の人々にとって火災に遭遇する機会が減ってきているので、必ずしも十分な理解がされているわけではありません。住宅火災から身を守る上で、特に知っておいてほしいのは、火災の成長は緩慢な変化ではなく、急激にその様相が変化するという点です。

火災のごく初期には、出火源や隣接する着火物など、局所的な燃焼が徐々に拡大していきますが、ある時点を超えると急速に燃焼が進み、瞬く間に部屋全体が炎に包まれるという現象が見られます。これが先述のFOと呼ばれるものです。これを境に発生する黒煙には、毒性の高い一酸化炭素が含まれ、酸素も欠乏しているので、吸ったらひとたまりもありません。 住宅火災では、天井に火が回るとFOが起きやすくなるので、一つの目安として、天井に火が届くような状態になったら、まず何よりも避難することが肝要です。また、煙は高温で軽くなっており、階段を伝って上の階に急速に広がっていくため、上階の人が危険にさらされます。避難の際には、火災室の扉を必ず閉めましょう。それには、空気の供給を抑制し火災の成長を遅らせるとともに、住宅内での煙の拡散を遅らせるという安全上重要な意味があるのです。

住宅の防火安全対策

いこいの場であるわが家で火災が発生し、貴重な思い出の品々が、またさらには人命までもが文字通り灰じんに帰すということは想像するだけで背筋が凍りつく気がします。それでは各戸で何か具体的な対策をしているかとなると、火災は滅多に起こらない、ひと事の災害だと思っている人が多いのではないでしょうか。 

『火災は人災、防ぐはあなた』という標語がありますが、どう防ぐかは教えてくれていません。伝統的な住宅の防火対策では、火気管理、いわゆる『火の用心』がほとんどでした。そのせいか消防法等によって防火対策が進められてきた病院など他の用途の火災危険に比べて、一般住宅の防火安全だけが取り残されてしまった観がありました。しかし、平成16年の消防法の改正で、住宅用の火災警報器の設置が義務づけられ、普及が進んできました。

これは、火災に気付くのが遅れ、その後逃げ遅れて亡くなるという、現代の住宅火災から生命を守る上では非常に重要な対策です。また早めに感知すれば、その分、初期消火が奏功し財産を救うこともできるのです。消防白書によると全国平均の設置率は7割(平成23年6月)ですが、より一層の普及が望まれています。

住宅火災でもう一つ重要なのは、初期の火災をどのように抑制することができるかです。いったんFOになってしまったら、家族での対応には限界があります。前にも述べたように住宅火災では、こんろやストーブから周囲の衣類や寝具、カーテンなどに着火延焼することがしばしば起きています。特にカーテンに火がつき燃え上がると、天井にまで急速に拡大しFOの発生時期が早まります。こうした燃えやすい調度品に防炎処理を施したものを使用すると、万一、接炎した場合でも火災の進展を遅らせ初期消火できるチャンスが生まれてきます。冬、乾燥すると火災が増えると冒頭で書きましたが、わずかな湿度の違いによって、火事に至るかどうかは紙一重なのです。防炎処理された調度品は、湿度の差以上に、着火・延焼拡大の連鎖を抑制するのに役立つものとして今後の普及が望まれています。

最後になりますが、住宅内で火気管理にいくら気をつけていても電化製品の不具合や放火等、思わぬ所から出火する可能性はゼロではありません。不運にも、火災に遭遇してしまった時どうすべきか? 家族の生命、財産を守るため、避難、初期消火、119番通報など、家庭内の防火訓練を一度行ってみてはいかがでしょう。

(2012年3月9日 更新)