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建物被害

第1回  皆さまの住宅や学校、病院の耐震診断、耐震改修を進めて下さい

執筆者

和田 章
東京工業大学名誉教授 社団法人日本建築学会会長 工学博士
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災害の教訓をもとに耐震基準を整備

日本のように世界でも最も多くの地震に見舞われている国でも、ある地に注目したとき、そこを襲う大きな地震は非常にまれにしか起こりませんから、その地に建てられている建築物が今まで健在だったからといっても、そのまま使い住み続けていてよいかどうか心配になります。最も分からないことは、いつどれほどの大きさの地震が起きるかということですが、大地震は非常にまれにしか起こらないから何も対処しない、この考えが最も危険です。ほとんどの大震災は、今日まで大丈夫だったから、明日も大丈夫だと考え、何も対策をしてこなかったことが原因で起きています。 2011年3月11日の東日本大震災の大津波による悲惨な災害も同じように考えられます。

耐震技術に限らず、今の文明を支える多くの技術は、失敗から教訓を得て学び、進んできたといえます。わが国は関東大震災の翌年の1924年に世界に先駆けて耐震基準を法律に組み込み、戦後の1950年に建築基準法を制定、1981年に新たな知見を取り入れた新耐震設計法の施行、1995の阪神大震災からの教訓をもとに2000年に建築基準法を改正するなど、国内外で起きた多くの地震災害から得た教訓をもとに、耐震基準を整備しています。これに重ねて重要なことは、やはり震災を教訓に、新しい材料、構造技術の開発、実験、数値解析の技術に支えられ、多くの研究者、構造設計者がより高い性能の耐震構造を求め、国際的な協力もしつつ、新しい耐震構造技術の開発と構造設計を続けていることがあります。代表的な構造技術には、免震構造と制振構造があります。

現在の日本の耐震基準と津波対策との共通点

奈良の法隆寺のように1000年を超えて現存する建築もありますが、普通の建築物はおおよそ数十年の寿命で作り直されています。日本の耐震基準では、この建物の寿命の間に一度か二度は受けると考えられる大きさの地震の揺れに対しては、構造物に小さなひび割れが生じることを許容しますが、建物自体は続けて使えるように作ることを第一レベルと考えています。

しかし、その建物の建っている地を500年に一度襲うような大きな地震の揺れに対しては、構造物が大きく揺れ、場合によっては傾いたままになっても仕方ないと考えています。ただ、中にいる人々の命を守るために、建物が完全に倒壊してしまうことがないように建設する。これを日本の耐震基準の第二レベルと考えています。

2011年3月に起きた東日本大震災のあと、政府は今後の津波対策として、数十年に一度のレベル1の津波には防潮堤で抵抗するが、数百年に一度のレベル2の大津波には、人命保護を第一に考えて、高台に逃げる方法、津波避難ビルに逃げ上がる方法を提案しました。1981年に施行された日本の耐震基準はこの方法と共通の考え方であり、人の力で自然の猛威をすべて受け止め、これに完全に打ち勝つのは難しい、極力減災に努力し、人命を失うことのないようにしようとする考え方です。

最新の知見で耐震性の診断が必要

一般の工業製品に比べ、建築物の寿命は短くても20年、長いものでは100年以上のものもありますから、あらためていうまでもなく、上記の最新の知見に基づかずに設計・施工された建築物が多く現存しています。特に1981年以前に設計され建設された建築の場合、これらの耐震性を診断し、耐震性が不足する場合には耐震改修を進めることが必須です。

1981年以降に建設された建築でも、現行の耐震基準はレベル2の地震動に対しては、建物を続けて使えるようにとは考えられていません。少なくとも、中にいる人々の命を守ろうとしていますが、建物は使えなくなり、取り壊すことになることもあり得ます。要するに最低の規準といえます。例えば、消防署、警察、防災センターを含む官庁施設や病院は、大きな地震のあとに機能を維持しなければなりません。これより、何万人の人々がそれぞれ住む家を失うことの方が大問題かもしれません。このように考え、数百年に一度の大地震を受けても、続けて使い、住み続けることのできる建築構造への要求も高まっています。さらに高い耐震性を望むのであれば、1981年以降に建設された建築でも、免震構造の利用、制振構造などの新しい技術を用いて耐震改修をすることもあり得ます。

東日本大震災でも耐震補強の効果を発揮

2012年3月11日の大震災では大きな津波による悲惨な災害が大きな問題になっていますが、東北地方の建築物について、事前に耐震補強を行っていた建築が多くあり、耐震改修の効果が多くの建築で発揮されました。皆さまがお住まいの住宅、学校、病院、会社についても、耐震診断、必要な場合には耐震改修をぜひ行ってほしいと思います。

(2012年3月9日 更新)