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地震の揺れと長周期地震動

第1回  地震の揺れとは?

執筆者

纐纈 一起
東京大学地震研究所教授 同所広報アウトリーチ室兼任 理学博士
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3.11の地震についた二つの名前

昨年3月11日の大地震が発生した1時間半後、気象庁は次のような報道発表をしました。「平成23 年3 月11 日14 時46 分頃に三陸沖で発生した地震について、気象庁はこの地震を『平成23 年(2011 年)東北地方太平洋沖地震』と命名しました」。その後、大地震からちょうど3週間たった4月1日の記者会見で、当時の菅内閣総理大臣が「先ほどの持回り閣議で、今回の震災について『東日本大震災』と呼ぶことを決定をいたしました」と発表しました。つまり、政府内の二つの機関、気象庁と内閣が昨年3月11日の出来事に対して別々の名前を付けていることになります。

これはかなり不思議なことですが、実は全く同じものに対して別々の名前を付けているわけではありません。東北地方太平洋沖地震はこの日に起きた自然現象の名前であり、東日本大震災はこの自然現象により起こってしまった大災害の名前なのです。さらに言えば、気象庁の報道発表にあるように、東北地方太平洋沖地震は自然現象のうちでも「三陸沖で発生した」自然現象を指しているのです。陸地に大変な被害をもたらした津波でも揺れでもなく、それらが生まれた太平洋の沖合で起こっている大本の現象を「地震」と呼びます。

揺れと地震動・地震波

ところが、地震という言葉を字面通り解釈すれば地面が震える(揺れる)現象ですし、実際、テレビに現れる地震情報は「ただいま関東地方で地震がありました」などとアナウンスされますが、ここでの地震は揺れを意味しているように聞こえます。これでは混乱してしまうので、揺れを意味するときは「動」の一文字を追加して「地震動」と呼ぶことになっています。また、「地震」による揺れを、日常の海で見られる波と同じようなものと考えれば「地震波」と呼ぶことも可能でしょう。

地震波の伝わる速度は岩盤では秒速数km以上になります。たとえば、地表に最も近い岩盤は地殻と呼ばれますが、その上部では地震波は秒速6 km程度の速度で伝わります。これを時速に直せば21,600 kmに達し、最高時速約300 kmの新幹線と比べ72倍もの速さです。したがって、地震波や地震動は地震により起こる現象の中でも、最も早く現れる現象です。(図1)は、岩手県釜石市沖に設置されていた東京大学地震研究所の海底ケーブルシステムが観測した、東北地方太平洋沖地震の津波の記録です。大きな津波の波形の先頭部分、地震が発生した14時46分の直後に小刻みなギザギザが見えます。これは実は、海底を伝わって津波より早く到達した地震波、つまり地震の揺れでした。

揺れの発生

プレートのぶつかり合い、または押されながらのすれ違いが原動力となって、プレート同士の境界やプレート内部の活断層で、両側の岩盤がずれることにより地震が起こります。このずれが地球の内部に力を及ぼし、その結果、地震波(地震の揺れ)が発生します。地球は、地震のような速い動きの力に対して、ゴムひもやバネと同じようにふるまいます。ゴムひもやバネは加わった力に比例して変形しますが、この変形が揺れなのです。

ゴムひもやバネのような単純な形ならば、この中での揺れの伝わり方も単純で、伝わる速度も力と変形の比例定数から簡単に決まります。ところが、地球は三次元的な広がりを持っているので、2種類の比例関係が存在します。その結果として揺れの伝わり方(地震波)も2種類あり、地球の伸び縮み変形に伴って発生する、伝わる方向に平行な揺れの地震波をP波、ねじれ変形に伴って発生する、伝わる方向に垂直な揺れの地震波をS波と呼びます。また、P波とS波を併せて実体波と呼ぶこともあります。これに対して、浅い地震の場合、S波から派生して表面波と呼ばれる、地表面に沿って伝わる地震波が現れることが多くなります。

揺れの伝わり方

深さ30 kmの地震に対するコンピュータシミュレーションの結果、(図2)から分かるように、S波(緑色)の速度はどこでもP波(赤色)の速度より遅く、表面波(S波に続く緑色)の速度はさらに遅くてS波速度の90~95%程度です。たとえば、P波速度が6 km/秒程度の地殻上部では、S波速度は3.5 km/秒程度しかない。こうしたP波やS波、表面波が地球内部や地表近くを伝播した(伝わった)結果、地球上の各地では図2のような地震動(地震の揺れ)に見舞われます。地震は断層でのずれ変形であるので、伸び縮み成分よりねじれ成分を多く生じさせ、それに伴って一般にS波や表面波の地震動の方がP波の地震動より大きくなります。なお、ここで地震動の波形は、震央(地震の震源の直上の地点)から各地点まで地表面に沿って測った距離(震央距離)ごとに描かれており、震央距離は地球の円周上の角度(1度が約100 km)で表されています。

(参考文献)
古村孝志 (2003), 境界面における地震波の反射・透過・屈折現象, 地球内部を地震波が伝わる様子のシミュレーション, 「THE 地震展」, 読売新聞東京本社, 52-72.

(2012年3月9日 更新)